ロトス洋菓子店(23)『ミルフイユ』『ミルフイユショコラ』

京都、四条烏丸の交差点から南に5、6分、因幡堂薬師さんの斜め前にあるのが「ロトス洋菓子店(LOTUS)」さん。2011年1月オープン。おもにフランス伝統菓子を丹念に作り込み、1品1品の完成度をかぎりなく高めています。
今回、木村良一シェフ(1979年生)と話してみると、1品ごとのお菓子のイメージとそのために選ばれた素材、手順、技術など、どこをとってもゆるぎなく自信に溢れていました。
オープンして10年目に突入しましたが、不安定な時期を乗り越えての、今。一貫して美味しさのために必要なことを合理的に追求する科学精神は不屈。現在ショーケースに並ぶ定番商品は、そのようにしてじっくり考え抜かれ、検証されたものばかり。どこからどのように質問しても、意地悪な視点から質問(あはっ)しても、明確な応えが返ってくる、自信作ばかりです。
私たちも久しぶりに定番を食べて“嗚呼やっぱり凄いね”と想いを新たにしたのでした。


●『ミルフイユ』  4×9cm 高さ4.5cmほど。
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こちらの顔ともいうべきミルフィーユ。
相変わらず、端正でキリッとした姿。まっすぐな線、木村さんのお菓子にかける情熱が手に取るようにわかります。

初めて訪問(2011年4月)した時、その後少し変わり(2012年6月)、その後は売り切れていることが多かったので、大好きだというのに今回3回目(ほぼ2回目と同じルセットなのだとか)です。たった、3回というのに、毎回しっかりと記憶に残っています。それだけシェフにとっても私たちにとっても、思い入れの強いお菓子です。

さて。生地は織りやすさを選んでアンヴェルセに(デトランブにバターが入り、バターに粉が入るので両者の性質が歩み寄っているので延ばしやすい)。ただ、食感には強さが欲しかったので強力粉5薄力粉1の配合。粉はごく一般的なカメリアとバイオレット。
仏産の粉も試したけれど、たしかに薫りは良くなるものの、それより水の量であったり、どう焼くかといったことの方が変化率が大きいことが分かり、ベーシックな粉に落ち着いたそうです。デトランプはよく捏ねてグルテンをしっかり出しておく。バターは四ツ葉。折りは4343。片面、粉糖によるカラメリゼ。
クリームはカスタード2にシャンティ1のディプロマット。タヒチ産ヴァニラビーンズを控えめに。生地とクリームのバランスは生地がクリームをまとって喉の通りがいい状態になるような比率で厚みの調整をしています。

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お久しぶりです、ではナイフ入刀、いつも通り小気味いい切れ味。
おおっ、ザクッとハードな食感。でもその直後にサラサラ~と解けていきます。まさにグルテンの利いたパイの特長とアンヴェルセの繊細さのいいとこどり。うんうん、噛むほどにバターの芳醇な風味、焼き込んだ薫りが押し寄せてきます。

クリームももしかして分厚めのパイ生地に対して少ないかも? と不安になりますが、ディプロマットとは思えない濃厚さで、ピッタリの絶好のバランス。生地に引けを取らないし、生地との一体感もたちどころに実現して、パイの口溶け喉越しもいい。

ふうぅ~美味しいなぁうっとり。相変わらず姿も味も、お美事!


●『ミルフイユショコラ』  4×9cm 高さ5cmほど。
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カカオ一色、シックな姿に惹き付けられます。ショコラヴァージョンのミルフィーユ。これも2回目です(2015年3月『カカオフィユテ』の菓名でした)。

たしか修業先でも似たようなチョコレートのミルフィーユを作っていたと記憶していますが、姿は似ていても配合はすべて変えているので(ただ同割みたいな基本的なことは変えようがないけれど)、まったく違う味わいに仕上がっています。

生地は普通のミルフィーユと同様の作り方ですが、バターのパートにカカオパウダーが加わります。
間に挟むのが、下の方がヴァローナのP125(前回はサンビラーノ)を使ったパティシェールショコラ。
上のなみなみの美しい絞りのものがノワールのガナッシュ(ヴァローナのカライブ+P125、バター、生クリーム)。以前は、ガナッシュをミルクチョコで作っていましたが、最近はハイカカオで作っているとのこと。
トップはミルクチョコのプラック。

いつも通り、薄いプラックがパリッと割れる音と食感から、このお菓子は始まります ……… おぉチョコだぁ、チョコ三昧。つま先からテッペンまでチョコ。しかも、激しく!
パイ生地は『ミルフイユ』より締まったザクッ、そして小気味よく解れ、カカオの薫りを華々しく放ちます。カカオフィユタージュの素晴しさは嬉しいかぎり。
そこへ、チョコ感たっぷりのパティシェールとガナッシュが次々に覆いかぶさってきます。苦みのレベルが似通っていて、やや変化に乏しい嫌いはあるものの、チョコを満喫するという意味では徹底しています。P125(カカオ油脂と固形分の比率を逆転させカカオ分125%にしたという、特別のハイカカオ。ショコラを越えたショコラと呼ばれています)を使っているところにも、その意気が感じられますね。

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前回の記憶がおぼろげに残っているので、比較してみましょう。
見ただけではガナッシュが波打っているという違いだけなので、同じかと思って迂闊に食べると、一瞬のけぞります。だって、ぜーんぜん違うものですから。ミルクチョコ版の甘い世界から、一転して苦み走った大人の世界が現出しているのです。はーっ。
ハイカカオ好きの通の人は魅了されること、間違いなし。甘ちゃんの私たちは少々へこたれ気味ですが、ほぇ~。

と、ここで、木村シェフ「前回のミルクチョコ版はあまりお気に召されなかったようなので」って、私の想像の外の外からの発言。
う、ウソ!? 美味しかったので誉めて書いた覚えがあったのですが、あれだけ美味しかったものを止める必要はなかったのにぃ。大人向けのものやハイカカオのものは姉妹品としてあってもいいかなというつもりでしたが、まァこれはこれで存在意義は分かりますけどね。
悶々、筆力のなさを自覚しなきゃね、「パイ日和」さんよぉ。
なんだかやさぐれて、文章もノワールな方向に入って行きそうですので、このへんでチャオ! シェフ、今度また、ゆっくりお話しましょう~そうしましょ♪


理想のお菓子にまっしぐらの木村シェフ。一人で製造するマンパワーと時間の限界のなかで、合理性の徹底によって作業を見直し、マンパワーの拡大を図るあたり、いかにも理系出身の彼らしい判断が働いています。ようやく、肩の力も抜けるべきところは抜けてきたよし。
考えて、体験して、検証する。人ってそういうことを放棄すると、何も見えないし何も心に残らない。自分の内部に根拠があるのは強みですね。木村ワールドが深まる日も近そうです。

●『ミルフイユ』480円  『ミルフイユショコラ』600円  (※内税)
●「ロトス洋菓子店」
 京都市下京区烏丸通松原上ル因幡堂町699  TEL075-353-2050  定休日/日曜・月曜  営業時間/12:00~19:00
※ブログ「パイ日和おまけ」では、こちらのお店の『たまごのショートケーキ』をご紹介しています。
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