パティスリー ショコラトリー エメラ (2)『タルトタタン』『タルトポワール』『タルトマロンカシス』

大阪方面から行くと、近鉄奈良線に乗って生駒の山を越えて3つ目の駅、富雄の南3分ほどのところにある「パティスリー ショコラトリー エメラ」さん。待望久しい2度目の登場。
もっと早く再訪したかったのだけど、このところ野暮用が多くてね、お許しを。
この日は小学生の遠足よろしく、朝起きた時からワクワク。なにせ、関西圏でも随一のエレガントなケーキが並ぶお店なのですからね。そして藤原尚樹シェフのケーキに対する熱情、暖かい人柄、繊細な感性に親しく接することができるのも、なにものにもかえがたい大きな喜びです。
さぁて、またしてもいろいろ書きたいことが多くて長い原稿になってしまいましたので、前置きはこれくらいにしてさっそくご紹介しましょう。


●『タルトタタン』   辺8.5cm  高さ2.5cmほど。
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あれ?  タタンでイメージするダークな深紅色じゃない…。むむむむ。

ちゃんと焼き込まれてはいるけれど、一般のイメージからするとやや淡い色合い。コンヴェクションオーブンで1時間半しか焼いていないそうです。

藤原さんがベルギーの「ル サントーレ」で修業中、りんごを焼き込み過ぎては怒られたそうです。
シェフ曰く「りんごらしさが無くなるだろう」。
日本とヨーロッパあたりのりんごでは水分量や性質が違い、日本人はどうしても日本のりんごの水分を飛ばすように長時間焼いてしまうということ。

その失敗の経験を活かして、取り組んだのが、このエメラ流『タルトタタン』。
紅玉(今は信州産)を使い、カラメルとバターを加えてりんごの歯触りがかすかに感じられるレベルで止める。
底生地は『ミルフィーユ』の2番生地。

では、大好物のタタン、いただきましょう
………… ふっふふふっ ふうぅ、ねーっとりすっぱ、そして瑞々しいっ!

透明感があり、ジュースをたっぷり含んだ仕上がり。底生地の2番生地の軽やかなサクサクッ感と絶妙のコントラストを描き出しています。
ふっと戻り香にバターが翳めたので、フィユタージュからかと思ったら、カラメルがただ砂糖を焦がしたものではなく、バターをたっぷり加えたヌガーにして加えたものだそうです。苦みはほとんど感じられず、芳醇な香りと円やかな甘み、幽かなほろ苦さが味わえます。

いまや常識になってしまった黒光りするところまで焼き込み、水分を飛ばしてねっちりどっしりとした食感に至ったものとはまったくの別物。
黒光りのものは、元がりんごだったことすら分からないほどに甘苦い味になるのに対し、明らかに“濃縮りんご果汁のヌガー和え”という印象。おかげで、生クリームとの相性もより深まっているようです。師匠の言葉に納得せざるを得ないですね。

林檎の吐息が聞こえてきそうな、爽やかな味わい。いいなぁ、これ。




●『タルトポワール』   辺6.5cm  高さ3.7cmほど。
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レジ横の焼きっぱなしコーナー、季節柄か充実していました。そのなかの一つ。

秋の定番ですね。
パートシュクレにクレームダマンドに洋梨を載せて焼くだけの、シンプルなタルト。

この格安価格ですから多くを望むのは酷というものでしょう。洋梨は缶詰です。
でも、缶詰ものとはいえ、ちゃんと手を掛けてくれています。レモンを入れたお湯でサッとポシェして甘みを和らげ、水気を切ってから使っています。
それでも甘すぎるということで、なんと! 黒コショーをパラパラ。

シュクレがいい焼き上がりですね。サクサク感もさることながら、香りが華やか。よく焼き込まれて、アーモンドキャラメルの香りがしています。アーモンドプードルが入っているのでしょうか。とても芳ばしい。

ダマンドは優しい豊かさ。洋梨はポワールウィリアム種ということで、香りはいいですね。

そして、黒コショー。ヒリヒリ感はないです。スパイシーな香り、あとからかすかにホットになってくるのと、食べ終わった時のスッキリ感が明らかに違います。

普段着のような、親しみやすいタルトです。
が、馴染んだ味わいにちょっとした新鮮さが加えられて、新たな気分で食べることができますね。





●『タルトマロンカシス』   辺6.5cm  高さ2.3cmほど。
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秋冬タルトのスペシャリテ。

