リヨン(4) 『ミルリトン ダミアン』『タルト オ ポワール』『クラフティ リムーザン』

関西で本格的フランス菓子の嚆矢となったお店の一つが和歌山の「パティスリー リヨン」さん。
今年オープン満30年、矢田万幸人シェフ、いまや大ベテランというべきキャリアですが、まだ55歳。若くしてオープンしたんですねぇ。
3店舗まで拡大した後に方向転換、悠々自適の経営に。作り手が活き活きとした暮らしをしていてこそ、活力溢れるいいお菓子が作れるというもの。それを実践してみせています。もちろん、どんな状況でも一番大切なものを見失わない、矢田シェフの心の在り方が根底にあるからこそ長年愛され支持されてきたのでしょう。
ではさっそく、最近の充実振りを示すお菓子をご紹介しましょう。


●『ミルリトン ダミアン』  径7cm 高さ2.4cmほど。
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ミルリトンも定番で作りつづけてくれています。
じつに、シンプルなお菓子ですが、それ故というべきか大好きなのです。

パートシュクレの器に、卵黄やバターが多めのダマンドを詰め、表面に粉糖を振って焼くと、表面がほんの少しカラメリゼされてかすかにパリン、チャリチャリとした食感になり、中のふっくらとしたダマンドを引き立てます。
焼き上がりにお化粧的に、泣かない粉糖をもう一度、たっぷり。

シュクレは比較的固めでナイフに少し力が入りますが、口に入れるとサクサクと小気味良く崩れてくれます。
同時にダマンド(焦がしバターの濾したものも加えています)の優しい豊満さが、広がります。ふぅぅ。

農家の指の太いお母さんが作った野太いけれど、繊細な優しさ、滋味を湛えたような味わいと表現したくなります。こういうお菓子こそがレパートリーの根幹にあるべきではないでしょうか。日常にそっと寄り添うお菓子、飽きることなく繰り返し食べたくなりますね。

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第17回「3.14=π(パイ)の日 R」キャンペーンの期間中はキャンペーン対象商品となり、パートシュクレではなく、フィユタージュの2番生地が使われます。やったね。

あー、それも食べたいよぉ! 





●『タルト オ ポワール』  辺10cm 高さ3.3cmほど。
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フランス菓子の定番中の定番。
まん丸のホールを見ると、洋梨が美しく並んだ姿に食欲を刺激されてしまいます。

パータフォンセに、ラム酒で風味付けした同割りの皮付きダマンド。
そして、缶詰(通年対応できることと、日本のフレッシュのものが水っぽくて素っ気ない味だったので)のイタリア産洋梨。

シェフ曰く「ラム酒のサトウキビの香りは洋梨と相性がいいはず。洋梨はチョコと相性がよく→チョコはラム酒と合う」。
という三段論法の中抜きにより、まァつまりはラム酒を合わせて、シンプルな味わいに香りの奥行きを与えています。

たっぷりジュースを吸ったダマンドが美味しいですね。フォンセもアーモンドプードル入りで香りが良く、サクザクッと軽快。ここでもグンと旨味を増しています。いいなあ。
当たり前だけど、深い。うんうんうん!



●『クラフティ リムーザン』  辺10.5cm 高さ3.3cmほど。
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あらん、奇麗なさくらんぼが乗っかってる! 
一際目を惹きました。

フォンセ生地を敷き、種を取ったサクランボを急速冷凍したものを並べ、キルシュヴァッサーで風味付けしたアパレイユを流して焼いています。

これもフランスの母親が作る定番のおやつ。ホッと安心するような美味しさ、優しい甘味が持ち味です。
リムーザン地方はサクランボの名産地で、キリッと酸っぱい味わいが目覚ましいアクセントになるのです。

アパレイユがお粥というか離乳食というか、もっちりとして包み込むような優しさがあります。フォンセは白っぽく焼き上げ、食感も味わいも柔和な印象。
そこへ、サクランボの甘酸っぱさとの対比、素晴らしいですね。キュンのちホッ。そして、終始にこにこ~。

自己表現をやり終えた、精神の安定のあるベテランだからこそ、美味しさへまっしぐら。お見事でございます。



画像お店を訪れれば当然分かることですが、矢田シェフ、店の在り方をお菓子だけでなくサービスやインテリアも含めたトータルコーディネイトで考えています。
カフェスペースは厚めのカーテンで彩られ、少し暗めの照明が落ち着きを与えています。クラシックやシャンソンが流れ、ドリンク類はポットサービスで長時間寛ぐために供されます。小さい空間ですが「サロン ド テ」としての格式を保っています。

“整えられた舞台があってこそ、心を込めたお菓子が映える”。
そんなことを今回とっくりと得心して帰路に着いたのでした。



●『ミルリトン ダミアン』250円(270円) 『タルト オ ポワール』380円(410円) 『クラフティ リムーザン』400円(432円)(※内税外税両方併記)
  『ミルクティー』600円  『カフェオレ』600円  (※外税)

●「パティスリー リヨン」
  和歌山市十番丁84  TEK073-433-7855  定休日/月曜・ときどき不定休あり  営業時間/12:00~19:30