ブーランジュリー グルマン(6)『チェリーパイ』『カシスマロン』

神戸市東灘区、JR神戸線・摂津本山駅から南東に5分ほどのところにある「ブーランジュリー グルマン」さん。今年3周年を迎える若いお店ですが、お客様が定着するとともに、パンの評価も日に日に高まっている様子。
1987年生まれの池田匡シェフは「ベーシックなパンの評価が高まって美味しくなったと言ってもらえるし、作業も速くなったので、これからは高い技術が求められるパンでオリジナリティを追求したいです」と、元々持っている高い技術のポテンシャルを活かして、他店の追随を許さない商品開発を目指すそうです。開店以来ずっと折りつづけているパイもそのキーテクニックの一つ。パン屋さんで毎日パイを作っているところは数少ないですからね。本当に貴重なお店です。
今回の第19回「3.14=π(パイ)の日R」キャンペーンのためにも、鮮やかな印象を残すパイを用意してくれました。


●『チェリーパイ』  径12cm 高さ4.8cm 150gほど。
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2020年ヴァージョンのチェリーパイです。
昨年のキャンペーンにも用意してくれましたが、中のクリームがカスタード。湿気やすいので、今回はマイナーチェンジしてクレームダマンドに。
試作品の段階では、ピスタチオペーストの入ったクレームダマンドピスターシュ。チェリーは酸味の強いグリオット。
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クープの美しさをじっくり堪能してから、さて一口。サクッ! ほぉ、相変わらず軽やかな食感ですね。
と同時に、ひゃ~っ、す、酸っぺえ! グリオットチェリーの鋭い酸味が活き活きと。かすかに杏仁香のような香りもあって、より奥深く感じます。美しい色の取り合わせのダマンドピスターシュは、ほんのりと甘味と香りを添えて、味わい全体に幅を与える控えめな役回り。量が少ないのにピスタチオの存在感も明確。

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昨年はカスタードたっぷりでクラフティのような優しい世界に着地させていました。その穏やかさが魅力でした。
が、今年は一転。チェリーの酸味を前面に押し出し、甘さも抑えられていています。エッジの効いたクープ同様、キリッとした酸味、そしてパイ生地とダマンドがその酸味を受け止め、力強さのなかの安定をもたらしています。思い切りましたね。

うん、いいねぇ、果実酸味愛好者をも魅了するチェリーパイ、ぜひとも召し上がっていただきたい。お見事です。


●『カシスマロン』  4×11.5cm 高さ4.4cm 100gほど。
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シェフ曰く「パン屋らしいパイを」。
ということで生まれたのが、パイ生地と醗酵生地を合体するというアイデア。たしかに、パティスリーでは見掛けない組合せだし、第一両方が得意じゃないとこういう発想は浮かんでこないでしょう。

ミルフィーユのような細く平らなパイ生地に、ブリオッシュ生地を合わせています。両者が合体するようにカスタードを接着剤的に。このカスタード、もちろん味にも寄与しています。
間にはマロン、そしてマロンペースト、ダマンド、ラム酒、生クリームを合わせたマロンクリーム、それからカシスジャム。表面はホワイトチョコでコーティング。あら、飾りが音符♪のよう、可愛いな。

最近では日本でもマロンと酸っぱいフルーツの組合せが広まりつつありますが、フランスでは定番。じつは、マロンクリームが甘いとカシスもマロンもお互い引き立てあうのですが、甘味が足りないと、急にそっぽを向くという難しい組合せです。

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おおっ、見事に決まっていますね。表面のパリンッとした食感を楽しんだ刹那、マロンの甘さ・コクにうっとり……としているところに、カシスの鋭い酸味がキリッと。わっ楽しい刺激。パイのサクサク感をブリオッシュの甘いふっくら感が覆って行くのも不思議な新感覚。ほぅ。
いや待て、これは昔みかけた“フルロン”というお菓子に少し似ているかも。あれはパイとスポンジ生地の組合せだったけれど。新しさを追求するとクラシックに還るということなのかもしれませんね。

