イデ(2) 『ミルフィユ ピスターシュ』『パルメザンチーズとスモークソルト黒こしょう』

兵庫県尼崎市、阪急神戸線・武庫之荘駅の北西10分ほどのところにある「パティスリー イデ idee」さん。シェフは井伊秀仁さん(1977年生まれ)。 ideeはアイデアという意味と、シェフがフランスで働いていた時に、秀仁 hidehitoという名前からイデと呼ばれていたから。

井伊さんは高校卒業後、辻製菓を経て、南大阪の人気店「パティスリーモーン」で5年務めた後、カフェで3年ばかり。そこで知り合った人からフランスでの働き方、仕事を斡旋してくれるところを教えてもらい、ノルマンディーのルレデセール加盟店で働いた経験の持ち主。
帰国後、また古巣の「モーン」へ。なにより凄いのは出身店から呼び戻されたこと。信頼の篤さを物語っています。チーフを任されました。二度目も5年。この長さだからこそ身に付けたことがいっぱいあったでしょう。レシピが公開されている今の時代、職業人として辛抱強く勤め上げることこそが、独立して後、大いに役立つのです。
その証拠がまさにこちらのお店。2011年にオープンして地道にファンを増やし、地元で愛されるお店に育て上げています。メディアに注目された後、新鮮味がなくなりメディアから遠ざかった途端にお客から忘れられた若手とは大違いです。

この成長力の秘密はなにかって? ふふふっ当然ですが、美味しいから!
お客を遠ざけない節度ある主張、自分が美味しいと信じるものを創作し、奥様の綾香さんが美味しいと頷けばショーケースに並びます。ごく自然なご夫婦の信頼関係が綾香さんの商品説明からも伺えます。この温かな満足感を経験すればファンになってしまうでしょう。
第17回「3.14=π(パイ)の日 R」キャンペーンも、前回初訪問の後日お誘いしたところ快諾。これほどのスピード参加も稀。自信があればこそですね。


●『ミルフィユ ピスターシュ』  8.5×3.2cm 高さ5.6cmほど。
画像
新作です。

ほぅ、春色ミルフィーユ! 
優しげな緑(ピスタチオ)とビビットな赤(フランボワーズペパン)、奇麗な姿ですね。

フィユタージュは薄力粉:強力粉=1:1、3ツ折り6回と標準的ですが、薄力粉は北海道産小麦100%、強力粉は個性が強すぎない小田象社のもの、バターは醗酵と普通のものを半々など、着地点が明確。

井伊シェフはミルフィーユ(季節によってヴァニラとマロンの2種あり)にはいつも、普通にカスタードを挟むのではなくムースリーヌを挟みます。むしろバタークリームと呼びたくなるほどバターの配合が多いのではないでしょうか。
今回はさらにピスタチオペースト入り。甘さは控えめですが、濃厚には違いありません。むふっ好きなタイプ、期待が高まります。

画像では、いざ…… わぉ、美味しいな!
グッと浮きを抑えた生地のみっしりとした食感もいいし、ザクッパリッと強い印象を与えつつ、鱗片の細かさからも分かるように繊細さも兼ねそなえています。
それに、塩気。やや強めで、じつにクリームと合致しています。

対応するクリームはバターのリッチさとピスタチオのナッツ感でコクがあり、一瞬重さを感じさせますが、トロリ、さらーりとゆっくりとなめらかに溶け出していくではありませんか。この口溶けの浮遊感、いいなぁ。ふうぅぅ。

さらに、フランボワーズの自家製コンフィチュールペパン。フランボワーズのキリッとした酸味が華やかなアクセントになり、味を深くしているような印象。と同時に、バターでのっぺりとした印象に陥ることも防いでいます。

フィユタージュ・ピスタチオのムースリーヌ・フランボワーズペパン。冴えわたるバランス感覚。
トリニテ、聖三位一体のミルフィーユ、お見事です。




●『パルメザンチーズとスモークソルト黒こしょう』  4.5×7.6cm 厚み1.7cmほど。
画像
わーい、やったあ。サレ系のパイの登場です。

ブリゼっぽい生地にパルメザンチーズと黒胡椒を煉り込み、涙型に焼き上げたところで、表面にオランダ産海塩のスモークソルトをまぶしています。

へぇ、塩の燻製? ちょっと珍しいですね。
口元へ持ってくると、ブナの燻香が。ベーコンを食べているような錯覚に陥ります。あははっ。

生地を少し煉り込んでいるからでしょうか、チーズのトロミのせいでしょうか、食感はややクッキーぽい仕上がり。
フーム、スモークの薫りを楽しみながら、パクッといけば、パルメザンが旨味た~っぷり、さらに黒胡椒のピリッとした刺激が後口に印象的です。

なるほど長ーい名前になるはずですね。どれも主役級の役者揃い。まさにオールスターキャスト、クレジットが難しいのがよく分かります。オールスターの映画がズッコケがちなのに比べて、このパイはじつに上手く一人ひとりの役者が持ち味を発揮しつつ、ピタリとはまっていい仕事をしています。

画像

こりゃついついビールが進むなぁと思ったら、井伊シェフのお勧めは「ビールもいいけど、白ワインもね」とのこと。
辛口のリースリングをキリッと冷やしたものがあいそうですね。
いやいや、気に入りましたぞ。




こちらは、生のショーケースを見ても、焼菓子の棚(20種ほど)を見てもオリジナルなものが多く並んでいます。どこかの物まねというものが見当たりません。静かに自然体で営業している雰囲気ですが、秘めた自信の大きさ、その裏付けとなる技術と知識の蓄えは相当なものだと感じました。



●『ミルフィユ ピスターシュ』440円  『パルメザンチーズとスモークソルト黒こしょう(2個入)』200円  (※外税)

●「パティスリー イデ」
  兵庫県尼崎市武庫之荘2-23-16  TEL06-6433-1171  定休日/水曜  営業時間/10:00~20:00

※ブログ「パイ日和おまけ」では、こちらの生ケーキをご紹介しています。