「コムトゥジュール」(9) & 「ロトス洋菓子店」(11)   『金柑のタルト』

冬場、年も明けるとフルーツが乏しくなってきます。ハウス栽培の苺は出盛りですが、露地物といえば、蜜柑類くらい。柿は終わって、リンゴはあるけれど旬というにはほど遠い。この季節、異彩を放っているのが、ちっこい“金柑”ではないでしょうか。
金柑は日本の果物のなかで、もっとも明確な味わいを持つフルーツの一つ。そのキリッとした強い味わいに惚れ込んでいるシェフが現れています。
今回は、たまたま、京都の大好きな2軒で遭遇。ほかにも各地でさまざまなシェフが取り組んでいることと思いますが、ひとまずベテランと若手、このお二人のタルトをご紹介しましょう。
(※なお、「3.14=π(パイ)の日」キャンペーンの頃にはなくなっているかもしれませんので、ご注意ください)


●「コムトゥジュール」『金柑の焼タルト』 辺8.5cm 高さ3.7cmほど。
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蜂谷シェフの焼きっぱなしの美味しさは、定評のあるところ。

入ってすぐ左手、表から見える顔ともいうべき場所に、美味しそうな焼き色の焼きっぱなしのタルトやらパンやらが並んでいて、いつもながらニマッと微笑んでしまうのです。

さて。作り方をお聞きしようとすると、
“今日は『日向夏のタルト』も作る予定やったんですけどね、日向夏いいのがなくって”と、しばし悔しがらせてくれた上で、金柑について話しはじめてくれました。満更でもない様子。

パートシュクレにダマンドを敷いて、半割りにして種を抜いたものを並べて焼くだけ。焼き上がりにナパージュ。つやつやです。
“何にもしません。金柑そのものが美味しいから、変に手を掛けないほうがいいんです”と、きっぱり。
金柑は鹿児島産のもの。年末から使っているけれど、年が明けてから味が増してきて今一番美味しい時期とのこと。

姿も、わーい金柑だぁ、と一目でわかるストレートさ。
金柑のビジュアルは美しいし、インパクトありますねぇ。こうでなくっちゃね。

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手に持って、一口…… ザクッ、おやっ、シュクレの底にグラニュー糖がびっしり。
ジャリジャリ感と甘さの補強。でも出過ぎないところがいいですね。
クニュッ、金柑を噛み切ると、たちまち芳しい香りに包まれます。歯触りは金柑特有の鈍さですが、香りは鋭い。

たっぷりで優しい香りがするダマンドに果汁が滲みてしっとり、甘酸っぱい美味しさが口いっぱいに広がり、“ああ金柑!”“だけどタルト”と当たり前過ぎる感想が押し寄せてきます。
金柑の個性が鮮やかににタルトに転化しているのです。

シュクレ、ダマンド、金柑の一体感は素晴らしいとしか言い様がないですね。
ふふふっ、美味しいなぁ。お見事。





●「ロトス洋菓子店」『金柑のタルト』 辺6.5cm 高さ3cmほど(1/4サイズ)。
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こちらが使っているのは宮崎産の“金柑たまたま”。ブランドものです。
“年が明けて、最近糖度が増してきて美味しいですよ”と、自信満々の木村シェフ。

生地は、パートブリゼ。やはりダマンドを敷いて、縦に4つ割りにして種を抜き、真ん中の部分は酸っぱすぎるので取り除くとのこと。
上からザラメをたっぷりまぶして、焼き上げます。
ブリゼの周囲にもザラメを貼付け(これ、木村スペシャルね)。


画像さぁて、一口。ザクッ、ジャリッ!
ザラメが少し溶けて、ふたたび固まった状態。ザクザクと強い食感を与える層をなしています。
しかもかなりの甘さで、存在感も強い。時折ジャリッという歯触りでリズム感を出していますね。

その層を突き破って存在を主張するのが、金柑。
酸っぱいところを取り除いているにもかかわらず、香りだけでなく、酸っぱさも。甘さとの対比の問題なのかもしれませんね。
果汁を吸ったダマンドは、ほんのり甘酸っぱく、果汁を吸っている割には、ダマンドはふっくら軽さを保っています。優しさのある仕上がり。美味しいですねぇ。

にもかかわらず、“翌日のほうが、果汁を吸って、より美味しいくらいですよ”と不敵に微笑むシェフ。
ふーむ、翌日食べてみると、なるほど、ふんわり、サクサク感は弱くなっていますが、味が全体にしっとり馴れたところがあり、一体感が強まっています。
ブリゼの塩気もほんのり利いて、味に締まりを作っているようです。ふうぅ、大好きだな、これも。


どちらも美味しく、どちらも大満足でした。タルト生地に、ダマンドに、金柑のみ。
でも、個性があって、やはり違うものなのですね。当然ながら、そこが、面白い。



2種類の金柑タルトをいただきながら、幼い頃、庭に実っている金柑をポチッともぎ、その場で皮ごと食べて、強い酸っぱさとしつこいような独特の味わいに、顔がくしゅっとなったことを思い出したりしました。
すると、金柑そのものを食べるときの“おぅ、酸っぺぇ”感も、欲張りで無い物ねだりの私は欲しくなってきました。

蜂谷シェフは、ひゃあぁと叫ぶほどの強烈酸味嗜好の方ではない(念のため、誤解なきよう言いますと、果実の酸味は酸味でうまく抽きだすタイプです)ので、この味わいに着地するのがシェフらしい。
蜂谷さんの手の内に入った、肩の力の抜けた感じと言いましょうか、“これこれっ、この味!”というような、安定感安心感のある焼きタルトです。

では、木村シェフは? 頬がきゅっとなるほどの酸味大好きのわりには、このタルトは大人しめだったかな。こんな優しい酸味スタイルも好きですけどね。
いや待て、彼はザラメ好きでもあるから、極端に言えば、ザラメも主役のダブル主役のタルト、という位置づけかもしれませんね。

ということで、お次は、果汁を凝縮したジュレとして使うような、“酸っぺぇ”派のタルトかムースか作ってくれないかな。金柑、ちっちゃいけれど、ぎゅっと可能性秘めていますよ。



●『金柑の焼タルト』350円
●「コム トゥジュール」
 京都市北区小山元町50-1  TEL075-495-5188  定休日/水曜

●『金柑のタルト』420円
●「ロトス洋菓子店」
 京都市下京区烏丸通松原上ル因幡堂町699  TEL075-353-2050 定休日/水曜、第1・3火曜