ブーレファリネ(1)『本日のキッシュ』『紅玉りんごの焼タルト』『安納芋と黒糖のタルト』

兵庫県宝塚市、阪急電鉄宝塚線・山本駅から1分のところにある「カフェ・パティスリー ブーレファリネ」さん。2013年8月6日オープンの真新しいお店です。
田邊規雄さん(1972年生/宝塚出身)、風見子さん(1974年生/福島県出身)ご夫妻のパティシエ&パティシエールコンビで、多彩なケーキを作り出しています。

売り場は4人も立てば満杯という可愛らしさですが、半地下に13席のカフェがあり、ゆっくり寛げます。窓の外を小川が流れていて、清潔感漂う、とてもいい雰囲気。
パティスリーのキッチンとは別に、こちらにもキッチンがあり、現状の『サンドイッチ』や『クロックムッシュ』だけでなく、いずれはちょっとした料理も出したいとのこと。

お二人は、今はもうお店を閉じられましたが、かつて池田にあって名を馳せた「カフェ・サロン・ド・テ・会庵」で出会ったそうです。私たちは残念ながら行きそびれましたが、デセールを中心にした品揃えが時代をリードした名店だと認識していました。

オーナーの規雄さんは他にも「なかたに亭」にいたり、私たちの地元の西宮市苦楽園の「トゥッティフルッティ(ケーキ工房)」でシェフを務めるなど、豊富な経験を積んだ方。
ショーケースを睨んで、二つの出身店を当てられたのは、ちょっと嬉しかったな。

ディレクターの風見子さんは、小学校の時からお菓子づくりに勤しみ、高校生になると明確にパティシエールを目指していたそうです。製菓衛生士の資格が取れるということで、故郷の福島から東京を飛び越えて、大阪にやってきた方。「辻調」さんです。
卒業後は、主に「会庵」で修業されています(東京でも修業)が、草創期の「シャルルフレーデル」で販売をするなど、お話を伺っていると、つねに高い目線を保ってきたことが手に取るように分かります。

そして、店名。「ブーレファリネ Beurrer Fariner (バターと粉)」とは、ケーキの型に生地を流し込んだり貼付けたりする前に、バターを塗って粉を叩く作業のことを指す熟語だそうです。
道理で、どちらも動詞形なのですね。41歳と39歳というベテランコンビでありながら、このような基礎の基礎の作業から大切に心を込めて、という心掛けを示してくれているのです。
どうです、期待が高まりますよね。さぁ、いただきまーす!


●『本日のキッシュ/グリル野菜いろいろ』   辺9.5cm 高さ3cm 100gほど。
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目の前でも、「これっ」と決め打で買っていくお客さんがいたほど、開店4か月ですでに人気商品になっているようです。

さもありなん。
キッシュは往々にして濃厚すぎるほどになりがち。

こちらのものは、ブリゼの生地も塩気が控えめだし、アパレイユもマイルド。
グリュイエールチーズも香りがよく立っていますが、くどさにはいたっていません。

そのおかげで、具材であるグリル野菜の個性が明確に伝わってくるのです。

かぼちゃ、パプリカ、ズッキーニ、なす、ポテト、玉ねぎ。
野菜の美味しさは、奥が深くて、場合によるとフルーツを凌ぐかもしれませんね。

季節ごとにグリーンピースや空豆、アスバラガス、トマトなどいろいろな顔をした『本日のキッシュ』に出会えそうですね。
あっ野菜だけでなく肉などもありかな。ふふふっ、楽しみ!





