3月14日はパイの日、ということで…手作り(16)『タルト フィン ポンム』(薄焼きアップルパイ)/日本パイ協会

春、3月14日といえば、パイの日。
2020年3月14日に、第19回「3.14=π(パイ)の日R」キャンペーン、無事最終日を迎えることができました。19年ずっと続けてこれたのは、皆様のおかげだと感謝しております。

毎年恒例の手作りパイを試みた。「日本パイ協会」と名乗る以上は、パイを食べるだけじゃなくて、作れないとね。職人さんの苦労も少しは体感しなくては、という思いもある。が、お付き合いのある職人さんは、パイお茶の子さいさいですよ…という方が多く苦労という苦労ではないらしいのだけど。
そりゃあそうだ、むやみやたらにどんなお店でもお誘いしているわけでなく、私たちが実際食べて美味しいと感じる職人さんばかりに(実際は味だけでなく接客も選択基準のひとつ)、ご参加をお願いしているからね。何十年に及ぶ食べ歩きの結果、“パイが上手いと、ほかのものも旨い”という経験則が当てはまるのだ。
ともあれ、普段年がら年中、名人上手のパイを食べつけていて、年1回の試みを怖じずにやるというのも恥知らずの誹りを免れないが、素人でも出来るパイがあるということを知ってもらうために敢えてチャレンジしている次第。ご寛容のほどを。(※担当クボタ)


●『タルト フィン ポンム』(薄焼きアップルパイ)  径16cm 240gほど。
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今回はまがりなりにもフィユタージュと呼べるものにしたくて、フィユタージュラピッドにしてみた。バターを包み込む本格フィユタージュは生地をまっすぐ延ばす技術やバターと生地が協調して延びてくれる温度の見極めが難しい。生地が破れたり、中でバターが切れたりといった不都合が起こりやすく、素人にはなかなか手が届かない。
そう言えば、昔、雑誌「dancyu」の取材で“ア・ラ・カンタ~ンなミルフィーユ”という企画で杉野英実さんに習った時もラピッドだった。間近で見る名人の手際は素晴しく、本当に簡単そうだった。が、自分でやるとなるとそうは問屋が卸さないのだった。

今回のルセットは敬愛する「イル プルー シュル ラ セーヌ」のもの。
強力対薄力=3:1程度で、粉全体の3/4くらいのバターを1cm角に切って粉に混ぜ、カードで切り込んで行く。バターの小さな塊は残っても構わない(バターの部分が空気層になる)。フィユタージュオーディネールだと、生地は水平に1枚1枚浮いて剥がれるが、ラピッドでは細かなバターがランダムに配置されるので網目状の層が出来上がる。
ラピッドであっても生地を延ばすのはやっぱり難しい。教科書では横幅を変えずに縦だけ3倍に延ばすのだが、どうしても横幅も広がってしまう。3ツ折りにしても正方形に戻らない。仕方がないから向きを変えて延ばす時に調整して大きさを戻したりする。そういう小手先の誤摩化しを交えつつ、なんとか3×4を3回繰り返して終了。
作った生地の半分を3mm厚にまで延ばして円く抜いて、林檎(今回はサンフジ)を櫛形に切ってから2mm厚程度に皮ごと薄くスライスしたものを万遍なく並べ、三温糖を少し振りかけオーブンへ。
タルトフィンを焼くのに160度で25分という資料があったので、それに従ってみたが、とても焼き切れない。プロのオーブンと家庭用の小さなオーブンでは同じ温度設定では無理のようだ。全体の熱容量の違いや、熱の当たり方、熱源からの距離など、焼け具合を見ながら自分で加減するほかないね。どうやら180度で35分程度が正解のラインだったように思う。最初に短時間250度くらいで焼いてから下げる方法もあっただろう。

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肝心の味わいのほどは、中心部分に生焼けの部分も残っていた(イワモトがしれっと指摘)が、味には影響なし。林檎がしっかり焼けていながらサクサクとしたフレッシュ感も残り、いい具合。
焼き立てを食べるので、ヴァニラアイスクリームととても好相性。林檎とパイ生地とバターの香りがせめぎあって、けっこういけますなあ。頑張った甲斐がありました。

