パティスリーアキトAKITO(2) 『ルバーブと野イチゴのタルト』『シブーストショコラノワゼット』

神戸元町、南京街から少し西へ外れたところにある「パティスリーAKITO アキト」さん。オープンから半年を経て、洗練されたケーキの味わいにますます磨きがかかってきているように感じます。
いくらベテランシェフであっても、オープン当初は手慣れたケーキを作っていても、機材や環境にたいする違和感や、精神的な気負いなど、妨げになるものがあって当然。すでに知名度の高い新店ですから、取材やらイベントへのお誘いやら多忙にもかかわらず、どうやらすでに自分の世界に集中できるようになっているようにお見受け致しました。
前回より、すべて味わいがより先鋭で、深くなったように感じられたのです。夏と秋という季節の差だけではないでしょう。いよいよ実力発揮の時が来たようです。


●『ルバーブと野イチゴのタルト』   径6.5cm 高さ5cmほど。
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ルバーブって、初夏が旬じゃないの? とお思いの方もあるかもしれませんね。
秋にももう一度ピークを迎えます。
自称ルバーブ党としては、夏以外にも作っているお店はほとんどないので、ふふっ嬉しいなぁ。

アパレイユとともにルバーブが焼き込まれ、その上にルバーブと野イチゴのジャム、そしてイタリアンメレンゲ。
生地はブリゼが使われていて、径の割には分厚め。それが少しも気にならないのは、全体のバランスがよく取れているからでしょう。

ではいただきましょう。
ルバーブは一晩砂糖をまぶして灰汁抜きをしたものが使われていて、爽やかな印象。
メレンゲ、きめ細かいですねぇ。しかも滑らか。卵白の匂いが残っていると重く感じられるものもあるのですが、まったく感じられずとても軽やかです。甘さも淡白。
たしか以前にシェフは「大甘のメレンゲは好みじゃない」とおっしゃっていましたっけ。

ルバーブはアパレイユと一体となって柔らかな甘酸っぱさの世界を築いています。そこをジャムでほのかだけど明確に輪郭を描き出しています。
ん? 何処からか蜂蜜のような甘やかな香りと風味を感じますが、野イチゴの持ち味でしょうか。奥行きのある味わい。ルバーブには苺を合わせるのが一般的ですが、あえてより個性の明確な野イチゴを合わせたところに、味わいの妙があります。

繊細で優しい味わいのなかに、一瞬、ルバーブと野イチゴの個性がキラリと輝くあたりにシェフの優しいけれど、確固とした個性が出ていますね。




●『シブーストショコラノワゼット』   径7cm 高さ3.5cmほど。
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のっけから絶品! と言ってしまいましょう。

シブーストと言えば、甘ったるさが美味しさの決め手のようなお菓子だと思っていましたし、まァそれも大好きなのですが、ふぅむこんなアプローチもあったのですね。

薄めのパートシュクレにノワゼットのクレームブリュレ、ノワゼットのミルクジャム、その上にショコラのシブーストクリーム。
おやっ? トップは、カラメリゼではなくカラメルのジュレでしょうか、少し粘りがあります。

構成上はシブーストそのもので、大甘で当然なのです。
ところが、なのですよぉ。
ショコラの部分にベルガモットで風味付けが。がんがん洋酒が攻めて来るほどではないのですが、カカオの苦みとともにキレを良くしているおかげで、甘いけれど、甘えた甘さに感じられないのです。静かな翳、のような使い方。

ノワゼットの風味とチョコレートの香りを核に、ベルガモット、ミルク、カラメル、シュクレの焼き込んだ香り……。
パーツすべての香りが五感をじっくりと刺激。嗅覚だけを刺激されているはずなのに、香りのフェイズが異なることで感覚の別の部分を連続して刺激されている気分になるのです。香りの際立つケーキと云っていいでしょう。

しかも贅沢なことには、この香りを通奏低音として、ブリュレの豊満さ、ミルクジャムの優しさ、シュクレの繊細さ、シブーストの手なずけられた甘さと軽やかさまで存分に楽しめるのです。ふうぅ。

味わいのベースの優しさのなかに、ショコラの苦みを美味しさとして華麗に浮かび上がらせる手腕は、見事としか言い様がないですねぇ。
姿は茶系の地味めのシブーストですが、煌めいています。ワォ!




哲人(あきと)シェフ。哲の訓読みが“あきらか”だと知っている人は少ないかもしれません。深く考えて物事を明らかにする、という意味があるようです。
田中さんはご自分の名前にふさわしく素材の持ち味や働きを精査して、明らかにしているようです。その追求がなければ、過剰な表現を排除し明瞭な美味しさに至ることはできないと思います。その精神性にも心奪われてしまいました。



●『ルバーブと野イチゴのタルト』450円  『シブーストショコラノワゼット』480円   (※外税)

●「パティスリーAKITO」
  神戸市中央区元町通3-17-6  TEL078-332-3620  定休日/火曜  営業時間/10:00~19:00

※ブログ「パイ日和・おまけ」では、このお店の生ケーキを紹介しています。