パティスリールシェルシェ (5)  『タルト ノワ』『タルト アルザシアン』

オープン1年未満の新店ながら、人気絶大の「パティスリールシェルシェ」(大阪市西区南堀江)さん。
それもそのはず、ともかく美味しいのです。見た目からも分かる通りの造形力の美しさに加えて、味わいの調整力に秀でたものがありますね。どんなに難しい組合わせのケーキ、主張の強いケーキでも、ピタリとストライクゾーンの味わいにまとめる能力を持っているのです。
アーティストである前に、職人としての腕前が圧倒的に高いということ。そしてなおかつ、アーティスティックなお菓子に挑んでくるところが魅力なのですね。

2012年初春の“目出度い&愛でたいパイ”は、ここ「ルシェルシェ」さんから。
では、伝統的なタルトを2点ご紹介しましょう。


●『タルトノワ』 辺7.7cm 高さ2.5cmほど。
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パートシュクレの土台にクレームダマンド、クルミを敷き詰め、焼いただけのシンプルなお菓子。

と思いきや、クレームダマンドはハチミツ入り(たしかに黄色ではないですね)。
しかもタスマニア産のレザーウッド。

あっ、このハチミツに出会ったのは「ティカル」のボンボンショコラ『レザーウッド』以来。印象強かったので記憶に残っています。
村田シェフが忙しく、キッチンスタッフのサイトウユキさんがハチミツの匂いをかがせてくれたり、親切に教えてくれました。濃厚な香りでアカシアに近いといえば近いのですが、一度かいだら忘れられない個性です。

おかげでダマンドは、濃密なフレーバーに覆われることになります。
クルミはよく焼き込まれて芳ばしさの限りを尽しています。

一口、パクッ。
もわっと強い香り。ふふっ、美味しいな。

ぅん? 一口ごとに、不思議なことに「パパジョンズ」の『ピーカンナッツパイ』を思い出してしまいました。ピーカンナッツとクルミは親戚だけど、コーンシロップとレザーウッドが? うーん、面白い。
似ているけれど、やはりアメリカとフランス、違うのです。
偶然似ているものとの比較で個性が明確になりますね。「パパジョンズ」は重い美味しさだとすると、こちらは軽やかさも併せ持っています。

濃厚さの魅力を追求しながら、シュクレの味わい、クルミのサクサクとした食感との対比など、すべてがイキイキとして繊細に息づいているところが村田シェフならではと云えるでしょう。




●『タルト アルザシアン』 辺8cm 高さ4.7cmほど。
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微かにラム酒で香りを纏ったリンゴとクルミ、レーズンが入り、シュトロイゼルで覆って焼いたタルト。

“タルト アルザシエンヌ”という女性形が知られていますね。アルザスはリンゴも特産品の一つだそうです。そんなところから、リンゴを使ったタルトにアルザスの名を使うのでしょうか。
シュトロイゼルもドイツ風で、ドイツのものが流入するアルザスに伝来の源を求められるのかもしれませんね。
はてさて、前置きはこの辺で。

ブリゼ生地に、こちらは普通のダマンド。
リンゴがしっかり酸味が主張して、ダマンドやシュトロイゼルの甘味といいバランス。
でも、リンゴにピタリと焦点が当たっていて、主役の存在としての華を感じさせるものがありますね。

時おり出会うクルミの食感や香りの魅力、レーズンの風味がとてもいいアクセント。
シュトロイゼルに含まれたほのかなシナモンの香りとともに、大人しいけれどちゃんと主張のある個性を発揮しています。

ブリゼのザクザクッと強い食感がクルミの食感と呼応しているのも、全体のまとまりを良くしているようです。いいですね。




取材攻勢がつづくなかで、着実にケーキを進化させているところが村田シェフの非凡なところ。
注目され、人気が出るとどうしても自己批判が出来なくなるもの。彼はそこをグッとこらえて、品揃えは季節ごと入れ替えにとどめて、1品1品のブラッシュアップを心掛けているようです。
ということは、こうやって一度評価したからといって、それは固定的なものではなく、さらなるステップアップの一過程に過ぎないということになります。
現に、以前食べた『プロヴァンス』は、こちらの切り分け辛いという意見を受け入れてくれ、長方形に形状が変えられましたが、やはり円のタルト形のほうが可愛いという結論が出て、元の形に。

形や味、食感など、いつどのように変わるか、つねに新たな可能性を探っているシェフなので油断ならないですねぇ。サービス担当のマダム泳津子さんも、“知らない間に変わっているんですよ”と言いつつニコニコ。
そこが、オープン1年の村田ワールドの魅力とも云えるのではないでしょうか。



●『タルト ノワ』300円  『タルト アルザシアン』350円

●「パティスリー ルシェルシェ」
 大阪市西区南堀江4-5  TEL06-6535-0870  定休日/火曜・月2回不定休

※ブログ「パイ日和・おまけ」(http://pie-omake.at.webry.info/201201/article_1.html)には、このお店の生ケーキを紹介しています。よかったら、どうぞ。