エメラ(10) 『ミルフォイユ ショコラ』

ミシュランの3ツ星の定義は、その店のためだけに遠路出掛ける価値のある店というものです。奈良市、近鉄奈良線・富雄駅(各停しか停まりません)南2分のところにある「ショコラトリー パティスリー エメラ」さんは、まさにそれだけの値打ちのあるお店。
ショーケースに並ぶケーキの美しさを見ただけで、シェフ藤原尚樹さんの、一つひとつのお菓子への想いの深さが伝わってきます。想いが深すぎて定番のケーキも有為転変、前進しつづけていますので、通い詰めていないと全貌を掴めないかもしれませんよ。

第17回「3.14=π(パイ)の日 R」キャンペーンにも一番忙しい時期だというのに、熱心に取り組んでくれています。深謝。
昨年は私たちのリクエストによる、チョコパイ。パイ名人であると同時に、トップクラスのショコラティエの藤原さんを見込んでの切なるお願い。心良く受けてくれました。しかもこちらの期待をどーんと上回る素晴らしさ。
商品名は『フィユテショコラ』。絶品です。今年もこの時期だけ作ってくれます。
お客さんはもちろん、シェフも奥様の伊公子さんもスタッフも、そして私たちも大好き。もちろん殿堂入りです。チョコパイを語る時に、これを知らなかったら可哀想なことになるでしょう、と言い切ってしまいましょう。ふふっ。

さて。今年もショコラティエならでは(ここ大事)のミルフィーユを作ってくれました。


●『ミルフォイユ ショコラ』  8×3.7cm 高さ4cmほど。
画像
キリッとシャープな姿。
チョコレートのミルフィーユです。食べたかったんだぁ。

パイ生地にカカオ入れるだけ、と思ってはいけませんぞ。美味しく焼くのがとても難しく、尻込みするパティシエが多いのです。

粉にカカオを入れる方法、バターにチョコレートを入れる方法といろいろあるのですが、藤原シェフはアンヴェルセで粉にもバターにもカカオを加え、カスタードにチョコレートを加えるという、全編チョコ尽くしに。

カカオが入ると生地が締まり、バリンパリンの堅い層になりがち。アンヴェルセにすることで回避し、サクサクッと通常のフィユタージュなみの食感を実現(両面薄くカラメリゼ)。
焼き色で焼け具合を確認できないだけに、焦がさないようにするのに入念なチェックが必要です。
シェフは普通のフィユタージュでも苦みが刺すように強くてはダメ。それでは「エメラ」流ではないし、そもそもまったく美味しくないという好み。今回も生地の端っこの試食を重ねて、焼きのレベルをチェック。
チョコの旨味と香りが馥郁と香り立つ生地を完成させたのでした。

画像チョコクリームは、コロンビア産のフィノ デ アロマ(fino de aroma)のマランタ(カカオ61%)を主体としたもの。
ベースとなるカスタードはあえて個性の弱いものにしています。トロリサラリと柔らかくなめらかな口溶けとともに、チョコの旨味が口いっぱいに広がります。でも、スイートチョコ感が強い割には重くない。
食感といい口溶けといい味わいといい、とても軽やか。気品があります。
 
黙々と食べてしまいますねぇ。美味しいと黙ってしまう、という典型。ついつい味に集中してしまうのです。
夢中にさせる味なのに少しも強くない、あくどくない。軽やかな風情。やはりお見事です。
一口ごとに心奪われて……… ズッキュン!


藤原シェフ、じつは8年ぶり2度目のフィユタージュショコラへの取り組み。前回は不満足な結果だったそうで、それ以来お蔵入り。しかし今回、私たちからの誘いかけに迷いなく即応してくれました。
この8年という歳月で大きな自信を蓄えたからでしょう。今の自分を試すのに絶好のアイテムでもあったのです。
シェフ曰く「ルセット通りに作るのは難しくありません。ただ、自分が抱いている理想のイメージにどう近づけていくか」。
最初オーディネールでやってみると、やはりバリンバリンすぎる。2度目、アンヴェルセに。「うん、いける。サクサクしてる」。3度目、焼きを微調整して、香りは高いし完全に焼けていて、苦みも無し。よしよし。
という開発の状況だった由。
ショコラトリーとしての誇りをかけたような作品ですが、その成果が“軽味の域”に達していることに驚きました。藤原シェフ、さらに一皮むけましたね。

*    *    *    *

今年45歳になるという本来オジサン世代なのに、万年青年のシェフ。息をのむ美しさのショーケース&ケーキ(ケーキの並び順、並べる角度もすべてシェフの指定)からピリピリとした神経質な人をイメージしてしまうかもしれませんが、厨房の扉を開けての開口一番のご挨拶は「あっどうもぉ~ご無沙汰していま~~す!」、そして毎回毎回明るくシャイな笑顔。
ふっと私の頭の中に、♪パッパッパラリァ~♪とご陽気な曲が流れる瞬間。そしてお話しするときのニコニコ、へらへらぶり(失礼!)。もちろん真面目な話も結構しているのですが、5分に1回は笑いを取りたい冗句好き。
さらに、私たちのお間抜けな質問にも、面倒くさそうではなくそれどころか嬉々として答えてくれる心のキャパの大きさにも感心してしまいます。
そういった朗らかな態度からは、お菓子に集中する顔が想像できないほど、いやまったく。オンオフの切り替えが上手いからこその集中力なのでしょう。



●『ミルフォイユ ショコラ』500円/土日限定  (※外税/お店では内税外税両方併記)

●「ショコラトリー パティスリー エメラ」
  奈良市富雄元町2-6-40  TEL0742-44-6006  定休日/水曜  営業時間/11:00~20:00(平日)11:00~19:00(日祝)

  ※ブログ「パイ日和おまけ」では、こちらの生ケーキ&チョコレート菓子をご紹介しています。