アグレアーブル(2)『クロワッサン』『クロワッサン・オ・ザマンド』『ガレットデロワ』『アップルパイ…

京都・御所南の「アグレアーブル」さん。2013年4月オープン。作り手は加藤晃生さん一人、奥様の かをるさんが販売担当。二人だけのパティスリーです。
ですが、キャリアは長く、実力者。伝統的なフランス菓子の有力な担い手です。
20種ほどの生ケーキはどれも力の入ったものだし、ジャムにも人一倍思い入れがありそうだし、焼菓子も魅力あふれる風情で並んでいます。もぅ、いろいろ目移りがして困ります。
でも、今回は思いきって、ショーケースの上に置かれている、“焼きっぱなし”へまっしぐら。
充実の品揃え。焼きっぱなし好きには、底光りして見えます。初訪問の時からとても気になっていたのです。
それがまた、はぁ、凄かったんですよ!


●『クロワッサン』 17×7.5cm 高さ4.7cm 80gほど。
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加藤シェフの出身店である「ジェラール・ミュロ本店」では、パリのカフェの1/3に卸しているほどの人気商品。
毎朝、なんと1000個も焼いていたそうです。

大きなラックに、10段ほどドドドーンとクロワッサンが積まれている横で、同僚と写っている写真を見せてもらいました。
シェフ、まだスマートでしたね。へへっ。

クロワッソニエと呼ばれる専門の職人がいて、生地を仕込んだらバターを叩いて整形するなどという面倒なことはせず、直接生地の上で、ちゃちゃと手で延して大体のレベルで整ったら、包み込んで折り込み、シーターで延ばすといった案配。
切り分けも、牛刀を生地に対して斜めに右へ左へと、トントン、トントン、金太郎飴を切るような早業で切っていくのだとか。そうでもしないと1000個は焼けないのですね。
見てくれは多少悪くとも、食べて味が良ければそれで良し。それがフランスの流儀だそうです。

ちなみに、加藤さん、「ミュロ」ではたしか、焼きまで任された人で、しっかり給料交渉もし、辞める時には惜しまれ、後進への引き継ぎを依頼されたほど。ミュロさんが哀しい顔をし、加藤さんも切なかったそうです。リンゴの皮むきぐらいしかしないで、フランス修業経験有り、といった御仁とは訳が違います。


はてさて、話を戻しましょう。
「ミュロ」のクロワッサンは、生地に脱脂粉乳が入っていて、コクというか旨味というか、一段と美味しく、人気を集めているのだそうです。
加藤さんはより菓子屋らしくと、練乳の無糖と加糖をブレンドして加えています。
3ツ折り2回、4ツ折り1回。延ばして長方形を斜めに切るので、焼き上がりはやや長いかな。
バターは、いつものタカナシ特選北海道バター。ドリュールを塗って窯入れ。


画像ほぅ、大きなクロワッサン!
手にもって、かぶりつきましょう …… ザクザク、ハラハラ。ふふふっ、美味しいなぁ。

なるほど、ほんのり甘く、バターの旨味だけでないふくよかさがありますね。おぉ贅沢!
いやあ、それにしてもクラスト部分の力強さと繊細さを兼ね備えた食感は特筆もの。
ザクザクッとした強さがありながら、ハラハラと細かく砕け、お皿で受けないと、そこら中クズだらけにしてしまいそう。
でも、それがまた、クロワッサンの醍醐味とはしゃぎたくなるほど。
クラムのしっとり、もっちりした引きのある食感もいいですね。

じつは、2回目でやっと出会ったクロワッサンなのです。
前回は、たしか午前中に電話を入れたというのに、すでに売り切れ。競争率高いな。みなんさん、しっかり分かっているですね。
まァ、それもむべなるかな、の美味しさ。

ということで、平日10個、土日12個限定というのが惜しまれますが、いくら仕事が速い加藤シェフでも、1000個焼いていたらほかのケーキが作れませんものね。あははっ。
つくづく、お見事。





●『クロワッサン・オ・ザマンド』  17.5×9cm 高さ5cm 170gほど。
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名品のクロワッサンがたまたま残ったときにだけ作られる、所謂、始末菓子。
作ったものはすべて使い尽くす、無駄にしない精神。
再生菓子、とも呼ばれますね。

販売担当の かをるさんは「裏メニュー」と説明しているそうです。

クロワッサンが今朝の焼き立てではないと聞いて、買うのをやめた方もいるとか。えーっ、もったいないなぁ、残念ですね。
たしかに、日本のパン屋さんなどでは、残ったからという発想ではなく、最初からオザマンド用のクロワッサンを焼く、というお店もありますからね。
でも、そうすると、やはり違うものになってしまうのではないでしょうか。


残り物はラップに包んで冷蔵庫で保存。
翌朝、取り出して半分に割って、VSOPとボーメ30度のシロップにどっぷり浸けるほどのアンビベ。クレームダマンドを詰め、生地の表面にもダマンド、そしてアーモンドスライス。粉糖。


画像まず、これを見た時、わーっと歓声を上げたくなりました。大きいのです。
手に持つと、ひゃぁ、どっしり! 

