3月14日はパイの日、ということで…手作り(17)『キッシュロレーヌ』/日本パイ協会

3月14日、パイの日。さあ、いよいよ第20回目の「3.14=π(パイ)の日R」キャンペーンとなる。20年、パイを食べつづけ、これぞというパイを紹介して来た20年だった。
ということで、恒例の手作りパイへの挑戦。なかなかコロナ禍が収まらないし、これからもさまざまな感染症に襲われる時代に突入したと考えるべきなのだろう。今後“家呑み”の機会も増えそうなので、今回は酒のアテ作り。そう、キッシュに挑戦してみた。
参考にしたルセットは我が家に古くからある家庭画報別冊「人気のビストロフレンチ」。王道のビストロ料理を家庭で再現できるルセットになっているので重宝している。(※書き手クボタ)

●『キッシュロレーヌ』  径18cm 高さ3.2cm 600gほど。
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生地はパータフォンセ。ルセットでは砂糖も入っていたが、そこだけパス。薄力粉170g、無塩バター100g、塩3g。卵黄半個、水40cc。
まず粉に塩を混ぜ、そこへバターを細かくちぎって投入。粉をまぶして指先でバターを潰してさらに粉と一体化させつつ、どんどんバターの粒を細かくするサブラージュを丁寧に。ほぼ砂状になったら卵黄と水を回し掛け、全体に水分が均一に行き渡るようにして一塊のボールに。
フィユタージュの時と違って、とくに生地を休ませる必要はない。そのまま型に敷き込むサイズに延ばしてもいいが、少しだけでも層らしいものが欲しくて3ツ折りを2回加えた。18cm型にフォンサージュして、クッキングシートを被せて重石を載せ空焼き。180℃で30分。

焼いている間にフィリング作り。ルセットではベーコンとハムだったが、ベーコン100gとタマネギスライス半個分に変更。フライパンでタマネギが軽く色付く程度に炒めておく。アパレイユは生クリーム200ccと牛乳120cc、卵1個、卵黄1個半。軽く塩胡椒、気持ちナツメグ。
空焼きした生地にすべてを入れて、最後にパルミジャーノレッジャーノをごしごし削って粉末をたっぷり(家にはこのチーズしかなかったので)。今度は180℃で25分。天板は上段に移す。

こんがりときれいな焼き上がり。生地の縁が分厚いのはキッシュ型がなく浅いパイ型を使ったため、生地の高さを出すために、生地の縁を切り落とさず、背を立てたまま焼いたから。熱でクニャリと外側に倒れるけれど、少し背が高くなり、容積を稼げたという訳。
焼いている間から部屋中に広がるいい香りに包まれ、高まる期待。
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切り分けていざ一口。うははっ、旨い! いつもの書き手シビアなイワモトも「お客様に出してもいいかも、今回だけは」と珍しくお墨付きをくれた。
生地は薄力なので軽快、サクサクの食感。バターがよく香って、アパレイユの旨味を品よく包み込んでくれる。余った生地も焼いて、単独で食べてみたが、十分にアテになる。我ながら上出来。
アパレイユは塩は控えめにしたつもりだが、十分に利いていて、生クリームのたっぷりとしたコクを旨いと感じさせている。上等とは言えない安物ベーコンだったが、タマネギを加えたことで持ち味を最大限に発揮させることが出来た。
アパレイユの牛乳や卵の量で焼き時間が微妙に変わるし、1台の生地の中でも火の通り具合に差が出るので、必ず竹串を刺して、完全に煮えているかどうかの確認が必要。焼き時間は2度延長することになったが、17回目の手作りにして初の大成功、継続は力なり。

キッシュはやっぱりワインが合うね。でも、アパレイユに和風出汁を加え、ほんの少し醤油の香り付けをするだけで、お箸で食べるお晩菜にもなってくれる。冷めても美味しいが、リベイクできるし、覚えておくと心強い味方になってくれる損のない技だ。みなさんもぜひ。

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ここからは、イワモトによる毎年恒例の雑記です。
今回は、コロナ禍真っ只中における、キャンペーンとなりました。秋のご参加店へのご挨拶、そして1月下旬からの各店の取材、とほぼ半年近く動いています。
まずは、無事遂行できたことにほっと安堵するとともに、ご参加店の皆さま、お客さまたちへの感謝の気持ちでいっぱいです。
ウハウハ儲かるキャンペーンではなく、パイの美味しさ・楽しさを広める啓蒙キャンペーンにも関わらず、ご参加店のシェフたちは年々熱く取り組んでくれています。私たちはただ“パイが好き”“職人さんが好き”という気持ちしかありませんので、あまりの甘ちゃんぶりにまわりの方々が盛り立ててくださるのかもしれませんね。深謝。