とまあ、冷や汗もののチャレンジも無事終了。キャンペーン主催者としてはもうちょっと腕を上げなきゃなと、毎年同じ反省の繰り返し。もうちょっと真剣にやらんといかんなあ。
ということで、お付き合いしているパイ名人「アグレアーブル」さんの加藤シェフに、ちょっとした疑問を投げかけてみた。すると、その場でど素人に懇切丁寧に教えてくれたのだった。来年にはノウハウとしてちゃんと活かさなきゃな。

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ここからは、いつもの書き手、イワモトの雑感です。

今年は暖冬で、私たちが住む苦楽園界隈では一度も氷も霜も見ることがなく、2月のうちにミモザの黄色の花が咲き誇り、通常キャンペーン開始の8日頃に咲き始める辛夷も3月の声を聞くやいなや我れ先に咲き始めています。いつもの年とは違うね、と思っていたら、それどころじゃないですよと新型コロナ。
百貨店など人が密集するところより個人店へという流れもあり、好調なご参加店もあるようですが、それでも営業時間を短縮したり、品揃えを変えたり、お休みを増やしたりといろいろなことがありました。企業は持ちこたえる体力があるのかもしれませんが、ご参加店のほとんどが個人店なのでとても気がかりの毎日でした。いえ、今もこれからも。
災害時にもいろいろな方がおっしゃっていたように、明日もまたいつもと同じ日常がやって来る、というのは奇跡なのかもしれませんね。生きていると思い通りにいかないことばかりですが、どうかいつもの暮らしを取り戻せますようにと祈るような気持ちでいます。

パイの日のキャンペーンは、“職人さんが手作りしたパイの美味しさをお客様に知ってもらって、楽しいひとときを過ごしてもらいたい”というのが主旨です。
このお客様への想いが、たとえば光とすれば、影の主旨というのが私たち「日本パイ協会」(といってもずっと二人)にはあります。
それは、“真面目に頑張っている「個人店」(立派な企業さんもご参加していただいていますが、心は個人店時代のままのお店を選んでいます)とお客様を繋ぎ、応援する”というものです。まァ応援といっても私たちの力はたかが知れていますけどね。
でもほとんどの職人さんたちはアピール下手だし、ネットすらしていない方もいらっしゃいます。そういうところにこれまた心惹かれるわけですが、一年で一番忙しい時季に、パイの美味しさ広めていきましょうと、手間の掛かること(そんな時間があったら日持ちのするクッキーとか別のものを作りたいという利益最優先のお店がほとんどです。いえ、こういったお店を否定しているわけではけっしてありませんよ。ただ、そういうお店ばかりだとツマラナイと思いませんか?)をニコニコと楽しみながらやってくれている職人さんたち。
が、しかーし、なのですよ。冷静になってみると、じつはこちらが応援しているつもりが、逆に応援されている、のです。19年続けてきて今更ながら気づき、しみじみする今日この頃。

資金も、人脈も、後ろ盾も、権威も、政治的力量も、何もない。はーっ。あるのはただただ、パイへの愛、それを作っている職人さんへの溢れる熱情だけです。
応援してくれている職人さんの想いに応えるためにも、もっと私たちも頑張らなきゃ私たちがやらなきゃ誰がやると毎年勝手に思い、活動しています。
もしかしたら、洋菓子史には残らない極小キャンペーンかもしれませんが、そんなことより「一人の作り手が、一人のお客様をパイを通して笑顔にする手助けができた」なら、私たちとしては飛び上がって喜んでしまいます。今年もそんなささやかだけど実りのある出会いを願うばかりです。
なんだか、春の若葉のような青臭さに照れてしまいますけど……どんなことでも“一人の個人から始まる”と信じていたいのです。

では、3月14日パイの日、佳き一日になりますように!
いつもブログ「パイ日和」「パイ日和おまけ」の拙文にお付き合いいただきありがとうございます。深謝。

●『タルト フィン ポンム』(薄焼きアップルパイ) 材料費400円程度
●兵庫県西宮市在「日本パイ協会」(クボタ&イワモト)