アクイユ(1)『ミルフィーユ』『コンベルサシオン』『アマンディーヌ』『タルトショコラ』『グアテマラ』

またまた新店のご紹介、ほやほや! 2014年6月13日に大阪市西区北堀江にオープンしたばかり、まだひと月しか経っていない「パティスリー アクイユ」さんです。
名店「なかたに亭」で1年前まで3年間にわたってスーシェフを務めていた川西康文(やすのり)さん(1979年生)と、奥様の梢さんのお店。
川西さんの前任者が「ルシェルシェ」の村田さん。歩いて10分あまりの距離でしょうか。行き来できるロケーションで兄弟弟子同士で切磋琢磨の図が見えますね。

じつは知り合いから新店が出来ているとの知らせを受けて訪ねてみると、サービス担当の女性は、ん? どこかでお見掛けした顔。
あっ、「ルシェルシェ」さんの初期に販売を手伝っていた方ではないですか。「主人が村田さんの後のスーシェフを担当していて、いずれ独立予定ですので、その節はよろしく」と挨拶され、訪問を約束していたのでした。
1年ほど前に独立準備に入ったと風の便りで聞いていて、オープンを心待ちにしていたのでした。偶然、ラッキーな出会いとなりました。喜びを込めてご紹介していきましょう。


●『ミルフィーユ』   3.3×9cm 高さ4.5cmほど。
画像
普通折りで3つ折り6回。バターは無醗酵。粉は薄力:強力=1:1。
定石通りです。

では、カットしてみましょう…… サクッ スーッ! 
おっ、なんて気持ちよくナイフが入るのでしょう。

川西シェフ曰く「ガリッとしたのがいいのでアンヴェルセにはしません」とのこと。

その言葉とは裏腹に、食感はサクッ、サワサワ。繊細に焼き上がっています。
カラメリゼも薄めで、カリンカリンにはしていません。
1枚1枚の存在感は発揮しつつ、主張しすぎないギリギリのラインを狙っているようですね。

よく焼き込んでいて、中心部分まで均一に濃いめのキツネ色。バターの馥郁とした香りとともに生地自体の芳ばしい香りに満たされます。
かすかなほろ苦さが味の深みを出しています。塩気は弱い方でしょう。

画像対するカスタードは、クレームシャンティが30%入ったディプロマットタイプ。
軽いのかなと思ったら、そうではなかったのです。

卵のコクとたっぷりした甘さが生地の力強い味わいに拮抗していて、とてもバランスがいいですね。
案外、糊気も強くてディプロマットとしては重く、パイの存在感をしっかり受け止めています。

ラム酒なども入らないし、本当にシンプルでオーソドックス。
しかしながら、当たり前を貫いて非凡の域に到達しているようです。いいですねぇ。お見事です。




●『アマンディーヌ』   径6cm 高さ2.7cm 50gほど。
画像
シュクレ(いずれのシュクレにもアーモンドプードル入り)にダマンド、アーモンドスライスを散らして、たっぷりのアプリコットジャム。
表面の半分、粉糖でお化粧しています。

アーモンドはイタリア産を使っているそうです。
若手の多くがビター香にこだわりを見せる中、淡々と普通のダマンドの美味しさ、定番の味わいで、心を落ち着かせるお菓子を作っています。

無理のない当たり前の美味しさ。

時には「アプリコットジャムって美味しいなぁ」とのんびり寛ぐのもいいではないですか。
優しく穏やかな気分になれるお菓子です。





●『タルトパンプルムース』   辺7.7cm 高さ2.3cm 55gほど。
画像
こちらはアーモンドタルトのベースに、グレープフルーツを砂糖とトリプルセックのオレンジリキュールで一晩マリネしたものを、紅・黄互い違いに並べて焼いています。

グレープフルーツ自体のかすかな苦みに加えて、トリプルセックも苦みを出しているようです。
土台の甘みがノーマルなので、やや苦みが勝っている印象。

それと、ご本人もおっしゃっていましたが、少し焼き込みオーバー気味。
せっかくの紅・黄の2色が見分けにくくなっていてもったいない。

好みから言うと、ジュワッとこぼれるジューシーさが欲しいところですが、果物そのままではなく、なにか仕事をしたくなるのもよく分かる。シンプルな菓子の中で、いろいろ冒険できるのも若さの特権ですしね。





●『タルトショコラ』   辺7.5cm 高さ2.6cm 70gほど。
画像
シュクレに、ヴァローナ社のカライブを使ったガナッシュを流したもの。

ガナッシュは生クリームと卵黄を加えたオーソドックスなもの。食感からすると卵黄が利いているようです。
トローリというより、ねっとり重め。
緩やかに溶けるガナッシュは重厚感があって、魅力的。

シュクレはサクサクと歯切れが良く、焼き立てを思わせる新鮮な食感。

そのせいか、ガナッシュとの溶け合いがやや遅め。
どちらも単体ではかなりの美味しさなので、もう少し、生地をしっとりさせてから食べた方が一段と美味しかったかなぁ。ちょいと反省。

