清水さん、また会う日まで~作り手、替わります! グロスオーフェン(16)『松の実のタルトレット』『杏のタルトレット』『すぐりのタルトレット』『チューリンガーブロート』『マザリン』『ボベス』

大阪府箕面市のドイツ菓子店「グロスオーフェン」さん。オーナーシェフの清水敬之さんが1981年に30歳でオープンして以来、38年。まだまだ元気な68歳ながら「衰えを感じるから大過のないうちに」となんとも潔い理由で、この9月30日をもって引退されました。
この話しを数年前から聞いていた私たちは、もう毎月通っちゃう? などと思ったりもしましたが、いや待て、いつも通りのお付き合いが清水さんらしくって、やはりいいかなと思い直したり。
そう、当ブログを開始した2005年以来のお付き合いなのです。“お菓子に惚れ、人に惚れ”していただけに、もう清水さんのお菓子が食べられなくなるのは、心にぽかんと穴が空いたような。気骨のある職人さんがいなくなるのも残念というか寂しいというか…。
ですが、ドイツ菓子店「グロスオーフェン」さんは続きます。清水さんが信頼している後任の清水久弘さん(遠縁に当たるそうです)に譲られたのです。お店が続くことはなんといっても嬉しいことですね。
では、本日はこれまでの功労を称えて、大大好きな焼菓子のいくつかをごくごく簡単にご紹介しましょう。


●『松の実のタルトレット』 径7cm 高さ2.5cm 60gほど。
gros_matsumomi2019.jpg
ナッツ類のカリッコリッしとした軽快な食感・香ばしさ・風味。香り豊かなよく焼き込まれたタルト台の馥郁とした美味しさがベースにあるからこそ、主役の松の実が際立つのでしょう。

●『杏のタルトレット』  径7cm 高さ2.5cm 70gほど。
gros_anzu2019.jpg
おぉすっぺ~っ! たっぷりの杏に溺れそうなくらい。さらにその奥から杏の実も本格的な酸っぱさで追い打ちを掛けてきます。

●『すぐりのタルトレット』  径7cm 高さ2.5cm 70gほど。
gros_suguri2019.jpg
これほどカシスを全面に押し出したお菓子も珍しい。果実の旨味を満喫しつつ、ちゃんとタルトを食べた充足感が得られるのですから、タルト台の実力が分かろうというものです。

●『チューリンガーブロート』  7.4×3.5cm 高さ2.2cm 50gほど。
gros_brot2019.jpg
エンガディナーの変形版のような。ナッツとレーズンとミルクの渾然一体となった味わいが癖になりますね。

●『マザリン』  径6cm 高さ2.5cm 50gほど。
gros_mazarin2019.jpg
やや粘りを感じさせる柔らかな卵白生地にアーモンドプードルが入っていています。起源の古いお菓子で地味な存在ですが、忘れ難い味です。

●『ボベス』  6.5×3.5cm 高さ2.5cm 40gほど。
gros_bobes2019.jpg
素朴な作りながら、とても上品なお菓子。ピール類の香りの良さ、レーズンの甘酸っぱさのほどよい満足感。マジパンとバターの香る生地の包容力。素晴しい完成度です。


代表的なものを取り上げましたが、チョコレートの季節にはまだ少し早いということで『モーン』や『ヌスクナカ』といったクッキー類は新生「グロスオーフェン」さんで。
どれもこれも想い出深いものばかり。新しいお菓子に出会うごとに、本当に美味しいお菓子とはどういうもののことなのか、蒙を啓かれる思いがしたものです。

印象深いエピソードをひとつご紹介しましょう。いつも大人しく他店の批判を一切口にしない清水さんが、唯一やや気色ばんだことがありました。こちらが引くほどの厳しい顔だったのですが、それは脱酸素剤の使用について。
「不味くなるに決まっているものを、なんで?」と、食をあずかる職人として自ら自分の商品が不味くなる手段を選ぶなんて信じられないという勢いでした。
冬場で7日、夏場は4日という賞味期限で売切ってしまう実力があってこその発言。開店当初から長年、我慢強くお客様に美味しさを伝えつづけてきて、やがてそういった上質なお菓子をごく普通に楽しむ常連さんがつき、地元に無くてはならないお店へと育っていったのです。
そういう真っ当なお店の在りようを「グロスオーフェン」で見た思いがしました。それは流行りだから、とか、注目されるから、とかいった生半可なものではありません。覚悟がいることです。

