パティスリー イデ(5)『アップルパイ』『ミルフイユ トラディショナル』

兵庫県尼崎市、阪急神戸線・武庫之荘駅から北西に7、8分のところにある「パティスリー イデ idee 」さん。繊細な味わいを究める井伊秀仁シェフ(1977年生まれ)と奥様 綾香さんのお店。
子育て地域でもあり、昔ながらのファミリー向けケーキが主流の地域。そこで、生地の美味しさをベースに、繊細な香りや食感に味の冴えを加えた真の満足を求めて粘り強く提案を重ねてきた結果、いま井伊ワールドが花開きつつあります。
今回の第19回「3.14=π(パイ)の日R」キャンペーンの商品は、3年連続のミルフィーユ(しかし毎回異なっていて、2018年は『ミルフイユ ピスターシュ』、2019年は『ミルフイユ ノワゼット』)に、カジュアルなアップルパイも登場します。出色の美味しさですぞ!


●『アップルパイ』  12×9cm 高さ3.2cm 120gほど。
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アップルパイ、誰もが知っている大人気商品ですね。
が、昔の(グワッシタイプの美味しいのか美味しくないのか分からない感じ)ものとは、当然ながら明らかに一線を画しています。

というのも、たかがパイ生地でしょ、と侮るなかれ。素材(粉やバター)で違ったり、配合で違ったり、水分量でも違ったり、折り方でも違ったり、手際の良さで違ったり、焼きでも違ったり…と、違うのオンパレード。親しみのもてる味なのに、一つひとつの要素でガラッと表情が変わる、手強い生地でもあるのです。
「フィユタージュって、いろいろチャレンジできるやりがいがある生地ですね」と井伊シェフ。腕に覚えがある人にとっては、そこに面白さを感じるということでしょう。

ということで、今年2020年版、昨年とは異なるやり方です。アンヴェルセでパイ生地を折っていましたが、どうも食感が足りない(繊細すぎる)と思い、今回は普通折りに。粉を香りの立ちやすいメルヴェイユ(中力粉)と薄力粉でやってみたら、香りはすごくいいけれど、やはり食感が弱い。
そこで薄力を止めて強力のイーグルを1/3加えるパターンに変更。これがシェフのイメージにどんぴしゃ。バターは四ツ葉の醗酵バター、折りは3ツ折り5回。
なお、珍しいことに、このアップルパイが1番生地で、次にご紹介するミルフィーユが2番。へぇ。

パイ生地にダマンドを薄く敷いたところへ紅玉のスライスを並べて焼き上げ、カルヴァドスをハケで塗り、ナパージュ ヌートル。

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口元へ持ってくると……、うわぁ~、香りがじつに豊かです。焼き込んだ粉の香ばしさに、バターの芳醇さ。林檎やカルヴァドスも仲良く手と手とを取り合い、口に含む前から香りの良さに陶然としてしまいました。 

もぅ我慢できずに、一口パクッ。おぉ、美味しいなぁ、ふうぅ~!
紅玉の甘酸っぱさと新鮮さを感じるシャキッ感(この薄さがこれまた決まっています)。と同時に、フッとカルヴァドスも過り、そしてダマンドのふくよかさ、円やかさに包まれて、すべてが柔らかな優しさを帯びるのです。
そして、なんといってもサクッと軽やかな食感のパイが通奏低音のように、ずっと心地よく響いています。端っこのほうはよく浮いた軽やかさもあって、全体のイメージにピッタリ寄り添う仕上がり。うんうん、1番生地で作った意味がよく分かりますね。

お見事ですねぇ。肩の張らないプレゼントにも素敵じゃないですか。
アップルパイに最適と言われているウバの紅茶を合わせたら、夢の世界に誘ってくれること、お約束しましょう。
おまけに、なにぃ、この安さ。二人分はあろうかという大きさで、500円。
3月中はなんとか作る予定とのことですが、おーぃ皆さん、シェフの気持ちが変わらないうちに、ダーッシュ!


●『ミルフイユ トラディショナル』  8×4cm 高さ5cmほど。
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パイに食感がより以上に欲しかったのは、むしろこちら。
あえてアップルパイの2番生地を薄く2mmに延ばし、圧さえて焼いています。しっかり焼き込んで粉糖でカラメリゼ。
クリームは甘味とヴァニラの香りが豊かなカスタードをベースに少し、生クリームを加えたディプロマット。

このナチュールとかトラディショナルと呼ばれる生地と、クリームだけのミルフィーユは多くの人が作ります。
が、その味わいは千差万別。シンプルな物ほど作り手の趣味や性格が如実に表れるようです。

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井伊シェフは生地をしっかり色付くまで、心配になるほど十分に焼き込んでいますが、苦みを一切感じさせません。その香ばしさといったら、もぅ! 
なめらかなクリームはくどい甘さではないけれど十分に甘く、満足度高し。その上、ヴァニラの香りがさらに甘やかな世界を創り出し、人を虜にしてしまいます。クリームに大らかさがあるからこそ、生地の力強い主張がピタリとはまり、受け入れられるのでしょう。

シェフ曰く「ど・ノーマル!」とのことでしたが、いつもの井伊さんの上品さに、よりいっそう素材の魅力がぐぐっとクローズアップされるような仕上がりで、私たちは「ど・ストライク!」とガッツポーズ。
ミルフィーユに名品は多いですが、この『ミルフイユ トラディショナル』もその仲間入りを果たしましたね。お見事です!


井伊シェフのエレガンス感覚は力強い味わいを目指している時も、ほのかな優しさが寄り添っていて、とても品良く優美。最後の一手を打たずに、すっと引いてくれる英断のおかげで、何度でも食べたくなる美味しさが生まれるのでないでしょうか。
なお、春からはパン(ヴィエノワズリー)も登場予定なのだとか。そういえば、チョコレートも多彩な品揃えで、眼を惹くものばかりでした。多才なシェフの展開にご注目あれ!

●『アップルパイ』500円  『ミルフイユ トラディショナル』420円  (※外税)
●「パティスリー イデ」
 兵庫県尼崎市武庫之荘2-23-16  TEL06-6433-1171  定休日/水曜  営業時間/10:00~20:00