ともあれ。エクレールのような型、音符のような可憐なデザイン(“音楽シリーズ”にしてもいいかも、いや “パイ・オッシュシリーズ”とかなんとか新たに造語したほうがお客さんには分かりやすいかな、などと愉快な妄想が止めどなく溢れる私、へへっ)、通年商品にしたいということでしたが、これならリクエストがきて当然。えっ、しかも250円って、嬉しい価格じゃないですか。
パイ生地と醗酵生地の出会い、パン屋さんならではのナイスアプローチです。カシスマロン味のパイ&ブリオッシュ、嗚呼、美味しかったぁ。


パン屋さんの仕事が激務だとよく言われます。♪朝一番早いのは~パン屋のおじさん♪~と唱われているように、とても朝早い仕事です。当然、睡眠時間がとても短い。
そこで、当キャンペーンご参加店のシェフに睡眠時間について尋ねてみました。「サ・マーシュ」の西川シェフはフランスのコンテストの時、“ナポレオン”と呼ばれていたようだし(一時期少し長くなっていたようですが、また戻って3時間くらい)、「パリゴ」の安倍シェフも製造スタッフが沢山おられるのに、それでもちょっと長くなって4~5時間なんだとか。「ビアンヴニュ」の大下シェフはほかのシェフに比べると長時間睡眠派になるようですが、やはり2、3時間しか寝られない日もあるとか、「グルマン」さんは4時間プラスα。
ただ、みなさんに共通しているのは、短い睡眠を自慢げに語ることはさらさらなく、こんなに大変な仕事なんだよと嘆くでもなく、これまでそうやってきたしねといった淡々とした態度(もちろんこれからはそうじゃいけないよねという反省を込めて)。皆さん明るく笑い飛ばしながら話してくれました。だって好きなパン作っているんだもんという感じ。ううむ、そこがまた“惚れちまうぜ”と言いたくなるほどの格好良さ。

では、一人で作っている池田シェフのタイムスケジュールをなぞってみましょう。夜中の2時過ぎ起床。3時入店。前日仕込んでいる生地を順次、分割・成形して行きます。成形後のベンチタイムを見計らいながら、焼成の段階へ。
一見単純作業のようですが、何十種類もあると、盛りつける食材や練り込む副素材などの出し入れの段取り、窯に入れる組合せなど、手間と時間を節約するためのヘッドワークが最重要。最善のフローチャートを書ける人が仕事のできる人なのです。
スラスラと仕事を進めた上で、7時くらいから窯入れが始まります。その前後からタイミングを見計らって、15分単位の仮眠を。8時半開店。焼成は12時くらいまで続きますが、その合間をみて翌日の生地や副素材の仕込みも。翌日が休みで仕込みが必要のない日曜に、冷凍が利いたり保存性の高い副素材をまとめて作るそうです。昼休みを取ってやはり短い仮眠。
午後は販売補助や接客。一口に接客といっても、フラッと来て小一時間ほどおしゃべりに興じるお客さんもいらっしゃるでしょう(何を隠そう私たちもそうです)。ほかにも事務や対外的な折衝もあるし、短期、長期の計画も考える必要があります。キッチンの片付け、清掃も終え、18時閉店。すぐに帰宅したいところですが、遅い時は19時半くらいまで掛かる時もあるそうです。就寝は22時。もちろん、これは仕事のみの流れですから、たしか小さなお子さんもいらっしゃるしプライベートも相当忙しい年頃。はーっ、軟弱な私には想像しただけで倒れそうな一日です。
オープン当初は2時に入店していたといいますから、これでも睡眠時間が1時間伸びているのです。どうやら、人並み以上の体力に、何処ででもすぐに寝られる特技を身につけないとこの仕事は続けられないようですね。池田シェフは「仮眠を何回も取っているからけっこう寝てますよ」と余裕の発言。

このハードワークの中、「もっと外に出ていっぱい刺激を受けないとダメですね」と、外部の人との交流にも積極的。休日の月曜には、パン教室も開いています。夏休みなどには子供向けのパン教室も考えているとか。「グルマン」を人が集うイベントスペースにしていければと構想中。
日々バリバリとこなしながら、なおかつパワフルで活動的な池田シェフです。

●『チェリーパイ』800円  『カシスマロン』250円  (※外税)
●「ブーランジュリー グルマン」
 神戸市東灘区本山中町3-6-23  TEL078-262-1025  定休日/月曜・火曜  営業時間/8:30~18:00(水曜~土曜) 8:30~14:00(日曜・祝日)