エルベラン(10) 『タルトタタン』

兵庫県西宮市、阪急神戸線・夙川駅の北2分のところにある「エルベラン」さん。私たちの地元の歴史ある名店。
柿田衛二シェフは豊富な研究体験と深い熟考から新作を次々に生み出してきます。あっと驚くようなアイデアを素直な美味しさに落とし込める手腕は、ほかに例を知らないほど。今回も凄技ですぞ!


●『タルトタタン』  5.3×5.3cm 高さ5.8cm 100gほど。
画像
わぁ可愛い!
11月3日初お目見えの新作。
林檎そっくりさんのタルトタタン。ショーケースでも異彩を放っています。

フレキシパンにリンゴの型が出たので、ずっと腹案を抱いていたそうです。タタンをリンゴ型で、と思いつくのはよくあるパターンですが、タタンの焼き込んだ色を見せずに、あえて覆って完全に林檎を模してくるとは。ある意味、大胆!
しかもテーマは、“林檎を煮詰めないこと。フレッシュな林檎の香りを楽しむこと”。
タタンの正反対を作るような、ふーむ尋常じゃないですね。


とはいえ、構成はタルトタタン。
櫛形に切った紅玉をカラメルと、香りを活かすために皮をコンフィチュールにしたものと一緒に焼き込みます。煮詰めないために低めの180度で2時間。その後、小さなカヌレ型に入れて冷凍。
ヴァローナのホワイトチョコ(オパリス)にリキュールのシャルトリューズ・ヴェールと青リンゴのピューレを加えてガナッシュを作り一晩寝かせた後、ミキサーで泡立て。
フレキシパンの型の内側に塗り付け、その中に焼き込んだ林檎を入れます。スポンジで蓋。
底生地のパイはいつものアンヴェルセですが、いつもより浮きを抑え、焼き込みを少し深くしているようです。
本体のグラッサージュはカラメルに色粉で色付けしたもの。

とまァ説明が長くて早く食べたいと気もそぞろ。
まぁ待て待て。どうどうと落ち着かせて、口へ運べば…… ほぉぉぉ。タタンだぁ。果実のジューシー感たっぷりの爽やかなタルトタタン。
林檎はカラメルのほろ苦さを抱き込みつつ、紅玉の酸味の魅力を見事に保っています。ホワイトチョコのクリームが円やかさを添えつつ、林檎感を増してもいるような。立てているので軽やかさも際立っています。
シェフ曰く「クリームが満遍なく添えられているスタイルのタルトタタン」なのも、よく分かります。うんうん美味しいよぉ。


いや、もう凄すぎる。ということで、いつもは全体を味わうのですが、ちょいとマナー違反を。各パーツにも俄然興味が湧いたので、カットして単独でちょびっと舐めてみたりもしました。
ん? 中のタタンの部分は意外と小さいし、結構ホロ苦。ホワイトチョコクリームもシャルトリューズがそこそこ苦いし、特有な薬草のような青臭さが目立ってるぞ。
ところがすべてを一緒に味わうと、それらの素の味わいはすべて消え去り、林檎は香りと酸味が浮き上がり、たっぷりのホワイトチョコクリームをお伴にすることで林檎感をじっくりと楽しめるものに変身。すべてがタタンと思えるだけのヴォリュームが感じられるのです。
クリームで和らげられているはずなのに、逆に林檎の風味と酸味を楽しめる、林檎ジュースのような感覚を秘めています。
単独では感じられない青リンゴが利いているのかな。それともシャルトリューズ? このリキュールが全体にスッキリ感をもたらしていることは間違いないですけどね。


分析的にああでもないこうでもないと考えると難しいですが、結果として、とても素直に林檎を楽しめるケーキです。
この楽しみは緻密な計算の末に辿り着いた“スーパー解”。難問とされていた問題を解くような快感があったことでしょう。普段のシェフは色粉をほとんど使わず、色づけもフルーツを使用。しかし、今回は林檎の色を出すのにフランボワーズを使ったりすると、みずから解を乱してしまう結果になるので控えた由。すべてを見通す落ち着いた思考力です。
ちなみにシャルトリューズ使いのアイデアは、高木康政シェフの著書(永井紀之シェフとの共著)に出ていたものだそうです。アイデアソースを幅広く持っていることで、高い次元の解法に導けるということですね。

知恵の絞りがいのあるテーマでしたが、その創作の発想からゴールに至る一手一手が詰め将棋のように正解(どこかに存在している解ではなく自分で考えた正解)に迫って行く。プロとしての本当の楽しみがここにはあります。



●『タルトタタン』500円  (※内税)

●「エルベラン」
  兵庫県西宮市相生町7-12  TEL0120-440-380  定休日/火曜  営業時間/9:00~18:00  毎週水曜日クッキーデー10:00~12:30 13:00~16:00

※ブログ「パイ日和おまけ」では、こちらの生ケーキをご紹介しています。