パティスリーアキト(1)『グリオットピスターシュのミルフィーユ』『レモンライムのタルト』

またしても、新店です。新店ラッシュです。
2014年4月23日オープン。神戸、JR元町駅から西へ5分のところにある「パティスリー AKITO 」さん。同じ神戸の「菓子sパトリー」のシェフを10年も務めた田中哲人(あきと・1967年/東大阪生)さんのお店です。
シェフ経験もあり、40代後半ということで、キャリアは十分。満を持してのオープンです。

元町の外れといってもいいロケーションですが、さすが、かの“ミルクジャム”(商品名『ミルキッシュジャム』)という大ヒット商品を作った有名人だけに、すでにお客さんが引きも切らずやってきています。
開放的な雰囲気の空間。気品のある美しいケーキが並んだショーケースの上には、やはりジャムがずらーっと並んでいます。
左サイドがイートインスペース。右が焼菓子の棚。プリンやシューを含めて生が17種、焼菓子が5~6種程度。華やぎと落ち着きが同居したエレガンスが感じられます。
さぁて、ベテランの腕のほどを味わってみました。


●『グリオットピスターシュのミルフィーユ』  4×7.3cm 高さ4.2cmほど。
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わぉ、ピスタチオクリームのミルフィーユがある!

珍しいですね。眼がハートになってしまいました。
おまけに、グリオットチェリーを挟んでいます。

挟むものは異色ですが、生地は、田中シェフ曰く「ラルースに書いてあるまま」というように、薄力:強力=1:1、普通折り、3ツ折り6回。

なのですが、おやっ? アンヴェルセのような食感。
どこかザクッ、サラサラとほぐれる繊細な食感に近いのです。
見掛けは1層1層がピーンとまっすぐに層が保たれていて、上手な人の普通折りそのもの。はて?

「生地を少し厚めにして、浮きを抑えていますから、食感は似てくるかもしれませんね」とシェフ。

低温で焼いているので、中まで均一に焼け、風味がとても高い。
普通だったら、クリームが多すぎるくらいの比率でたっぷり、ピスタチオの風味もたっぷり。トップのピスタチオのダイスもナッツ感を主張。濃厚です。
その濃厚さをグリオットチェリーの、これまたたっぷりの果汁が和らげてくれます。キルシュ漬けで、お酒の苦みが感じられるほど強烈。

だけどなんですねぇ、生地の風味も強いので、3つの強さがそれぞれ主張しながらも、お互いを引き立てあっていると云えるでしょう。ほぅ絶妙のバランス。
さらに、クリームの口溶けの良さと、チェリーの果汁のおかげで、強い味わいを軽く感じさせるところに、洗練の技が隠されているのです。

うーん、なにからなにまで、いいですねぇ。





●『レモンライムのタルト』  径6.5cm 高さ3.7(フランボワーズ外した高さ)ほど。
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おっ、軽やかで涼しげなタルト。
可憐な姿です。

サクサクッのパートシュクレの生地に、レモンライムのクリーム。レモンは広島産。
その上にレモンピールとライムジュースのコンフィチュール。
そしてメレンゲ、トップにフランボワーズ。
ちらほら見える緑色は、ライムのゼストでしょうか。彩りでも繊細なアクセントになっています。

レモンパイ、レモンタルトには定番のメレンゲですが、往々にして甘すぎるのが玉に瑕。
なのですが、田中シェフは「甘すぎるメレンゲは個人的に好きじゃないんですよね」、甘さ控えめのメレンゲを選択。たっぷりの量があっても、重くべたべたにはなりません。

レモンだけでなくライムも使うことで、より爽やかな風味になり、キリッとした酸味もまろみを帯びてくるし、とても軽やかで清々しい。
メレンゲがその清らかさを削ぐことなく、雲を含むような食感でさらに軽快さをプラス。

あぁ、なんて上品で洗練された味わいなのでしょう。

初夏から盛夏にかけて、無くてはならない存在になっています。
一口ごとに、晴れやかな気分に浸れます。お見事。





田中哲人シェフ、幼い頃から食の感覚は鋭く磨かれていたようです。
というのは、お祖父さまが和食の板前さんで、天皇陛下の御幸先へ出張料理人として呼ばれて行くような腕利き、和食の協会の役員も務めるような重鎮だったそうです。そのお爺ちゃんが、日曜ごとに黒門市場で買ってきた魚をさばいて、ごちそうをしてくれていたのだそうです。口が肥えますよね。
剣道少年でもあり、和に親しむ環境。だから、ご本人和食の世界に進むと思っていたのに、高校を出て、「ポートピアホテル」に就職してみると、いつのまにやらパティシエに。人生、どう転ぶか分からないもの。そこで6年ほど。
その後「ホテル阪急インターナショナル」のグランドオープンから7年。
ここで、現「モンプリュ」の林周平シェフとの出会い。林さんはパリの「ジャン・ミエ」での修業を終えて帰ってきたばかり。パリで覚えてきた味を覚えている内に、日本で手に入る素材、日本の気候で再現する方法を確定しようと、燃え滾っていた熱い時期。
田中さんは作業をこなす技術は身につけてたけれど、まだ目的意識など、明確にお菓子への興味を掴みきれずにいた時代だったそうです。燃えている林さんに触発され、素材の研究、技術の追求、コンクールへの熱意など、一皮むけて、お菓子への具体的な興味に目覚めたのだそうです。もうワクワクドキドキの毎日、人生まるごとお菓子だらけの日々。
それから後は、「ホテルピエナ神戸」内の「菓子sパトリー」にスーシェフとして招かれ、白岩忠志シェフ(現「ラピエールブランシュ」シェフ)の下で3年ほど。白岩さんが独立後、10年間にわたってシェフを務めています。その間に、例の『ミルキッシュジャム』を開発し、大人気商品に。
恩人とも言える林さんの「モンプリュ」と徒歩5分の距離にオープンしたのも、よほど慕っている気持ちの表れでしょうね。

毎度のことながら、ほんの少ししか味わっていなくて、ケーキの印象を語るのは無謀なことですが、第一印象を書いておきましょう。
どうよ? とぐいぐい迫ってくるようなお菓子ではありません。かといって、大人しくもありません。
ちゃんと何を味わって欲しいかが明確に主張してきています。それも、洗練をまとって。上品です、エレガントです。心が洗われるような、どこか柔らかな空気を感じます。
そのことに素直に喜びを感じました。



●『グリオットピスターシュのミルフィーユ』450円  『レモンライムのタルト』400円  (※外税)

●「パティスリーアキト」
  神戸市中央区元町通3-17-6  TEL078-332-3620  定休日/火曜  営業時間10:00~19:00

※ブログ「パイ日和・おまけ」では、このお店のケーキ&コンフィチュールを紹介しています。