マロン+カシスの組み合わせはフランスでは定番のようですが、日本ではまだまだ異色の取り合わせ。
日本人にとっての栗のイメージは栗そのものが持っている淡い甘さとほのかな香り。そこに酸味を合わせることは考えられない、ということでしょう。
フランスの物まねでやってしまったマロンカシスのほとんどが甘み不足で、なにかスカスカしたまとまりのない味だったのも当然かもしれません。

が、しかーし、おっとどっこい、こちらのものは違いましたよぉ。

手にもって豪快にパクッといくと …… おっ美味しいっ!
フランス流にたっぷり甘い栗(マロングラッセ)。
しっかりした甘さのベースがあるからこそ、カシスの鋭い酸味を受け止めて、お互いに豊かになることができるのです。

やや厚めのシュクレの台にマロングラッセとカシス、アパレイユを加えて焼き上げます。
“アパレイユ グランメール(おばあちゃんのアパレイユ)”という名に反して、全卵、グラニュー糖、アーモンドプードル、生クリーム、牛乳、焦がしバター、というややフィナンシェ生地のを思わせる濃厚なもの。

マロンの量自体が多いのと、マロングラッセが崩れてアパレイユと一体化しているのか、栗の味わいが強く、アパレイユ単独の味わいは特定できません。マロンやカシスと味わいの濃度が合っているからこそでしょうね。
マロンとカシス、そしてアパレイユが合体してぐいぐいと迫ってきます。

シュクレも少し厚めでないと持ちこたえられないレベルの強さ。通常の焼きっぱなしタルトの倍ほどの厚み(4mm)にすることで、ピタリとバランスが取れています。
こりゃ、マロンカシス好きにならなきゃおかしいね。強い主張と落ち着きを兼ね備えた、見事な味わいです。わぉ!

んん? これが280円。買わなきゃソンソン!




アポイントを取って時間を空けてもらっていたこともあって、お昼過ぎに到着したのに、お菓子談義、経営談義に花を咲かせていたら、知らぬ間に外はとっぷり陽が暮れていたのでした。これまで、各店のシェフとのおしゃべりは3時間4時間といった長時間の記録を保持していましたが、ふむ、それをも軽く飛び超え記録更新。
藤原さんはスタッフたちに午後からは仕事しないからねと宣言していたそうで、心からのおもてなしにすっかりいい気分。楽しかったぁ!
それでも、まだまだ話した足りないような名残惜しい気持ちもあったのです。
が、2時間かけて帰って犬の散歩をして、夕食、それからケーキの撮影して食べて感想をメモして…と時間を逆算するとお暇しなくてはなりませんでした。

それにしても、こちらの歓待ぶりは素晴らしかった。奥様の伊公子さんはお家のご用事でお留守(残念!)でしたが、その穴をスタッフ一同で埋めてくれたのです。
一度訪問したきりで半年ぶりだというのに顔を覚えてくれていた辰見さん、ケーキの構成や背景を詳しく熱心に教えてくれた濱田さん、夕方から交代で入った酒井さん、製造なのにおもてなし係を務めてくれた塩見さん。
みなさん、溌剌とした その言葉にその笑顔に“ここのお菓子が大好き、このお店が大好き”という想いが溢れています。お目にかからなかった人たちもいるのでしょうが、全員から暖かい気持ちがヒシヒシと伝わってくるのでした。

このホスピタリティがあれば、すべてのお客さまが満足して帰ることでしょう。熱意は食べ手の心に届きますからね。
それぞれのスタッフの人間力を抽き出した教育力に拍手を贈りましょう。
でも、多分藤原シェフは「教育なんてぜんぜんしていないんですよぉ。みんなが自主的に頑張ってくれているのです」とあの明るいニコニコ顔で照れるんだろうなぁ、きっと。
こんなシェフ、ちょっといない。ふむ、やはりお見事でございました。



●『タルトタタン』450円  『タルトポワール』280円  『タルトマロンカシス』280円  (※外税)

●「パティスリー ショコラトリー エメラ」
  奈良市富雄元町2-6-40  TEL0742-44-6006  定休日/水曜  営業時間/平日11:00~20:00 日祝11:00~19:00

※ブログ「パイ日和・おまけ」では、このお店の生ケーキを紹介しています。
※ブログ「パイ日和・おまけ」では、このお店のショコラを紹介しています。