パティスリー ショコラトリー エメラ(12)『アルザシアン』『ショソン オ ポム』

奈良市、近鉄奈良線・富雄駅の南2分ほどのところにある「パティスリー ショコラトリーエメラ」さん。私たちが敬愛する藤原尚樹シェフ(1973年生まれ)、伊公子さんご夫妻のお店。奈良市の西の外れにあり、各駅停車しか止まらない駅。そこになぜこれほどまで素晴しいケーキがあるのか不思議に思う方もいるかもしれません。
それはひとえに、今年50周年を迎える2代目さんの覚醒のなせる業。初代の洋治さんが築き上げた洋菓子の基盤の上に、ベルギーで経験したベルギー菓子、フランス菓子のエッセンスを注ぎ込み、新たな“エメラワールド”を花開かせたのです。美しく斬新、清らかな美味しさで誰にでも受け入れられる美味しさ。この奇跡的なラインを見出したことに驚きがあったのです。
でも、藤原シェフは成功した一所に留まろうとしてはいません。つねに新たな境地を切り開く人。今後の展開にわくわくが止まりません(詳しくはいずれまたね)。
ということで、第19回「3.14=π(パイ)の日R」キャンペーンのための新作は、シェフにお菓子作りの歓びを再確認させる契機となったのでした。なお、14日までで売り切れ御免となりますのでご注意を。


●『アルザシアン』  7.×3.3cm 高さ1.8cm 40gほど。
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わっ、アルザシアン! バリバリの仏菓子を標榜しているお店でも作っておられるところが少ないのですよね。
まァ、日本に“アルザシアンの波(流行り)”が来ていないからでしょう。フィユタージュとフランボワーズジャムの組合せというシンプルな姿にも関わらず、意外と手間がかかるお菓子、というのもパティスリーの最繁忙期にはできれば避けたいということのようです。

そんな一般には避けたがるお菓子が、何故にいまちょうどこの時、「エメラ」さんにはあるのでしょう?
じつは、クボタが今年の商品の試作スケジュールを打診した時に、「お題があると嬉しいなぁ」ということになり(ここ最近は毎年藤原シェフにはリクエストしているのです)、迷うことなく好物の“カレ アルザシアン”を指定したのでした。無謀な奴。

藤原シェフ、快諾とあいなったのです。でも、修業時代の「ガトー ド ボワ」で一度焼いた覚えがあるけれど、以来まったく手がけていないという代物でした。
シェフのイメージではザクッとした生地の強さと、フランボワーズの香りと甘酸っぱさ。それが拮抗しなければ美味しくないというもの。製作手順を考えると、上の生地はフロランタン種を塗って2度焼きが必要。間にジャムを塗って切り分ける時にジャムがゆるいと生地がずれるし、生地が硬過ぎても同様に難しくなる、という問題点が浮上。
そこで、生地は最近一番で焼いている『ショソン』の2番生地を利用することに。フランボワーズペパンのジャムは少し煮詰めるという結論。焼きはとても慎重に。ほかにもいろいろ微調整を。

シェフ曰く「なんて奥が深いお菓子なんだろう、若い時に作っていたら怪我しそう」、とはいえ作ったことがほとんどなくても長年の経験と若い頃の記憶を辿って、どう作るべきかはすらすらと解けてしまうようです。
それでも、いざ焼く前日の晩は、布団に入っても作業手順を細かくシミュレーションして眠れなかったとか。その久しぶりのドキドキ感が楽しくって、とニコニコ顔のシェフ。と同時に、お菓子作りを素直に楽しんでいる今の自分自身にも新鮮な驚きがあったようです。
ふーむ、藤原さんクラスのシェフにとってはただルセット通りに作るというのは全然大変じゃなくて“お菓子と真摯に向き合うこと、本当に美味しいとはどういうものか”、そこがとても大切なこと。長年パティシエをやっていると、ついつい見逃してしまうところです。

小さなお菓子に込められた、作り手の想い。お気楽にリクエストしてしまう私たちですが、ひとつのお菓子が出来上がるまでにはいろいろな物語があるのを今更ながら気づく次第です。(ふふっ、懲りずに来年もまた何を作ってもらおうかなぁ~などと思案中って、オイッ)。

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で、仕上がり? あっはは~っ、一発勝負でこんなに美味しく仕上がるとはねぇ。当然ながら、作り手の大変さは微塵も纏っていなくて、どこか「エメラ」らしい繊細さ(carre と名乗っていなくて、食べやすい長方形だったり、フロランタン部分が分厚すぎないなど)が垣間見れて、ただただ美味しい。

カリッサクッ。口元へ持ってきた時に漂うアーモンドの香ばしさ。もうこれだけでクラクラしそう。フロランタンのカラメルの結晶化もピタリと極っていますね。そして、ザックリとしながらも軽い食感。弾けるパイの香り。
追いかけるように、フランボワーズの甘酸っぱさと濃密な香りに包まれて行きます。一気に美妙なパイ菓子の世界へ。ほぅ~!
嗚呼、この流れの美しく華やかなこと、お見事です。ブラーヴォ!


●『ショソン オ ポム』  13.5×8cm 高さ3cm 90gほど。
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あれっ、いつもの焼きっぱなしコーナーで輝いているショソンがガラッと様変わりしてる! なんか違う新商品かと思うほどのチェンジです。
大人気定番商品のリンゴのパイですが、カラメリゼが泣きやすいということで作り変えたそうです。
変わっている点は繁忙期に『ピティヴィエ』を休むので、この時期1番生地が回ってきているということ。
それと、カラメリゼ。粉糖やグラニュー糖で円やかなものにするのではなく、カソナードで味わい深くしたとのこと。卵を塗り、カソナードを全面まぶした面をクイニーアマン風に下にして焼くことで、分厚い鏡面仕上げに近いものが得られたのでした。
周りは餃子の皮のように羽根ができるので、きれいにエピをとって、可愛いデザイン。

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結構なヴォリュームで、半分にカットして手に持ってパクリッといきましょう。
ザクッパリッ! カラメルがはっきり目立ちます。カソナードの粒感が残っているところもあって、歯触りの面白さも。
生地は1番らしくふっくらと上がり、ほんのりとした甘味を帯びて、林檎の甘煮を白ワインで炊き直したフィリングの深い味わいを優しく包み込んでいます。

パイに林檎にカソナード、なんでもない組合せです。が、じつにバランスいいですねぇ。とっても大きいのに、もう一口もう一口とどんどん食べてしまいました。これまたお見事です。


藤原シェフ、お店が50年目を迎えたことを機(『創業50周年特別ガトー』なども作ったそうですよ)に、お父さんのぼろぼろになった古いレシピノートを広げてみて、シンプルな生地の美味しさを再確認したと言います。
これが自分自身のルーツでもあるし、必要以上に飾り立てた時代の最先端を取り入れて行くことだけが自分らしさではない、ということに自然と気が付いたとか。シンプルに美味しいものは美味しい、という事実に惹かれはじめているのだそうです。最先端と自分のルーツとの融合。どんな結果が得られるのか、期待して待ちましょう。
すでに「エメラ」は動き出しています。いつもと同じように見えることもあるかもしれませんが、もう“心が違う”のです。

●『アルザシアン』240円  『ショソン オ ポム』380円  (※外税)
●「パティスリーショコラトリー エメラ」
 奈良市富雄元町2-6-40  TEL0742-44-6006  定休日/水曜  営業時間/11:00~20:00(平日) 11:00~19:00(日祝)
※ブログ「パイ日和おまけ」では、こちらのお店のロールケーキ&ムラングシャンティをご紹介しています