ムーラタルト(18)『ルビーと河内晩柑のタルト』『タルトオシトロン』『苺のタルトレット』『ショーソン』

私たち日本パイ協会が主催する「3.14=π(パイ)の日 R」キャンペーン(2019年で18回目)に、第1回から欠かさず参加してくれている唯一のお店「フランス菓子工房ムーラタルト」さん。長いおつきあいです。私たちがパイ名人と称する、吉野暢人シェフ(1967年生)のパティスリーです。
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この度、2019年5月28日に20周年を迎えました。
29日から6月1日まで20周年アニバーサリーイベントとして、300円以上お買い上げの先着500名様にハーブの苗プレゼントと、またお買い上げのお客様にもれなく6月と7月に1回ずつ使える10%オフチケットがプレゼントされています。

生ケーキ、焼菓子、焼きっぱなしなど、どのコーナーも一品一品充実の品揃え。この機会にぜひもう一度じっくり味わって、このお店があり続けることの幸せをかみしめて欲しいと思います。




●『ルビーと河内晩柑のタルト』  辺10.5cm 高さ3.2cm 100gほど。
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は~っ瑞々しさ全開のタルトですね。そそる度高い、きれいな姿です。

最近よく見掛けるグレープフルーツのタルトのようですが、ホワイトの方は河内晩柑を使ってヒネリを利かせています。アメリカと日本の競演。

軽く空焼きし、ダマンドを詰め、フルーツの上にカソナードを振って焼き、その上に果汁をかけ、ルビーと晩柑の果汁入りのナパージュをた~っぷり。

では、がぶっといきましょう……わぉ、果実のジューシーさ満喫っ、美味しいっ! 
ルビーがキリッと明確な酸味なのに比べて、晩柑はしっとりやんわりと受けて立つような穏やかさを併せ持っています。
紅白たっぷりの果汁を吸っているダマンドは、バターの代わりにクレームエペスを使ったもの。油脂分が少ない分、さっぱりとしていて果実の旨味とジューシーさを強調してくれています。

そして、このタルトを華あるものにしているのが、パートシュクレ。いつもの絶品タルト生地です。
サックサクの食感に加えて、香りの高さが特筆もの。アーモンドプードルを加えるところが増えていますが、こちらは修業先の「ア・キャトル」から引き継いだ全粒粉。香りも食感も両方高めていますね。
シンプルだけどつくづく美味しいタルト。お見事です。



●『タルト オ シトロン』  辺10.5cm 高さ3.5cmほど。
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おや、檸檬のタルトがある! やったー、初めての出会い。

こちらは、店名ムーラタルト Le Moule a Tarte (タルト型のこと)  名が体を表すように、パイはもちろんタルトもすこぶる美味しいのです。
吉野シェフの檸檬タルト食べたいなぁとずっと思っていたのですが、今回ようやく。以前は頼まれた時や気が向いた時にだけ作っていたそうですが、最近では季節の定番に。

同じパートシュクレの土台にレモンカードを流し、メレンゲを絞って、粉糖をたっぷり振って、バーナーではなくオーブンでしっかり焼いています。
おかげでメレンゲがダクワーズのようにサクッふわっとした軽やかな食感に。そこから飛び出してくるレモンの酸味は苛烈といってもいいほど、ひゃあぁぁ! この繊細さと強さの対比は、じつに鮮やか。

いやいや、口当たりの対比も心地いいのです。そう、メレンゲのふわふわとカードのとろ~り感。
それに加えて、ここでもシュクレはサクサクッと小気味いいリズムを刻み、華やかな香りで彩ってくれています。



●『いちごのタルトレット』  径7.5cm 高さ7cmほど。
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かつて南大阪に“完熟苺”を提供してくれる農家があり、元々その苺のために開発したお菓子だそうです。
いまはもう手に入らなくなったのですが、別の苺で再現を試みています。

パートシュクレにダマンド、パティシェール(キルシュ入り)を絞って苺をきれいに飾り、自家製ナパージュをたっぷり。トップに生のピスタチオクリーム。

さて、このナパージュ、自家製です。いまどきナパージュを手作りするお店はほとんどありませんよ。
吉野シェフは「市販のものは美味しくないし、何が入っているのか分からないので使えません」とのこと。水・砂糖・レモン&オレンジの皮・ミント・ペクチン。使うごとにそのお菓子のメイン素材の果汁を加えています。ここではもちろん苺のピューレ。

