初登場! 遊菓(1)『くるみのガレット』『あんとくるみのパイ』『木の実仲間のピーカンパイ』『チョコレ

神戸市灘区、阪急神戸線・六甲駅から神戸大へ向かう道をほんの少し上り始めたところの左側。小さな雑居ビルにある「遊菓」さん。2013年4月オープンです。
オーナーの中村由佳さんは1961年生まれ。お菓子作りのキャリアは、なんとほぼオープンしてからという“ど素人”。
でも、なのです。中村さん人後に落ちることのない鋭い味覚の持ち主。そして、幅広い食の体験を積み重ねてきた様子。オープンして4年、もはや素人と侮れないお菓子を焼いているのです。
原体験として、お母さんやご近所さん手作りの焼き林檎であったりマドレーヌ、バナナケーキなど… いい材料で作ったお菓子。香りが豊かで、どぎつさのない素直な美味しさがあるのだとか。たしかに、有名だから美味しいとは限りませんものね。
この経験が生かされていて、オープンキッチンということもあって、お店に入ると、期待が湧き上がってくる美味しい香りに満たされているのです。
ではご紹介しましょう。


●『くるみのガレット』  辺5.8cm 高さ2.4cmほど。
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これはエンガディナーですね。
ビスケット生地で胡桃のカラメル和えを包んでいます。

中村さん、最初の頃はカラメルを作るのに「ワー、焦げてきた~」とおっかなびっくりだったそうですが、今ではしっかり焦がしてビターなカラメルを作っています。
なかなかハードに焦がしていますが、もちろん焦げすぎではなく、心とろかすほろ苦さ。天晴れ!

その苦みが淡い味わいのクッキー生地とよく馴染み、深みを演出しています。胡桃もシャクシャクとした食感だけでなく、ほのかな渋みと豊かなコクでしっかり主役の地位を主張。

うんうん、バランスいいなぁ。お見事です。



●『あんとくるみのパイ』   径6cm 高さ2.4cmほど。
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パイにあんこを入れようと思った時に、ふと生八ッ橋を思い浮かべ、「シナモン合うわ」と組合せを決定。

ナッツ好きなのでトッピングは胡桃。餡の上はクレームダマンドでしょうか。
パイ生地はバターを切り込むブリゼ風。ごま油も使っているそうです。

ははーん、これは月餅じゃぁ、あーりませんか。
生地は白い上がりだし、サラサラ、モソモソとした食感で、ごま油ということもあって、中華のパイに近い印象なのです。ほんのり塩気も感じられるし。

焼菓子の栞に“和テイストのパイ”と書かれていましたが、ついパイ生地に意識が向いてしまうせいで、このような感想を抱きました。
まァ、和でも中華でもどちらでもいいわけで、ここが味覚の面白さ…… 美味しさに変わりはありませんからね。




●『木の実仲間のピーカンパイ』  辺8.5cm 高さ3.8cmほど。
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定番です。

近頃アメリカンケーキが少し注目されるようになり、ピーカンパイもチラホラと見掛けるようになりました。
しかし、これは流行を追っているのではさらさらなく、中村さんのナッツ好きのよって来るところ。

だからアメリカンタイプの甘味の強いものにはせず、ほのかな甘味で、むしろナッツ類の甘味が勝っているかと思うほど。
パイ生地にスポンジを敷いて、アーモンド、クルミ、カシューナッツ、ヘーゼルナッツのダイス、トップにびっしりとピーカンナッツ。
黒砂糖、蜂蜜、メープルシロップで甘味付け。ラム酒を少々。バターと卵の液をかけて焼く。

わぉ、ぎっしりの木の実だぁ! ナッツ三昧、ナッツ満喫!!
木の実の仲間たちのアンサンブルが良くて、ピーカンとよく合っていますね。逆に起伏がなく一体化し過ぎているという意見もあるでしょうが、豪快にナッツを食べる快感は捨て難い。

甘味を控えて、ナッツの味わいを全面に押し出して来ていることを考えても、自然の持ち味を素直に活かすポリシーに沿っていて看板メニューに据えるだけのことはありますね。
こちらのお店の魅力を明確にするピーカンパイと云えるでしょう。



●『チョコレートのタルト』  辺8cm 高さ2.8cmほど。
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チョコレート入りのタルト生地に、チョコレート入りのアーモンドクリーム(晩生柑などの自家製オレンジピールもほんの少しチラチラ)、上はチョコムース。
表面はグラッサージュ。ベルギーのチョコレートだそうです。

おっ、思い切ってハイカカオで攻めていますね。生地にカカオでなくチョコレートを入れる辺りに味覚のセンスが光っています。
やや堅めになってしまうのですが、おかげでチョコの風味が格段に強くなっているのではないでしょうか。

ラム酒も利いていて、しっかり大人のタルトです。



タルトを中心に、プリンなどがあって、その日は28種ほどショーケースに並んでいました。焼菓子も25種とヴァラエティ豊か。すべて一人で作っています。小さなカウンターがあってイートインできるのですが、飲み物も珈琲紅茶の2種類だけかと思いきや、自家製乳酸ドリンクやら梅ジュースなど、あれこれ迷う楽しみがある品揃え。

中村さんのご実家は商売とは縁遠く、ご自身も長く事務職に就いていました。ご主人のご実家がご商売をされていて、ご主人から“死ぬまでに一度商売を経験するのも悪くない”と唆されたのがきっかけ。
とはいっても、その時点でもパティシエールになろうとは、想像の外。パティシエを雇ってオーナーとして、愉しく趣味を活かそうと考えていたのでした。
お店のインテリアに凝り、1点もののアンティークのランプシェードを買い集めたり、磨りガラスが入った大正時代の玄関引き戸を探して来たり、実家からお気に入りの食器を持ち込んだり、カーテンを手作りしたり…… ワクワクした時間を過ごしていたそうです。
ところが、肝心のパティシエと方針が合わず決裂。すでにいろいろと準備が進んでいましたし、物件があるものだから、ご自身でゼロからのスタート。「モバックショー」へ出掛けてオーブンのメーカーを見て歩くところから。オーブンの納入業者から食材卸の業者を教えてもらったり。暗中模索とはこのことでしょうね。

私たちも相当数お店を見てきましたが、これほどの無手勝流は初めて。
座礁しなかったのは、中村さんの秘めた才能が開花したと云う以外ないですね。おそらく、日常の家庭料理(味の組み立てと、加熱による食材の変化など)を論理的に理解していたということ、味覚の絶対感覚と強固な記憶に恵まれていた、ということではないでしょうか。
お菓子作りの技術に関してはまだまだ新人クラス。ということは、伸びしろたっぷり。“味覚人試行物体”(ふふっ勝手に名付けました)ともいうべき五十路の今後のさらなる大化けに期待したいですね。



●『くるみのガレット』250円  『あんとくるみのパイ』250円  『木の実仲間のピーカンパイ』420円  『チョコレートのタルト』400円  (※内税)

●「坂道の小さな菓子工房 遊菓」
  神戸市灘区山田町3-2-26六甲SKビル  TEL090-1226-0323  定休日/月曜(休日の場合は火曜)  営業時間/10:30~20:00(日祝~19:00)

  ※ブログ「パイ日和おまけ」では、こちらの生ケーキをご紹介しています。