グラン・ヴァニーユ (1) 『シブースト・ルージュ』

2011年2月6日オープンのパティスリー「グラン・ヴァニーユ」さん。このところ、ちょっと驚く新店が続々で、そのことにまた驚いてしまいます。
ケーキ業界の超エリート、シェフの津田励祐(れいすけ)さんが京都の烏丸御池近くにお店をオープンしました。なんと、“ルレ・デセール・メンバー”の3店、「エルメ」「エヴァン」に、日本の誇る「H.S.」さんのお店。そして「資生堂パーラー」を経ての独立。その経歴だけでクラクラしてしまいます。
オープンした後、1ヵ月余りのホワイトデー明けに、フランスのコンテストに参加。お店を10日ほど閉めてしまいました。なんとも、大胆。
私たちは、その11日目に京都に用事があって、物見高くファサードだけでも見て行こうかとおのぼりさんよろしく前まで行ったら、やったー! なんとラッキーなことに復帰当日なのでした。
すでに大人気とみえて、3時頃だというのに、18種類用意された生ケーキは11種類に減り、残っていたものも2、3個ずつといったところ。ひゃあ、危うい、危うい(1週間後に4時に行ったら4種類!)。
「パイ日和」としては残念ながら、現状ではパイタルト類はかなり少ない品揃えです。『シブースト』と『タルトフリュイ』『タルトフリュイルージュ』ぐらいだったでしょうか。焼菓子にも見当たらなかったし。
では、なんとか入手できた商品のご紹介とまいりましょう。


●『シブースト・ルージュ』 径6.5cm 高さ4.5cm(土台)ほど。
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シブーストは、パータ・フォンセの器に、リンゴを載せ卵と砂糖のアパレイユを流して焼き、シブーストクリームで覆い、上面をカラメリゼするというのがオーソドックス。

こちらでは、まず器がパートシュクレに置き換えられています。
アパレイユはダマンドに、リンゴは赤い実のフルーツに。
シブーストクリーム自体も、苺メインの赤い実のピュレを含まされています。
これはもう、シブーストなんか食べ飽きた、という人のためのお菓子かもしれません。

土台はアーモンドタルト、ペパン入りの赤い実のジャムを塗り、カスタードをドーム状に載せ、赤い実のジュレで覆い、さらにシブーストクリームで覆うという構造。

アーモンドタルトと赤い実、カスタードの組合わせはよくあるフルーツタルトに過ぎませんが、それを強引にシブーストにしてしまう力技が見せ所。
普通のシブーストに比べて、ごく少量のクリームなのに、泡の存在感が見事に発揮されていて、これはフルーツのタルトではなく、どうしてもシブーストでなければならない、という意思が伝わってきます。

そして、元々甘いだけのお菓子であるところを、ジュレに含まれるグロゼイユとカシスの鋭い酸味が、強いアクセントを放って、見事に立体的な味わいのケーキに変身させているのです。

その手腕、一つひとつのパーツの完成度、技術の確かさ、造形感覚のシャープさ。
見事という言葉を奪い取る力強さを感じます。

同時に、あまりに詰め込まれた美味しさのために、逆にオリジナルののんびりした甘い幸福にひたれるシブーストが懐かしくなるのも事実です。

だけど、若い気鋭のシェフには、いろいろやって欲しいから、こういうのは大歓迎。
もとの原型から大きくアレンジしつつも、その原型の核のところからはけっして離れない、きっちり押さえておく。そういったアレンジなら、どんどんやって欲しいなぁと常々思っています。
(※追記/お手本は「イデミスギノ」さんの『べべ・ルージュ』だったのですね。失敬)




つねづね、私たちはパティスリーは厨房とサービスが両輪となって成り立つものだと思っています。シェフが精魂傾けて作ったケーキを生かすも殺すも販売の能力次第。
さて、こちらの販売スタッフは奥様の恵理さん。キッチンも少し手伝うという、専門学校時代、シェフと同級生だった細井さん、そしてホール担当の三善さん。
ケーキの知識も豊富だし朗らかだし、ざっくばらんだし、とても親切。こういうスタイリッシュなケーキのお店では澄ました感じの方が多いのに、なんだか嬉しいなぁ。会話が成り立つなんて。
たとえば、私たちの持参のクーラーバックが小さくて、あれやこれやとパズルのようにして入れ直してくれました。それも、困った客だという匂いはこれっぽちもなくて、どこか楽しくってしょうがないという雰囲気なのですよ。
それに、ケーキの細かな部分をしつこく聞いてもうるさそうにするどころか、嬉々としてシェフに聞きに行ってくれます。自分たちもより深くケーキを知るチャンスと思ってくれているようなのです。
恵理さんは“楽しく食べてもらいたいですからね”と当然といった姿勢。
この上ないような素晴らしいサービス。マニュアルとかじゃなくて、個人の魅力でしょう。とてもリラックスできて、この体験だけで彼女たちに惹き付けられ、お店もケーキも大好きになってしまいました。

あるシェフからオープン情報を教えてもらっていたのですが、やっと今頃のご紹介になりました。
ただ、オープンして早々、コンテストのためにまた休む、という話も同時にうかがっていて、へぇ凄いなぁというのが正直な最初の感想でした。
食べてみてまたびっくり。味わいの強さと、繊細さ、凛とした緊張感。
これらが、ショーケースのすべての商品から訴えかけているよう。オープン早々の段階でこの完成度はめったに見られるものではありません。なかなか末恐ろしい存在ですね。



●『シブースト・ルージュ』550円

●「グラン・ヴァニーユ」
 京都市中京区鍵屋町間之町通486  TEL075-241-7726  定休日/火曜・水曜

※ブログ「パイ日和・おまけ」(http://pie-omake.at.webry.info/201104/article_1.html)にも、このお店のお菓子を紹介しています。よかったら、どうぞ。