新店登場! パティスリーココロ(1)『シブーストポム』『自然農法の柑橘タルト』『塩キャラメルナッツタルト』

兵庫県西宮市、阪急神戸線・西宮北口駅の北西2kmほどのところにある「patisserie COCORO 」さん。2019年9月オープンの新しいお店です。オフホワイトを基調にしたウッディーでお洒落なカフェ空間はとても清々しく、シェフご夫妻の心を映しているよう。
シェフは野口育恵さん(1979年生)。辻製菓で主にドイツ菓子を習った後、高島屋が経営していた「パイファクトリー」(懐かしいなぁ。私たちの古いお菓子ファイルを見てみると、92年と95年に『レモンシフォンパイ、桃のミルフィーユ、桃のタルトレット、カルヴァドス、胡桃とチョコのタルト』など食べていました)に勤め、フランス菓子も身に付けたそうです。体調を崩していったんリタイアして、不動産会社や辻製菓で事務も経験。その不動産会社で知り合ったご主人智邦さん(1979年生)と結婚。出産、子育ての後、天満でご主人の言によれば“知る人ぞ知る”ごく小さなお店を続けていたそうです。
ご主人は不動産の役員まで勤めていたそうですが、今回、きっぱり仕事を辞め、地道なお菓子のお店の経営を担うことで、シェフにお菓子作りに専念してもらおうという、覚悟の出発となったのでした。二人で伴に歩み始めています。
その甲斐あってオープン半年にして、お店はすでに賑わいを見せています。私たちが滞在している小一時間に若い女性が6組ほど来店していましたし(半数はカフェ利用)、すでに雑誌にも紹介されていて、来月にはテレビも。百貨店のイベントにも呼ばれ、スタートは好調です。

名店、有名店での修業経験者が数多いる昨今、キャリアは特筆するものではありませんが、リタイア期間があったにもかかわらず、こつこつと独学を重ねてきた熱意が並んだお菓子から伝わってくるのでした。
そして育恵さんから「私のお菓子を食べてもらいたいというより、優れた農家さんが育てた農産物の本当の美味しさが知られずに終わってしまうのがもったいなくて。その美味しさを広めるお手伝いができれば、という気持ちでお店を開きました」という奥床しくも心根の美しい言葉を聞かせてもらいました。“まず自分ありき、どうやって自分自身をアピールするか”に心を砕いている若手のパティシエとは一線を画していますね。
お店の外観や空間は、今時の若い女性が喜ぶような素敵なカフェ風です。そういったところは、お洒落重視で味は二の次、のことが多いものです。
が、違いました。お二人とも真摯な気持ちでお菓子と向き合っておられるのが、よくわかります。一つひとつのお菓子もその言葉を裏付けるように、素直で素材の持てる力を存分に発揮させているものばかり。さぁ、歓びとともに味わったお菓子をご紹介していきましょう。


●『シブーストポム』  径5.5cm 高さ5.5cmほど。
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フォンセ生地に、バターと蜂蜜でソテーした紅玉を薄く敷き、同じ紅玉ソテーを射込んだシブーストクリームを載せ、トップをカラメリゼしてからナパージュヌートル(ん? アプリコットに感じましたが…)。底の周囲にクルミのダイスを張り付け、トップにもクルミ、ピスタチオ、セミドライの林檎を飾っています。
シブーストに使われているカスタードの卵は、京都・伊根の「三野養鶏所」のもの(ブログ「パイ日和おまけ」のプリンの項で詳しくご紹介)。そして紅玉は、信州安曇野の「まるちゃん農園」が手塩に掛けたもの。

シブーストはフィルムを巻かなくても自立するほどにメレンゲが強く(ゼラチンも多め?)、ふっくらとした口当たりが魅力です。
注目すべきは、やはり林檎です。近年、紅玉の力が落ちてきていて、なかなか美味しいものに出会いませんが、一口食べて、「わっ美味しいっ!」と目が輝いてしまいました。こんなことってめったにないですよ。シェフ自ら農園に出掛けて、生産の現場を確認し全幅の信頼を置いて取り寄せている紅玉なのだそうです。