ん、なんですと?  値段は、60円アップ止まり。

剛毅なほどダマンドが入って90gも重くなっているのに、ね。
始末菓子だからというサービス価格なのでしょう。まさか計算間違いじゃないでしょうね。ふふふ。

ともかく、こんなに大きくて食べ応えのあるオザマンドは初めて、というほどのボリューム。
元のクロワッサンがいい上に、ダマンドもたっぷりした美味しさだし、アーモンドスライスも香ばしいし、言うことなし。

満足満腹。天晴れなほどに、お見事です。





●『クイニーアマン』   上径5cm  高さ5.5cmほど。
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これもクロワッサンの、始末菓子。

クロワッサンを作る時に両端が余るのを取っておいて、フレキシパンのセルクルに詰めて焼くのですが、生地に3種の砂糖をまぶします。グラニュー、カソナード、ヴェルジョワーズ。
詰めてから、さらにグラニュー、バター、生地、グラニューと駄目を押すように加え、ベンチタイムを取って焼き切るとのこと。

赤系の砂糖が柔らかなコクと円やかさを出していて食べやすいですね。
雑味のコクのような部分がとても美味しく感じられるし、生地のイーストのふっくらした香りともよく合っています。
温めなおして食べると、カラメルが少しねっちりとして、また別の味わいがあるそうです。今度はそうしてみよう。

本来、とてもくどいお菓子ですが、これは左程でもありません。焼き込みも比較的浅く、カラメリゼも浅く抑えられています。

加藤シェフはフレキシパンは火の通りが悪いから、と偶然の結果のように話しています。
しかし一方で、カラメリゼしすぎると“カチカチで”と否定的だったので、本当は狙った通りの仕上がりなのでしょう。確信犯なのだ。

くどすぎるのが当たり前になっているお菓子から、本当の美味しさを掬い上げた手腕、ご注目あれ。






●『ガレット・デ・ロワ』  辺8.5cm 高さ4.3cmほど。
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加藤シェフは当面、パイ生地はすべてアンヴェルセで折りそうですね。
前回の『ミルフイユ』、次に紹介する『アップルパイ』もすべてアンヴェルセ。

デトランプは薄力、強力1対1。バター生地で包んで、間に1時間ずつの休憩を挟んで4ツ折り、3ツ折り、さらに4ツ折り。
寝かせておいて、閉店間際に延ばして天板に1晩おいて、翌朝焼く。

クリームは、フランジパーヌ。
カスタードは1/5だけのようですが、ブルボンヴァニラが利いて、けっこう主張しています。

アンヴェルセでもクッキーぽくならずに、しっかり層が出来、燐片のハラハラした魅力を発揮し、さらにサラサラとしたアンヴェルセ特有の繊細で軽やかな食感も併せ持っています。
まさにオルディネールとアンヴェルセの、いいとこ取り。

シンプルなお菓子は、各パーツのレベルが如実に現れるもの。
生地といいクリームといい、これでもかという主張をなくして、軽やかな手際で出されたもののリラックスした美味しさといいましょうか。手の内に入っている安心感。

どれほど食べても飽きのこない、素直で優しい美味しさ。これまた素晴らしいですね。





●『アップルパイ』  8.5×4.3cm 高さ6.2cmほど。
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ガレットの2番生地をバンドタイプに延ばして、空焼き。
薄くダマンドを敷いて、紅玉の櫛形に切ったものを、むりやり立てて盛り込んでいます。
奇怪なフォルムはまるで地球外生物のよう。あははっ。

リンゴは皮付きのまま。バターと砂糖を振りかけて焼き上げます。

これまた、気軽にガブッ! 
ワォ、紅玉の酸味が生きていて、はつらつととした美味しさ。
サクッとパイの歯切れの良さも生きていて、まだまだアンヴェルセの軽さが感じられます。2番をまとめるときのストレスをかけない手際がいいのかな。

素朴さがいいですねぇ。
普通のアップルパイ同様に、気取っていなくて、親しまれるべきお菓子。思わず、ニマニマ。

気軽さと味の深さを兼ね備えた、名品ではないでしょうか。
季節ごとに載せるフルーツが交代で登場するとのこと。その期待も含めて、お見事。


いわゆるフィユテポムですが、シェフのお母さまがアップルパイが好きで作ってほしいということで、あえて『アップルパイ』と名付けているよし。
シェフ曰く「おふくろ、所謂日本のアップルパイしか知らなかったんだけど、これも気に入ったみたい」
苺ショートやロールは作らない、純粋フランス菓子屋さんなのですが、ガチガチに頭でっかちではないのです。
そういう言葉尻レベルのことは気にしないけれど、お菓子の根底にある本質は絶対に譲らない信念の持ち主。大らかさと頑固さの共存が魅力的です。




“焼きっぱなし”は、こうでなくっちゃね。   
加藤さんという作り手の人間性が隠しきれずにじみでてきている、それが食べ手の私たちの心にストンと入っていく。だから、惹かれる。
肩の力を抜くことで、素材の持つ美味しさにダイレクトで迫れているようです。
誤解がないよういいますと、肩の力を抜く、というのは、手を抜く、というのとは異なります。どれだけの経験があるかで力の抜け具合が決まるのでしょうね。
さらに、古典菓子に敬意を払い、歴史に洗われたお菓子の美味しさに忠実であることが、安定感を築いています。だからこそ、磨きのかかった美味しさになりえているのではないでしょうか。



●『クロワッサン』190円  『クロワッサン・オ・ザマンド』250円   『クイニーアマン』190円  『ガレット・デ・ロワ』380円(ホール1500円もあります)  『アップルパイ』400円

●「アグレアーブル」
 京都市中京区夷川通り高倉東入天守町75-7  TEL075-231-9005  定休日/不定休  営業時間10:00~20:00

※「パイ日和・おまけ」に、こちらのお店のコンフィチュールをご紹介しています。