アグレアーブル(11)『サントノーレ』

京都、御所南にある「パティスリー アグレアーブル」さん。遠方からの観光客も来られていますが、地元の食べ歩きの達人たちに熱烈に愛されているお店です。
フランス修業歴の長いシェフの加藤晃生さん(1971年生)と、かをるさんご夫婦がいつも分け隔てなく優しい笑顔で迎えてくれます。お菓子を買う愉しさ、あたたかな雰囲気。なぜか、空気が丸いのです。
パティスリーに限らずお店とは本来、味はもちろんですが、接客・コミュニケーションも大事な要。どちらも揃っているのはかなり稀なことなのです。そういったことが支持されている理由の一つではないでしょうか。

が、もちろんそれだけではありません。お二人ほど人の個性というものを中心に考える人は少ないでしょう。自分たちの個性を大切にするからこそ、お客様の個性も尊重し、必要以上に踏み込まないし、意気投合すれば親しくする。その間合いが絶妙で、ご夫婦と付き合っていると、個性とはコミュニケーション力によって磨かれるのだなとつくづく思わせられます。
今回も来訪予定を連絡していたので、不定期に作っている『サントノーレ』を「“パイ日和さん”が来はんねんから」と用意してくれていたのです。フランス菓子のサントノーレ、底生地にフォンセを敷いているので、シュー菓子のようでいてパイ菓子でもあるのです。まあ、何という心ばせでしょう。優しいなぁ、心の中でうれし涙を流しながら、ありがたくいただきました。

●『サントノーレ』  径5.5cm 高さ8.5cmほど。
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あぁ、この立ち姿、エレガントです。しばし、うっとりと眺めてしまいました。
フォンセの上に、クレームディプロマット(いつも通りマダガスカル&タヒチ産のヴァニラ入り)を詰めた飴がけのプチショーを3つ規則正しく並べています。中心にディプロマットをぼってり垂らし、プチシューの間を埋めるように、星口金でクレームシャンティをキリッと絞り(この線が流麗なのですよ)、最後に丸く水平に一絞り。トップにもう一つプチシュー。

なお、このクリーム、河田シェフのレシピ本が出回った頃、若手のシェフにシブーストクリーム(サントノーレクリーム)を使う人が時折見受けられたのを覚えていませんか。加藤シェフはパリの「ジェラール・ミュロ」で長年修業していましたが、そこでもクリームはシャンティだったとか。最近では本場パリでもシブーストクリームは減っていて、注文が入ったときくらいとのこと。ほとんどがシャンティだそうです。
そしてこちらの『サントノーレ』の魅力を高めているのは、生クリーム。タカナシ乳業の北海道シリーズ乳脂肪47%が使われています。乳の香りが高く魅力的な生クリームなのですが、脂肪分の高いクリームは立てると脂肪の粒子同士がくっつきやすく、すぐにパサ付いてしまう。難しいので敬遠するシェフもおられるようですね。生クリーム、牛乳、バターを北海道シリーズで揃えているのは全国でも数軒のみなのだとか。美味しい素材を揃えるにも技術の前提が必要だということです。閑話休題。

うーむ、やっぱり古典菓子の姿は美しいですね。受け継がれてきた重みが違います。
クリームをた~っぷりつけて、飴がけプチシューを口へ運ぶ。思わず微笑んでしまいます。
艶々のカラメリゼは泣かないようにと2度付け。少しハードなカラメルをカリカリッと痛快に噛み砕くと、カラメルのほろ苦さとディプロマットやシャンティのクリーム類の甘さがぴったりと寄り添っています。シュー生地の香りを楽しむころには、ん、フォンセの香ばしさやほのかな塩気も追いかけてきます。うんうん、フォンセも只の土台ではなく、味の重要なパーツなのが分かりますね。
これこれ、たっぷりのクリームの温和な世界に、生地の風味の良さが並び立つ感覚。そこへカリッとしたフォルテ的な強い食感のカラメリゼ、そのコントラストの妙。ふうぅ。
これぞ古典のオーソドックス。規範ですね。教科書のように正確に出来ていて、軽々とその域を超えてマスターピースに仕立て上げてしまう、凄技。現代の名工、匠と呼びたくなりますね。

古典を伝えてくれるシェフがいるからこそ、若い人たちがいろいろ冒険的なアレンジを試みる意味が測れるというもの。ありがたい存在です。
そういうシェフに出会うことは、若手にとって単に出会うだけではなくて、ひいては「自分とは何者なのか」「自分はどうしたいのか」という深い自分と出会うチャンスを与えられていることになるのだと思うのですが…。

●『サントノーレ』500円  (※内税)
●「パティスリー アグレアーブル」
 京都市中京区夷川通高倉東入ル天守町75-7  TEL075-231-9005  定休日/不定休  営業時間/10:00~20:00(売切次第)
※ブログ「パイ日和おまけ」では、こちらのお店のプチガトー、ケック、チョコレートをご紹介しています。