エルベラン(3)『しあわせのミルフイユ』『レモンパイ』

兵庫県西宮市、阪急神戸線夙川駅から北へ3分のところに、1964年創業の「エルベラン」さんがあります。洋菓子の街、西宮で半世紀愛され続けているお店。いつ行っても、お客さんで賑わっています。
長らくお父さんの柿田衛さんがシェフを務めてきましたが、昨年、次男の衛二さんがシェフに就任。
お店もユニフォームもリニューアルし、カジュアルで溌溂、気分一新。ブルーのキャップが若やいだイメージ。でも、キッチンに立ち続けているお父さんは、コック帽のまま。それも昔馴染みとしてはなんだか嬉しいですね。
品揃えはお父さんの開発したロングセラーに加えて、衛二さんのフランス菓子が10点近く。派手ではありませんが(といっても、こちらはもともとフルーツ盛り沢山タイプではありません)、見掛けからして力を感じさせるものが揃っています。
地元なので、散歩がてらてくてくと歩いて行ってきました。


●『しあわせのミルフイユ』 3.5×10.7cm 高さ4.5cmほど。
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まずは、衛ニさんのラインから。

シンプルなのに素材の持てる力すべてが押し寄せてくる名前通り“しあわせ”を感じるミルフィーユ。
パイ生地とカスタードのシンプルなスタイルです。
生地はフランス産小麦にカルピスバターを使ったアンヴェルセ。塩や水まで材料は徹底してこだわっています。
クリームは黄身の色の濃い卵と、牛乳、粉のバランスを追求したもの。
炊いている間に、ヴァニラを思わせるような香りがしてくるのだ、とか。

では、逸る心のままに、フォークをいざ …… サクッ!  軽快な歯触りとともに、わぁ~いい香り。
あぁ、美味しいっ! なんて、美味しいんでしょう。

今流行りの、フランス現地風を標榜するお店のやたら攻撃的な苦く、塩っぱく、甘くどいものとは段違い。
アンヴェルセの生地は強く押し潰されていないので、軽くサクサクした食感。
逆さに折ってもクッキー風にならず、層の鱗片がしっかり感じられます。
これは生地を仕込む際の水が影響しているのではないでしょうか。なんでも、日本で手に入るなかで一番硬度が高いというドイツの天然炭酸水を使っているから。グルテンが強く出るのですね、ふむ。
ちなみに、塩はアルプスの岩塩。海塩も魅力は有るけれど、海洋汚染の影響を受け易いからと、食の安全の意識も高い選択。

画像話を本筋に戻しましょう。次は香り。
カルピスバターのほのかだけど、ふくよかで豊かな香り。生地を焼き込んだ骨太の香り。カラメリゼの誘惑に満ちた甘い香り。
そこへさらに、カスタードクリームの包容力のある優しい香りが加わります。ふむふむ、たしかにヴァニラを思わせるものがありますね。
うぅーん、香りの競演、饗宴。

クリームはムースリーヌ。なめらかだけど、粉の力を感じるねっとり感もかなりのもの。生地のサクサク感に負けない食感で対抗しているのです。バランスいいですね。
卵と牛乳の味わい、そして、こちらにもカルピスバター。コクと風味が存分に満喫できますねぇ。
甘みは十分にありますが、どちらかといえば薄め。素材の力と、ねっとりした食感で舌にまとわりつく時間が長く、強い味わいに感じられるのです。

優しさと強さの共存、と云えばいいでしょうか。繊細さ一辺倒でもなく、ハードボイルドでもなく。久々に出会った、素晴らしいミルフィーユです。ふうぅ。


こちらは、お父さんのお菓子も含めて、リキュールや香料を一切使わないという主義。いい素材を使えば必要がないし、むしろ、素材の魅力を隠してしまうという考え。
まったくその主張の通りのお菓子が実現しています。素材の一つひとつが持てる力を十二分に発揮して、素材どうしが“しあわせ”なハーモニーを奏で、食べ手はただただ微笑むのみ。
こんなに“しあわせな”時間を体験させてくれたことに感謝の気持ちすら湧いてきます。
二人で“お見事”“お見事”とカノンしてしまったほど。素晴らしい!!




●『レモンパイ』(再) 辺10cm 高さ3.5cmほど。
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こちらはお父さんの衛さんのレシピによる、大人気のロングセラー。
真っ白で美しい表面はいつみてもほれぼれします。

以前に一度ご紹介しているので簡略に。
と言いつつ、伝えるべきことが残っているのです。

最近、ちょくちょく経験するレモンパイは、キュンと酸っぱいレモンクリームとたっぷり甘いメレンゲとを合わせてバランスを取っています(これも大好きです)。
しかし、こちらのものはレモンクリームは風味が主体。そういった流行りのものに比べると、酸味はあるのかな、というほどの淡さ。

ということで、合わせているのは、メレンゲではなく、生クリーム。昔から特注して作ってもらっている乳脂肪35%タイプ。素材の質がいいから、刺激がなくても美味しく、軽やかさで後口もスッキリ。
パイ生地も強く焼き込まず、ほのぼのとした香りを振りまいているのです。
なんとも心憎い、バランス感覚。長年愛されつづけている理由がよく分かるケーキです。




さて、2代目シェフの衛ニさん(1972年生まれ)。ブログ「パイ日和おまけ」の方のケーキで詳しく言及しますが、関西で有数の実力を持った方のように感じました。
流行りや、フランスではといった外部の価値観に左右されない熟成した感性を持っていること。一つひとつのケーキにたいする裏付けとなる透徹した理論を持っていること。
それでいて、一人よがりの自己主張に走らず、客とのコミュニケーションに余裕を魅せる柔軟な精神を発揮するのですから、文句なし。
透徹した理論の一端は、47年つづくお店の2代目さんならではでしょう。
“後口の爽やかさというのは、味が無いということではありません。味は残っているのに嫌みにならないということなのです。残っているからこその爽やかさ、それは素材の良さから来るもので、過剰に味を乗せない、素材らしさを活かしているから生まれるものなのです。”
後口爽やかなケーキを作りつづけてきた老舗「エルベラン」らしい理論ですね。ケーキを食べて頷かずにいられません。
これからも注目していきたいシェフとなりました。



●『しあわせのミルフィユ』400円  『レモンパイ』320円

●「ケーキとクッキー エルベラン」
 兵庫県西宮市相生町7-12  TEL0120-440-380  定休日/火曜・水曜不定休

※ブログ「パイ日和・おまけ」には、このお店のケーキを紹介しています。

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