このシンプルイズベストの見本のようなお菓子を作ってくれていることを素直に歓びましょう。



●『コンベルサシオン』   径5.5cm 高さ3.6cm 30gほど。
画像
パイ生地(2番生地)でダマンドを包んで、グラスロワイヤルを塗り、パイ生地のバッテンを載せただけ。
基本通りです。

生地の敷き込みをなるべくラフにしている、というところがベテランの職人さんたちと考え方の違うところ。
生地の浮き、グラスの剥がれ方を均一にしたいというのがベテランの考えで、生地とダマンドの間に隙間を作らないことに神経を注いでいたはず。

しかし、川西シェフは、コンベルサシオンは難しいと言いつつ、あえて遊びのある作りに挑んでいます。不均一な仕上がりになることを見越した上での、1個1個の表情を楽しみたいのでしょうね。
形にならないところまで不均一には乱れない、という基本技術の正確さに自信もあるのでしょう。

こちらは比較的焼き込みを浅めにし、優しいダマンドとの相性を考えた焼き上がり。
フィユタージュとロワイヤルが仲良くサックリ軽いのもいいですね。ふふっ、安心できる美味しさ。

子供から大人まで愛着をもって食べられる焼きっぱなしがオープン当初から、いくつも揃っているのが嬉しいですね。  




●『グアテマラ』   径7.5cm 高さ6.8cmほど。
画像
キリッとした姿の、珈琲のタルト。
一際、目を惹きます。奥様の梢さんも一番好き、なのだとか。

“グァテマラコーヒーを使っているのが嬉しいね”と、グァテマラ好きのクボタ。独特の油脂分の多いような濃厚な薫りが他の産地を引き離しているのだと言います。
川西シェフもその点に注目しての採用だったそうです。

シュクレ生地、ガナッシュにヘーゼルとグァテマラの豆をプラリネにして砕いたものを混ぜて、強い食感を与えています。
さらに、ヘーゼルのジェノワーズにコーヒーをたっぷり吸わせて射込んでいます。
トップは、シャンティベースのコーヒークリーム(マスカルポーネ入り)と、例のプラリネを円い形にして飾っています。ヘーゼルのカラメル和えも。

ほぅ、明らかに大人のタルト。
この強い苦みで勝負した度胸に拍手を贈りたくなります。

普通だったら、上のクリームを甘くするか、ジェノワーズにアンビベするシロップを甘くするところ。あえて、そのどちらからも甘みを省いているのです。
甘さはカカオ分の強いガナッシュとプラリネの甘さと、シュクレの生地。大した思い切り。

珈琲というのは、いざ飲む時には、碾いている時や淹れている時ほど香らないもの。期待した特徴的な香りはそれほど明確ではありませんが、香りの“量”はじつに豊かで、珈琲の満足感はた~っぷり。

ザクザクッとしたプラリネの痛快さ、ジェノワからじゅわっとほとばしり出る液体感の不意打ちも面白いし、シャンティにマスカルポーネを入れた味わいの深さもいいし。

合わせる素材をシンプルにヘーゼルに絞っているのもいいですね。強い珈琲をなだめる、いいサポートを果たしているようです。

濃厚なオペラを食べたとき以上の、強い衝撃。
いやあ、あっぱれ、お見事!





「なかたに亭」でトータルで10年というキャリアでありながら、「なかたに亭」と同じものは作らないと、お膝元で店を開く上での心構えを語ってくれました。
扉を入って正面の冷ケースには、生ケーキ10種(+シュークリーム、クレームカラメル)、マカロン5種。はぁ、いずれも見蕩れてしまします。彩りが多彩で、美麗。もっと種類が多く感じられるほどです。
レジ横には、小さな焼きっぱなしコーナー。本日ご紹介した4種のパイ&タルトに、クグロフ。全部で5種。つい全~部と注文しまう、誘惑に駆られてしまいました。開店早々から、これほど力を入れているというのは嬉しいですね。時機がきたら、このスペースはチョコレートケースになり、焼きっぱなしはその上に並ぶ予定だとか。
右手には、焼菓子の棚。焼菓子13種、クグロフ型のケイク3種。ご本人クグロフ型が可愛くてお気に入りだそうで、お店のマークもそれをモチーフにしたものでしたね。

まだ、オープン1ヵ月ということもあって、ルセットの微調整はつねに行っているし、材料はこれからより吟味して変わって行くかもしれないそうですが、最初から焼きっぱなしがあったり、焼菓子もじつにいい顔で並んでいるし、頑張ってくれています。

味わいも素晴らしく、オーソドックスでシンプルな味わいをベースにしながら、素材の持ち味を思い切りよくストレートにぶつけてくる才に恵まれた人だな、と感じました。



●『ミルフィーユ』400円  『コンベルサシオン』280円  『アマンディーヌ』310円  『タルトパンプルムース』330円  『タルトショコラ』330円  『グアテマラ』500円  (※税抜き)

●「パティスリー アクイユ」
 大阪市西区北堀江1-17-18  TEL06-6533-2313  定休日/火曜  営業時間/10:00~20:00(月曜のみ19:00)

※ブログ「パイ日和・おまけ」では、このお店のケーキを紹介しています。