●『紅玉りんごの焼タルト』   辺8.5cm 高さ3cmほど。
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パートシュクレにクレームダマンド。そこへ紅玉の薄切りを並べ、バニラシュガーを振ってカルヴァドスをひと振り。
ダマンドにもカルヴァドスを忍ばせているとのこと。
焼き上がりは、アプリコットのナパージュ。

シンプルな焼タルトです。

シンプルなものほど腕の差が出る、というのがこの世界の常識ですが、“ブーレファリネ”の心構えで丁寧に作られているので、この上なく美味しい仕上がりになっています。

よく焼き込まれてサクサクのシュクレ生地の軽妙さ、ふっくらとしたダマンドの暖かみ。
そして、紅玉は、爽やかな酸味を上手く抽き出しているし、瑞々しいですね。

全体に優しい味わいなのに十分な満足感があるのは、おそらくカルヴァドスによるコクが生まれているのでしょう。それに、強い甘みじゃないのに十分甘さが足りている。
なんだか説得力があるなぁ。

趣味の良さがこういうところへ出てくるのですね。うん、気に入りました。





●『安納芋と黒糖のタルト』   辺10.5cm 高さ3.5cmほど。
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季節限定の新作。

こちらは少し凝った作り。6mmほどある分厚めのシュクレ。
黒糖、ラム酒、シナモンを加えたダマンド。
そこへ、焼き芋にした安納芋を敷き詰め、黒糖のシュトロイゼル。
表面は、たっぷりの粉糖。

黒糖とラム酒と聞けば、濃厚なイメージですが、そうではないのです。
あくまで、安納芋の美味しさを引き立てるための脇役に過ぎません。

若手のシェフであれば、ついつい自分の発想に酔ってしまって、主役のことを忘れてしまうケースがあるのですが、さすがに抑制が利いています。

安納芋がお菓子の世界で人気があるのは、たっぷり蜜が入って、味わいが豊かであることと、喉越しがなめらかなこと、ではないでしょうか。
そのしっとり感がダマンドにもシュトロイゼルにも行き渡っているので、シュクレが分厚くてちょうどバランスが取れています。
それと焼き込みをやや薄めにして、主張し過ぎないための配慮もなされています。

ふうぅ、ともかく一体感が素晴らしい! 
渾然一体ではなく、それぞれが意識されるのに、別々に感じられることがない。バランスを取るのがとても難しいのではないかと、思いやられます。

いやあ、満足。素晴らしいですね。





以上の3点は風見子さんの作。店名通りにベーシックなことをきっちり守っていけば間違いなく美味しいものができるという自信の表れか、必要以上の手数を掛けない。
だけど、必要なコクはさりげなく加える。その引き算、足し算が巧み。
出来上がったお菓子はどれも優しい味わいながら、満足感が高いのです。強すぎて1個でもう十分というのではなく、もう一つ食べたくなる後を引く美味しさ。“食の満足”をよく心得ているなぁ。

下のカフェで、風見子さんにお付き合いいただきながらコーヒーを楽しみました。
えーっあのシェフも知り合いなの? もう幻になってしまったあの名店へも行ったの? あそこは美味しかったですよねぇ、会庵の『グレープフルーツのムース、ハーブとスパイス風味』食べたかなったなぁ云々…とまぁ昔からの友達みたいにおしゃべり。
ふむ、共通の食体験があると、初対面であっても自然と仲良くなってしまうようですね。

ふと、上から聞こえてきた規雄さんとのお客様の声が象徴的でした。
どれがお勧めかを聞いて、お好みもありますからね、というようなやり取りがあったようです。その後、お客さんの元気な声で「どれ食べても美味しいんやから、端から順番に食べていけばいいんやね」。
ハイ、その通り! なのであります。

開店4か月にして地元のお客さまたちにこれだけの信頼を勝ち得た、味とともにコミュニケーション力の高さ、人間力の高さが素晴らしいですね。お見事です。



●『本日のキッシュ』450円  『紅玉りんごの焼タルト』380円  『安納芋と黒糖のタルト』400円

●「カフェ・パティスリー ブーレファリネ」
 兵庫県宝塚市山本東2-9-6  TEL0797-75-5747  定休日/火曜 
 営業時間/パティスリー10:00~19:00 カフェ10:00~18:00(LO17:00)

※ブログ「パイ日和・おまけ」には、このお店のケーキを紹介しています。