このキャンペーンを通じて、毎年何十人というシェフたちの生の声を聞いています。今年に限ってというわけではありませんが、私たちなりに思うことがありました。
それは、お客とお店との関係。良好な関係ならばいいのですが、そうではないことも当然ながらありますよね。そのお店の味や接客が好みでなければ、行かなければいいのです。が、日々の鬱憤の捌け口とばかり、匿名で言いたい放題、というネット社会は年々激しくなってきているし、現実世界でも、お客様は神様だと思っているとしかとれない言動も。自分の気に入らないと対象を全否定するような、なんとも不寛容な世の中ですね。
ただ、すべてのシェフが同じ捉え方ではありません。なるほどそういう感じ方もあるのだなと全然気にしない意気軒高タイプもいらっしゃるし、つとめて気にしないようにしたり、一切ネットを見ないようにしている人もいるし、その言葉に負けないよう奮起している人、時折心がざわつくんですよと悩みのひとつとなっている人も、じつにさまざま。
たしかに、他人から傷つけられないで生きていくことはできないし、自分も他人を傷つけてしまう(意図せずにでも)こともあり、それが人生ではあるとみなさん重々承知しているはずですが、あまりの節度のなさに呆れてしまう気持ちもよく解ります。
pienohi_tsubaki2021.jpgどう思いますか? とよく聞かれるので「自意識だだ漏れの単なる誹謗中傷(批判批評にはなっていません)だし、第一、自分は匿名という安全圏にいて、店名は実名出しているのだからフェアじゃないので、無視していいのでは」と答えていました。そうは言っても、無視できないのが人情。そのことについて、話し合う場も与えられないし日々の仕事に忙殺されてなにもできないまま、それが今のシェフたちの立ち位置です。彼・彼女らは職人さんとしての腕はピカ一ですが、ごく普通の市井の人なのです。

もちろん、ネット世界になってから、応援してくれるファンが確実に増えているでしょうし、その他にも恩恵を受けることも多々あるでしょう。誰もこの流れを止めることはできそうにもありません。
が、大企業ならまだしも、一人で、はたまた、ご夫婦二人だけで、スタッフ一人を雇って、というような個人経営ならば、そのちょっとした言葉のつもりでも、時には突風に感じることもあるでしょう。大げさに言えば、店や人生すら潰しかねない時代、私たちはそういう時代に生きているという自覚が必要ではないでしょうか(自戒を込めて)。
どうしても伝えたいことがあるのなら、大人の流儀として、うまい伝え方=表現方法をもっと工夫してみてはどうでしょう。または、シェフと直接会って話す、という方法もあります。シェフだって聞く耳はあるでしょう。

といったこともあって、私たちは超々微力ですが、「パイの日のキャンペーン」で、そしてポジティヴな価値観を伝える「パイ日和」というこのブログで、お店を応援していきたいと思っています。お店の努力を深く知ってしまえばしまうほど、その想いは年々強くなりました。
私たちの活動で現状の残念な風潮を消せるわけではありません。流れを変えるパワーもありません。私たちはただ、文章で支援することしかできませんが、折れた心を接ぐことができたらいいな、ちゃんと見ている人がいることを分かってくれたらいいな、少しは元気になってくれたらいいな。さらに、こんなに頑張っているならいっちょ店へ行って買ってみるか、美味しそうだし、と思うお客さまが少しでも増えてくれたなら。
そんなことを願いながら、毎年、過ごしています。いまは、じっと目を凝らさなければ見つからない湧き水のような小さな規模のキャンペーンですが、いつか大河に育てなきゃね。
でもほら、湧き水って、清らかで美味しいでしょ。なーんて、へこたれない私たちです。

取材を始める1月下旬から、苦楽園界隈は蝋梅の薫りにうっとりし、紅梅白梅が咲き、水仙も可憐な姿で立っていました。そうそう、木瓜の紅い花も。2月下旬になると、沈丁花の静かな薫りにハッとし、例年よりも早く黄色のミモザが咲きこぼれ、草の芽吹く独特の匂いが街中を漂いました。キャンペーン前には辛夷のアイボリー色が目に優しく届き、雪柳が乱れ、椿の花が地に散らばり、たどたどしい鶯の初音、嗚呼~春の足音がだんだんと …… 。
本日3月14日、パイの日、皆さまにとってごきげんな一日になりますように。
そして、いつも拙文におつきあいいただき、ありがとうございます!

●『キッシュロレーヌ』  費用1000円弱くらい
●「日本パイ協会」 兵庫県西宮市在住