うーむ、この味を知ってしまうと、シーズンの盛りにアップルパイを食べたくなるよぉ。
林檎の清々しい甘酸っぱさにコク、シブーストクリームのふわふわしつつ豊満な味わいをやや塩気を感じるフォンセが引き締めています。繰り返し、食べたくなるシブーストですね。


●『自然農法の柑橘タルト』  辺8.5cm 高さ4cm 100gほど。
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柑橘が美味しそうに輝いています。まっ先にお勧めしてくれたのが、このタルトでした。
パートシュクレにクレームダマンド、マスカルポーネのクリームを敷いた上に、鹿児島の「ながさき農園」の柑橘をフレッシュのままこんもりと。杏のナパージュは柑橘の酸味を抑えるためだそうです。そしてカカオニブをぱらり。

ザクザクとやや堅めながら香りを放ちながら気持ちよく崩れてくれるシュクレと、たっぷりとした旨味を湛えているダマンドに気持ちを奪われそうになりますが、すぐに柑橘の美味しさに驚かされます。

わーぉ、ジューシー! なんてみずみずしく爽やかな酸味なのでしょう。
一瞬、オッと身を引くほどに鋭い酸味なのですが、豊かな風味を伴っているので、思わず次の一口へと手が動いてしまっています。柑橘はサワーポメローや日向夏(ひょっとしてオロブランコ?)などグレープフルーツ系の果汁たっぷりでしなやかな果肉のものが選ばれています。2、3種合わせて味に幅を持たせているのもいいですね。
酸っぱくてイキイキした柑橘をマスカルポーネが優しく宥めてくれます。いやあお見事!

「ながさき農園」さんは自然農法という手法で土壌改良から手がけているということです。これまた、お子さんも連れてご家族で鹿児島(育恵さんは鹿児島ご出身なのだとか)まで行かれたのだとか。
ちなみに、無農薬不耕起と書かれていますから“わら一本の革命”(我が家の本棚から引っ張り出そうとしたら、見つからない)で有名な福岡正信さんの農法なのでしょうか。この方法は地力が蘇ると同時に栽培植物自体の生命力も活発化するようです。愛媛の福岡さんの農法を鹿児島のながさきさんが採用するなんて、ふふっちょっと楽しいな。
いずれにせよ、酸っぱい果実愛好者の私たちも納得の、活き活きとした柑橘を満喫する美味しいタルトでした。


●『塩キャラメルナッツタルト』  辺8.5cm 高さ2.5cm 60gほど。
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やったー、大好きな組み合せです。カラメルにナッツにタルト、しかも塩カラメルって、そそる度高すぎ。

シュクレにダマンドまでは同じ。そこへ塩味のソフトカラメルに和えたナッツをたっぷりと。カラメルはグラニュー糖を炊いて、バター(有塩? 別に塩? 確認しませんでした)と生クリーム。ナッツはアーモンド、ヘーゼル、クルミ、ピーカンナッツの4種を3回ロースト。

シュクレとナッツのカラメル和えでエンガディナー風の味わいになりますが、ダマンドでふくらみが加わり、塩で深みが、ナッツを複数にしたことで奥行きが出ています。さらに極めつけは、カラメルのとろーりとした、やや流れるような粘度。嗚呼、しあわせ!
エンガディナー大好きなもので、そそられましたが、想像した以上に豊かな味覚世界が築かれています。しかも、塩を使うと品下りがちですが(ここ肝心)、とても品のいい印象。嬉しい驚き。お見事です。


どれを食べても清らかな味わいと香りに満たされます。特別に表示されている農園の産物以外にも、粉やバター、砂糖などご自分たちが納得した上質の素材を使っていることが伝わってきます。
作家性の高い創作ケーキというのではありませんが、ピュアな味のセンスに野口育恵さんのココロ優しい世界が築かれています。

●『シブーストポム』500円  『自然農法の柑橘タルト』510円  『塩キャラメルナッツタルト』380円  (※外税)
●小さな菓子店「patisserie COCORO 」
 兵庫県西宮市広田町12-8  TEL0798-27-5970  定休日/月休、不定  営業時間/10:00~19:00
※ブログ「パイ日和おまけ」では、こちらのお店の『プリン』『ヴァニレキプフェルン』をご紹介しています