ロトス洋菓子店 (1) 『ミルフィーユ』『赤い実のタルト』『アマンディーヌ』

2011年1月15日、京都烏丸通松原上ルにオープンした「ロトス 洋菓子店」さん。
79年生まれの若い木村良一シェフと婚約者の小川さんが販売担当、二人で切り盛りするパティスリーです。
“ご近所の80歳くらいのお婆ちゃんも買いに来てくれるので、そういうお客さんを大切にしたい”と、心根の優しいお二人です。そういえば、商品名もシンプルでわかりやすく、注文しやすいですね。
因幡薬師の斜め向かえの奥まったところにひっそりと構えた奥床しい佇まいも、初々しいお二人の人柄を反映しているようで、とても好もしい。絵本の世界のような店構えです。
路地をぶらりぶらり歩いてここを見つけたりすると、前を素通りできない可愛さ。立ち止まり、そっと扉を開けて……ロトス LOTUS(蓮の実)をいただくことにしましょう。


●『ミルフィーユ』 3,7×9cm 高さ4.4cmほど。
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おっ、ミルフィーユがあるっ! 
しかも、ナチュール。
むふふ、それだけで、お主やるなと思ってしまう私たち。

このシンプル系のミルフィーユは、見ただけではなーんにもしていないと誤解を受けやすいヤツ。
だけど、違うんですよ。シンプルだからこそ、難しいのです。
当然こちらも、いろいろこだわりをお持ちのようです。   

まずは、オーソドックスなカスタードから。
よく炊き込んだポッテリと重い食感。クレームシャンティも少し加えているそうなのですが、それでもどっしりタイプ。
ヴァニラのふくよかな香り、卵の風味も濃厚で味わい深く、強い生地と拮抗できるものです。

むむ、香りつながりで言えば、思わぬ伏兵も飛び出してきます、生地のカラメリゼの香り。
けっこう強いカラメル香が漂い、魅力を振りまきます。ミルクキャラメルのような豊満な香りを作り出しています。

この魅力的な香りをもう少し控えめにして、せっかくのカスタードの卵の風味をもっと楽しみたいなぁとも感じました。だって、とても美味しいカスタードだけにもったいない。パイと同じ、主役にしてあげたいなぁと。もうほんの少しカスタードの量を増やすだけでいいのかもしれない。微妙な世界。


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さて、カスタードも良かったけれど、何と言っても特色があるのが、パイ生地。

薄力:強力が1:5というちょっと聞いたことのない配合比率。
しっかりグルテンを繋いで強さを出しつつ、アンヴェルセで折って脆さも合わせて獲得しようという、欲張った狙いを実現しているのです。
焼き込みは比較的浅く、焦げ風味を避けています。“浅いほうが粉の香りなどがよく分かると思うので”と、選択の意味も明確。

ナイフでカットして、口に運ぶと……。
おぉ、シェフの狙い通り、ザクザクと強い食感とともにほろほろとした脆さも兼ね備えています。
この感触はありそうで、意外とないですねぇ、個性的! 

これほど強力粉が多ければパリパリを通り越してバリンになりそうだし、オーソドックスなアンヴェルセであれば、サラサラとした感触。
自分の理想を追って、配合と手法を合致させた手腕は大したもの。

うん、とても印象に残るミルフィーユです。いいなぁ。




●『赤い実のタルト』 径6cm 高さ6cmほど。
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これはムラング・グロゼイユのアレンジ・ヴァージョンと捉えていいでしょう。

オリジナルでは、底生地はフィユタージュですが、甘いパートシュクレに置き換えられ、ダマンドを詰めて焼かれています。
タルトと呼ぶ所以です。

このケーキがそのような改編を行って成功しているのは、なかにグロゼイユだけでなく、カシス(ムースと果実)をたっぷり入れ、ダマンドの上の方にはフランボワーズもあり、思い切り酸っぱさを訴求しているからです。

本家がメレンゲ部分自体が甘酸っぱい印象でフィユタージュのチャリチャリした食感とともに儚く消える瞬間芸だとすると、
こちらは酸っぺ~い赤い実がたっぷり口に残り、土台のアーモンドタルトのたっぷりした甘さとのアンサンブルを時間をかけて味わえるようになっているのです。

メレンゲを使っている意味は、鋭く強い酸味のショックの前に表面をオーブンで乾燥焼きしていて、サクッ!  季節はずれの淡雪のように繊細な感触を導入として用意しているところ。

酸味は、“事件”と叫びたくなるほどの強さなのですが、ふふふっ、タルトの甘さですべてが解決され、愉悦に満たされるという構造。

木村シェフはケーキを食べる時間経過を考えて、その間のドラマを想定して、味わいや食感を組み立てているようです。物語性があっていいですね。




●『アマンディーヌ』 径6.5cm 高さ2cmほど。
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懐しさをともなった、優しい味。
それだけならこのお菓子の特長ですし、当たり前といえば当たり前。

そこへ、ちょっとした工夫が凝らされているのです。
ダマンドの下に、セミドライのアプリコットが薄く敷かれているのです。
その代わり、表面のナパージュは少なめ。

アーモンドのタルトということで、親戚であるアプリコット(ナパージュもアプリコットのことが多いですが)を使って、極めてほんの僅かの酸味で奥行きを出し、ダマンド自体のアーモンドの杏仁香の強さで味わいの芯を作り出しています。

シンプルなお菓子で、これだけの神経を使い、ナパージュを控えることで一段上の味わいの充実と品の良さをもたらしています。いいですね。




木村シェフは、パティシエが知る本物の素材の味わいと魅力を遠慮なく示したいという強さも兼ね備えているようです。 無類の優しさから、最後に柔らかな甘さで包み込むことを忘れません。が、ご近所のファミリーを自分の上客と決めているのに、強さを恐れないところに凡百ではない、キラキラとした魅力を感じました。
某有名店出身なのですが、あえて名を秘したいとのこと。“その名前で期待して来られるお客様を失望させては申し訳ないし、同じお菓子を作っていては師匠にもご迷惑をかけるし”といたって謙虚な、現代の青年ぽくない発言。
でも、裏返して考えれば、“自分の力で勝負したい”ということでもあるのではないでしょうか。あっぱれな覚悟だと思います。

にわかに活況を呈してきた四条烏丸界隈。競争は激しいと思いますが、この謙虚さと堅実なものの考え方、味覚のセンスが揃っていれば、着実に愛されるお店へと育っていくでしょう。
だって、たった一度お会いしただけにも関わらず、お二人の醸し出すふんわりとした優しさが嬉しく、応援したくなってくるのですから。心の底の方がぽかぽかとあたたくなってくるような洋菓子店です。



●『ミルフィーユ』390円  『赤い実のタルト』420円  『アマンディーヌ』190円

●「ロトス LOTUS 洋菓子店」
 京都市下京区烏丸通松原上ル因幡堂町699  TEL075-353-2050  定休日/水曜(但し、祝日と毎月8日は営業、翌日休み)

※ブログ「パイ日和・おまけ」(http://pie-omake.at.webry.info/201104/article_2.html)にも、このお店のお菓子を紹介しています。よかったら、どうぞ。