スリール(1)『ミルフィーユ フレーズ』『タルト フィーヌ ポンム』『アブリコマング』『ガトーグーテ

風薫る五月、今月は “東京のパティスリー&ブーランジュリーの駆け足紹介月間” といたします。

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東京、東横線の学芸大学駅から北へ7分ほどのところにある「パティスリー スリール」。
“微笑み”という店名の後に fait avec amour (愛を込めて)とあるように、お菓子を食べる寛ぎと歓びに満ちた店だ。店のロゴマークにタルト皿が描かれているのも、タルト好きにとっては嬉しいところ。
まずは、お菓子の味わいを紹介し、後ほど店の良さについてお伝えすることにしよう。


●『ミルフィーユ フレーズ』 4×10cm 高さ5.5cmほど。
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まったく押えていないわけではないけれど、かなり自由に浮かせたパイ生地。
さっくり、ふっくら繊細な食感と、優しい香りが魅力の繊細さ。

クリームもぽってり感ゼロではないけれど、とろりと溶ける。
イチゴもほんのり酸っぱいレベルで、すべてが細やかな心配りで作られている。

食べて打ちのめされるような味は案外作りやすいものだが、このようにある意味、中庸で美味しいものは逆に難しい。
まず、自分のポイントを決めにくい。そして各パーツが均一のレベルに揃わなければならない。一つでもほんのわずか突出することで全体のバランスが崩れてしまう。

岡村尚之シェフはそのコントロールに天性の才能を発揮している。
食べ手に緊張を押し付けることのない、当たり前の美味しさとして、微笑みを浮かべて食べてしまう。

うかつに食べていると、どうということのないお菓子と勘違いしてしまうかもしれない。
それほどに自己主張しない、それでも人に認められるという自信の裏付けがあるのだろう。




●『タルト フィーヌ ポンム』 辺15cm 厚み0.5cmほど。
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薄焼きタルトではあるけれど、これはまた、極薄! 

極限まで薄く延ばしたパイ生地(パータ・フォンセ)に、先が透けて見えそうなほどに薄いリンゴのスライスを並べて焼いている。
澄ましバターを塗って砂糖を振って焼き上げ、仕上げにリンゴのナパージュ。

これだけ薄いのに、リンゴのシャキシャキ感はあるし、生地のサックリ感もある。
ナパージュのおかげで、リンゴの味わいが強められていて、バターや砂糖とのコクとのバランスが取れている。品が良くて満足感がある。

めずらしく極限を追った菓子だが、軽快さのみが強調されているのであって、味わいはやはり中庸のベストポイントというべきもの。
この薄さは、出会ったことのない見事さだなぁ。
 




●『アブリコ マング』 辺15.5cm 厚み1cmほど。
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同じ焼きっぱなしのシリーズだが、こちらはやや厚みがある。

アプリコットとマンゴーが濃厚にせめぎあっている。
タルトフィーヌの場合より、少し生地も厚めで、おそらくクレームダマンドとアパレイユを薄く敷いている。
アプリコットのナパージュだか、ジュレだかを薄く流しているようだ。

新作の表示があったけれど、アプリコットもマンゴーもシェフが以前から扱っている素材なので、安定感のある明確な味わいに出来上がっている。
アプリコットの鋭い酸味を満喫させつつ、マンゴーの甘みでうまく角を丸めている。

濃厚で強い味わいの世界に傾きがちな組み合わせなのに、上品な味わいに踏み止まらせている手腕は大したもの。お見事です。





●『ガトーグーテ』 4×11cm 高さ4.5cm 230gほど。
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大きさのわりにズシリと重いケーキ。

上下、しっかり圧さえ込んだ生地に挟まれた、不思議な餡状のものがどーんと鎮座している。

昔懐かしいシベリアを思わせる見掛け。
いろいろな余り物を集めた始末菓子なのではないだろうか。

フランスにはこの手の菓子がよくあり、パンペルデュやクロワッサンオザマンドのように二次加工するものと、フィグやポムドテールのように、詰め物として寄せ集めてしまうものがある。

これは後者の寄せ集め。食感はベイクドチーズケーキの滑らかさとねっとり感を兼ね備えている。
ココア生地風でもあり、シナモンは香っているし、ミックスフルーツのナッツ類、林檎、レーズン、オレンジなどがごちゃまぜの不思議な味わいを作り出している。

それでいて下品な濁った味にならないところが、岡村流というところか。




商品の撮影を打診すると、マダムが“生憎のお天気ですけど、かえって西日が当たらなくていいかもしれませんね”とニッコリ。販売スタッフも“ケーキ、お好きなんですか”とニコニコ嬉しそう。
ウェルカムの精神が自然に体現されていて、客も店側も自然に店名の SOURIRE (微笑み)を浮かべることになる。
シェフは人見知りのシャイな性格のようで、声を掛けても一言礼を言ってキッチンに引っ込んでしまうが、自己主張を控えて、素材の持ち味を抽き出すのに長けたシェフの人柄を表していて、かえって好ましい。
スタッフにまで接客の同じ精神が浸透するというのは、よほどの教育力を持つか、お菓子にだけではない、客にまで及ぶ篤い愛情を抱いていないとできないこと。
こちらは fait avec amour と記していることが伊達ではない、すぐれた精神を持った店だ。



●『ミルフィーユ フレーズ』450円  『タルト フィーヌ ポンム』400円  『アブリコ マング』420円  『ガトーグーテ』450円

●「パティスリー スリール」
 東京都目黒区五本木2-40-8  TEL03-3715-5470  定休日/水曜

※ブログ「パイ日和・おまけ」には、このお店のケーキを紹介しています。