アグレアーブル(1)『ミルフイユ』『タルトタタン』

京都、烏丸丸太町から南東に3分ほどの夷川通高倉東入ル(御所南)に、2013年4月12日に「アグレアーブル」がオープンしていました。
私たちは先日、偶然前を通りかかり、こんな所に知らないお店がと、ふらりと入店。もう夕方のことで、さらに1軒最後に立ち寄る予定もあり、本日のケーキ購入は打ち止め状態。図々しくも、買わないことを断った上でケーキをちらっと見せてもらうことにしました。
ところが、なのです。お店を出たのは、なんとその1時間半後、外は真っ暗。シェフの加藤晃生さん、奥様で代表兼店長の かをるさんとすっかりお菓子談義で盛り上がってしまったのでした。それに、充実の品揃えに目が惹き付けられました。
辞するときに、次週の来店を約したのは当然の成り行き。その成果がこちらです。


●『ミルフイユ』  4×9cm  高さ4.5cmほど。
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アンヴェルセで、4×3×4折。粉は強力、薄力、1対1。
バターはタカナシ北海道シリーズ。
粉はバター生地に入る分についても1対1。

折り数が少ないのに、きめ細かくサラサラの仕上がり。裏表両方にカラメリゼ。

カスタードは、ぽってりとした強い存在感、タヒチ産ブルボンヴァニラがとても豊かに香ります。
ラムもキルシュも入りません。

フィユタージュとカスタードのみ。ストレートかつシンプルなミルフィーユ。

ナイフを入れると、サクッと軽快な快音。
生地は焼き込みがマイルドで香ばしさはあるものの、苦みばしることがありません。

アンヴェルセ特有の目が詰まっているのにサラサラとした優しい食感を引き立てるべく、すべてが優しい味わいにシフト。
カスタードのコクと重い口当たり、ヴァニラの香りの豊満さが唯一の対抗軸。
たっぷりとした美味しさに、う~っとり!

とてもこなれていて、どこにもあざといところがなく、豊かな味わい。
お菓子を知り尽くした大人のアプローチという印象です。いいですねぇ。





●『タルトタタン』  径5.5cm  高さ4.7cmほど。
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こちらのこのお菓子に出会って泣いた人もいたという、曰く付きのタタン。

姿を一目見たときから、強く惹き付ける磁力を放っています。
色が美しいのです。深い紅(写真では赤みが飛んでいますが)。

口に入れると、さらに驚きます。
だって、これはタタンじゃない、んんん? …… 羊羹! 

まさかと思って笑っている人が多いことでしょう。だけど本当なのです。
「ピエールブランシュ」の『パテドコワン』、「デリチュース」の『インゴット』と、これに近い食感のお菓子に思いを巡らしてみますが、やはり、これは“フルーツ羊羹”と呼ぶのがもっともふさわしいようです。
ねーっちりとした食感の魅力は、食べるにしくはない、といったところ。

作り方は、シンプル。リンゴの皮を剥いて、水に入れ、皮とペクチンも少し加え、タヒチ産のブルボンヴァニラも入れ、ピューレ状になるまで1時間ほど煮詰める。それだけ。

しっかりした味わいと強い食感。
これに対抗するには、パータフォンセとたっぷりのフランジパーヌで迎え撃たなければ納まりがつかないほど。

ちなみに、リンゴは青森産の紅玉。タタン1個に0.8個分くらいが凝縮されているとのこと。
いやあ、とても濃厚でほどよい酸味も楽しめ、私たちは泣きはしませんが、ニマニマが止まりません。
そして、珍しさと美味しさを存分に堪能しました。

ボリュームたっぷりのフランジパーヌで受け止めるべき、というシェフの判断力も素晴らしい。ちょっと感激の体験でした。





訪問した日は、生ケーキ16種(エクレア290円以外はすべて480円)、焼菓子16種、マカロン8種、コンフィチュール16種という品揃え。クロワッサンなどのヴィエノワズリーも。ただ、なくなったらおしまい、なのですぐ売り切れてしまう恐れもあります。

偶然ふらっと立ち寄って、いいお店見つけたなぁと感激していたのですが、すでに専門誌やムックにも取材されていて、有名なパティスリーなのでした。とはいえ、ホームページやブログ、宣伝などは一切無し。
お店としては新人さんですが、あちこちで雇われシェフを長く務めてきたベテラン、加藤晃生さん(1971年の京都生まれ)の実力と趣味が遺憾なく発揮されたお店です。40歳過ぎてのオープンですから、百戦錬磨といえるでしょう。
主な経歴は、神戸の「アンリシャルパンティエ」からスタート、そして渡仏し、「ラ ヴィエイユ フランス」に始まり、「ジェラールミュロ本店」で頼りにされた腕利き。東京に戻って、「シェ・シーマ」。
その後、愛媛のお店の立ち上げに参加し、その時に奥様と出会ったそうです。愛媛産の柑橘類のコンフィチュールがずらりと並ぶのもむべなるかな、ですね。

本格フランス菓子一筋。ほかに、『サントノーレ』や『エクレア』などもありました。今後、タルトショコラ、バルケットマロン、シブースト、ポロネーズなども作りたいなぁとのこと。そうそう、当然ながら、ロールと苺ショートはありません。
(プチガトーをたった4ついただいただけですが)甘みのトーンが一定で、味わいにも安定感があるし、客のちょっとした感想や意見にはびくともしない、確立された意思が貫かれているように感じました。

シェフ曰く「ケーキ作りそのものを楽しみたくて、自分の店を持った」とのことで、「暮らしていければ儲けなくていいんだ」と、ゆとりの表情。
オペラのように層を重ねるお菓子、持てる技術の目一杯を発揮できるお菓子に作る喜びを感じると、喜色満面に語ります。
ふうぅ、その晴れやかな笑顔といったら。溢れるような想いが感じられます。

かをるさんも、販売担当という域を超えて、シェフを煽り、お店のあり方を決めている様子がありあり。頼もしい限り。
お客さま誰とも隔てなく、気さくに語りかけ、ケーキの美味しさ、シェフの才能を手放しで誉める無邪気さも発揮。ベストパートナーですね。

シェフも夕方は作業を止め、お客さまとのコミュニケーションタイムと決めているようです。
ヴァニラの匂いを嗅がせてくれたり、ナパージュのバケツを見せてくれたり、なんともフランク、距離の縮め方が自然なんですね。その空気はお客にも伝わって、カフェ(4席)のお隣同士も話に加わったり、と和んだ雰囲気。  
本格フランス菓子のお店はややもすると、工房の緊張感が伝わってきて静かだったりすることもあるのですが、そんなとりすました空気は微塵も漂ってません。なーんか寛げるんですよねえ。
これもお二人のかもし出す人柄なのでしょう。明るく朗らか。お菓子を食べるにはもってこいの居心地の良さ(agreable)です。

私たちも、次の約束を忘れて、長っ尻。京都に行ったらつい寄り道してしまうだろうお店が出来てしまいました。あぁもうどないしょ。



●『ミルフイユ』480円  『タルトタタン』480円

●「アグレアーブル」
 京都市中京区夷川通高倉東入天守町75-7  TEL075-231-9005  営業時間/10:00~20:00  定休日/不定

※ブログ「パイ日和・おまけ」には、このお店のケーキを紹介しています。


※ちなみに、和歌山の「パティスリー アグレアーブル」さんとは、無関係。
こちらも、以前に“注目すべき若手5人衆”として、特集5でご紹介したように、魅力溢れるお店です。