苺のタルトは簡単そうで、意外とバランスが難しい、というのがここ十年来の私たちの結論なのですが、シェフは事も無げに「そんなん考えたこともなかったぁ」と無防備なお答え。
が、しかーし、なのです。やや酸味のある苺とどっしりとした土台、ぽってりとしたキルシュ風味のパティシェール、このバランスがぴったり決まっているのです。トップのピスタチオクリームも苺の香りの余韻を膨らませて大いに働いてくれています。

考えるまでもなく、バランスを考えれば普通にこうなるよ、というなんたる自然体。いやはやお見事です。



●『タヒチ』  径6cm 高さ5.5cmほど。
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底に1層シュクレ生地があり、タルトの形はしていませんが、シブーストです。

下の層は、マスカルポーネベースのプードル入りアパレイユで、キルシュ漬けのグリオットチェリーが隠れています。上の層がタヒチ産ヴァニラの香りを利かせたシブーストクリーム。
写真ではもう泣いてしまっていますが、トップはグラニュー糖で2回、粉糖で1回のカラメリゼ。

これはショーカードにも書かれている通り、まさに“香り”のケーキ。
タヒチ産ヴァニラの花のような香りに出会って意欲をかき立てられた、そうです。ヴァニラにあわせる香りが、キルシュ、そしてグリオットが持っている杏仁香。3つの香りが重なり、はたまた引き立てあい……、馥郁と、じつに馥郁と。ふうぅ~。
シェフは「ヴァニラとキルシュは似ている」といいますが、へぇそうなの? (吉野シェフの香りの鑑定は、独自のものがあって虚をつかれます)。

ともあれ。アパレイユはほぼマスカルポーネのチーズケーキと言ってよく、グリオットの酸味がよく合っています。その力強さを感じさせつつ、シブーストの軽やかさで、全体の印象を一気に軽さの方向に高められています。
華やかに香って、キリッと印象深く、どこかコクを感じさせるという、いいことづくめのシブースト。天晴れ、お見事です。



●『ショーソン オ フレーズ』  9.5×5.8cm 高さ4cm 50gほど。
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苺のショーソン、20周年記念のために作られた、ニューフェイスです。

ショーソンといえば、林檎が相場ですが、パイは懐深い生地なのでなんでもありではないでしょうか。こちらでは、ほかに『無花果のショーソン』も季節になれば作られるそうですよ。

いつものオーソドックスなパイ生地で苺ジャムを包んで焼いています。シンプル極まりない。これが美味しいんだなぁ!
生地をご覧あれ。食欲を刺激する芳ばしい焼き色、ほれぼれ。
しっかり焼き込んでわずかに苦みもあるのですが、合わせる甘味で調和され、旨味だけが感じられます。
ジャムも苺と砂糖だけというストレートさですが、甘味酸味のバランスがピタリと決まっていて、鑑賞すべき美味しさに到達しています。

画像苺ジャムのパイというと老舗「フロインドリーブ」でしか味わったことがなかったのですが。これはもっともっと作られていいパイ菓子ですぞ。

記念商品がないのもいかがなものかと、人手不足の中、簡単なものでもいいかと踏み切った新作です。
パイは手の内に入っていることもあるのでしょうが、なにしろ目が輝くほどの美味しさの世界にまで引き上げているところは、さすが。やることなすことお見事でした。




画像辻製菓の初代講師の一人だった中野博昭さんに「ア・キャトル」で、「ダニエル」で中村道彦さんに習った人なので、オーソドックス路線と思われがちですが、若き日にはけっこう激しく、難しいお菓子で攻めていたこともあるとのこと。若いパティシエのアグレッシブなケーキには「そうでなきゃね」と寛容の姿勢。
ご本人、いつの間にか50歳を過ぎていますが、いまでも余裕がある時に、ときおりハッとするようなケーキをこっそり出していることがあるので、割引チケットに誘われなくとも、しょっちゅう顔出ししなくっちゃね。

最後になりましたが、オープン20周年、おめでとうございまーす!



●『ルビーと河内晩柑のタルト』450円  『タルト オ シトロン』450円  『いちごのタルトレット』580円  『タヒチ』500円  『ショーソン オ フレーズ』380円  (※内税)

●「フランス菓子工房ムーラタルト」
  大阪市北区天神橋3-1-6  TEL06-6242-7177  定休日/月曜・火曜  営業時間/10:00~19:00