また、社会の出来事に対しても置き去りにされがちな少数者の立場に寄り添った真摯な正義感を貫いていましたが、自分自身のお菓子作りに対しても同じ鋭い目を注いでいたのではないでしょうか。だからこそ、日常を少し豊かにするお菓子作りの一介の職人に過ぎないという自己認識を持たれていました。その厳しさ故、ちょっとした準備忘れ程度のことも許せなかったのでしょう。いかにも清水さんらしい判断です。
そんな出処進退を見ていると、“職人にとっての普通”を貫くことがいかに難しいことかを改めて考えさせられます。

gros_kanban.jpg
18歳でパティシエの道に入って、50年。区切りということもあるのかなと思ったら、「偶然ですねん。そんなん全然考えてなくて、後先決めずにね」とあくまで気楽なご様子。最終日というのにまったく肩肘張らずに、私たちを仕事終わりの飲み会に誘うほど。長年支えてくれた身内のような女性スタッフ立山さんと臼井さんに「最終日くらいお終いまでいてください」とさすがに叱られて、しゅんと反省する始末。そりゃそうですよっ! 思わず笑ってしまいましたよ。
でも、ここ1ヵ月ほど「もう終わりなんやな」と思うと、毎日自分を縛っていた糸が1本、また1本と切れて行くプツンという音が聞こえていたそうです。たとえば、スーパーで買い物する時に、自店のレジで余り気味の1円玉は使い切るようにし、10円玉、100円玉はなるべく残るようにするという、両替の準備を考えながらだったものを「ああ、もうこんなんも考えんでええんや」とか、毎冬恒例クリスマスの『ヘキセンハウス』、夏からのアイデア仕込みも「これもしなくてよくなったぁ~」。などなど、きっと身に付いたいろいろな習慣が数えきれないほどあったのではないでしょうか。

最終日の前夜、一人になったときにお店のビデオを撮られたそうですが、「結局観ないだろうけどねぇアハハ~」とのこと。
うーん寂しさがまったくないということはないのでしょうが、解放された晴れ晴れとした笑顔。「翌日のために夜ちゃんと決まった時間に寝る必要もなくなったし、なんかグレ爺になりそう」と大笑い。これからの人生をどう描いていくか、心弾ませる夏休み前の子供のような笑顔でした。うきうき気分が溢れでてしまっているような。
元気に活動できるのはあと10年と考え、積極的に余生を送るためにいろいろ新たなチャレンジを考えている様子。具体的には、週2回ほど自閉症のお子さんの世話をしたり、ピアノ教室へも通いそうです。以前にバイエルを1冊仕上げたことがあり、最近、Eテレでハノンを弾いているのを観て「単純な繰り返し、けっこう好きやなぁ」とピアノ熱が再燃したとのこと。手業の人ですから、世界はどんどん広がりますね。
さぁ、どんな日々なのか、逐一事細かにご報告しますね。なんつって!

さて。お店の今後のことですが、「唯一の条件はスタッフを引き続き雇うこと」とおっしゃっていましたが、名前もスタッフもそのままに譲る以上は、同じレベルが維持できると踏んだのだと思います。辞めることをごくわずかの方にしかお話にならなかったのも、新シェフ新グロスオーフェンを気遣ってこそではないでしょうか。とはいえ、三世代お世話になったお客さんが来られたり、地元の方々に長く愛されてきたのがよくわかります。

最後に。最終日にもなにからなにまで普段の清水さんそのまんま、を感じる一時でした。天晴れです。
お菓子大好きの私たちを時折立ち止まらせ、想いを深くしてくれた(ふふっ心をざわつかせた?)を清水さんに、そして「グロスオーフェン」さんというお店に出会えたことに、とても感謝しております。
長年お疲れさまでした、そして本当にありがとうございました。

では次回、新オーナーシェフの久弘さんに期待して、近日中に新体制のご報告をさせていただきます。

●『松の実のタルトレット』290円 『杏のタルトレット』290円 『すぐりのタルトレット』290円 『チューリンガーブロート』210円  『マザリン』230円 『ボベス』180円 (※外税/店頭では本体価格、税込価格併記されています)
●「グロスオーフェン」
 大阪府箕面市桜井1-1-31  TEL072-723-9151  定休日/木曜全休・水曜月2回休  営業時間/10:00~19:00

※2019年7月以降、BIGLOBEの強制リニューアルにより、アクセスカウンターの廃絶、その他もろもろが大幅変更となりました。ご容赦下さいませ。