ルシェルシェ (1)『ミルフィーユ』『ピティビエ』『サントノーレ』『タルトシトロン』『タルトショコラ

今年の1月27日オープンした新店、パティスリー「ルシェルシェ」さん。
新店でこれほどの完成度、ケーキの趣味の統一感、人を打つ美味しさで魅了してくれるのは、久々。唖然として、開いた口が塞がらないほどでした。
しかも嬉しいことに、ななんと、パイ自慢のお店でもあったのです。若い人では珍しいっ!
この驚きの心そのままに、!マーク多用、お許しを。
場所は、大阪市立中央図書館の南2分ほどのところです。地下鉄千日前線桜川駅と西長堀駅の中間地点。西道頓堀川の北側。斜め前に、日吉公園があります。


●『ミルフィーユ』 3.5×9.5cm 高さ4.5cmほど。
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村田義武シェフはパイを折ることにかけては、自信があるという。

驚いたことにパイ生地は、5番生地まできっちり使い切るそうです。それぞれに表情や個性が異なっていきます。
元気ハツラツの1番はミルフィーユ、ピティヴィエ、ガレット・デ・ロワなど。2番はタルト・オ・ポム、3番コンヴェルサシオン、4番・5番でポンヌフ、量が少ない時だけブリゼに。
最終使い切りにいたるまでちゃんと層を維持したフィユタージュとしての使い方。サレやシュクレに混ぜ込むという使い方でないところが凄い。

さて、そのハツラツ生地を使った、ミルフィーユ。
粉から折から、何から何までこだわりがあるのだけど(長くなるので涙をのんで割愛)、それが食べていてうるさく感じられない。
グルテンを強くつながずに折っているので、サクサクッと軽ろやかな食感、繊細さも持ち合わせています。ナイフの通りもいい。
しっかり芯まで均一に焼き切っていて、苦味を出しています。

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それを迎え撃つカスタードが、これまた凄い。
これまた、自慢とのこと。ふふふっ。

生クリーム無し、お酒なし。フエで持ち上げられるくらい炊いているそう。いさぎよく、ねっとり、ぽってりとした重ーい食感で勝負しています。

バターを加えてムースリーヌっぽくやや滑らかでコクもあり、タヒチ産のヴァニラで甘い香りがたっぷり、そして“黄身自慢”という卵の風味も際立っています。
それらが合わさって、印象としてはヴァニラキャラメル風、と云えるでしょうか。あまり出会わないカスタード。存在感があっていいですねぇ、これ。

その力強い味わいがあるからこそ、苦味すらある分厚いパイ生地をじつに美味しく味わうことができる。そのハイテンションのバランス感覚。素晴らしい。

いゃぁ、自慢のフュタージュ & 自慢のクレームパティシェール、“自慢”というのもむべなるかな。お互いが引き立てあうって、こういうことを言うのですね。みなさんも、ぜひ、食べてみてください。ちょっと唸ってしまいますよぉ。

じつに見事だなぁ、本当に新人ですか? 村田さん!




●『ピティビエ』 辺7.5cm 高さ4.5cmほど。
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これも一番生地のフィユタージュ。
中に入れるクレームダマンドはアーモンドプードル、砂糖、バターが同割りの一般的なもの。
お酒を入れたり、サワークリームを入れたりといった小賢しいことは一切なし。

シンプルに、ストレートに、技と材料で勝負をしています。
その結果、ダマンドの卵が優勢勝ちを納めています。

たっぷりのダマンドと共に食べるとベストバランスでサックリ、ほっこり、いい味わい。
ナイフが気持ちよく通るのも変わりません。いいフィユタージュであることはここでも証明されています。

ん? 端っこの部分を食べてみると、これが同じ生地? と首を傾げるほど塩気を強く感じました。
美味しい塩を使っていることが明確に分かるほどにはっきりした塩味。ミルフィーユほど焼き込んでいないので苦味がなく、塩気が隠れる場所がないということなのでしょうか。不思議な体験です。

明らかに有望なシェフなのであえて言うと、材料選びはまだまだ初心者レベル。
オーナーとなってようやく自腹でいろいろ試すことができるようになったところ。実績を上げるにしたがって、メーカーがどんどんサンプルを持ち込むようになるでしょう。本当の勝負はそれから。

今でも十分美味しいのです。
が、しかーし。村田シェフには期待しています。アーモンドの香りが目立たないあたりに、これから増々美味しくなる余地が残されていると感じました。
いや、卵にもこだわっておられるようなので、卵を楽しめるこれがいいのかな。




●『サントノーレ・キャラメル』 底径6.5cm 高さ8.5cmほど。
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お店のロゴマーク、お月見団子のように丸が重なっているのですが、それがサントノーレを表しているのだそうです。
そう言われれば、そうですね。

なんでも、修業先の「なかたに亭」ではじめて師匠に認められたケーキ。
記念となる作品だったとか。初心を忘れない、ということなのでしょうね。
今回の『サントノーレ』は、カラメルクリームにオレンジの風味を付けていることがナカタニ時代から変わった点だそうです。

一番底の生地がブリゼ、そしてリング状のシュー生地、なかにカスタード。
プチシュー(カスタード入り)3個、表面は、厚めにカラメリゼ。ピッカピカ鏡面仕上げ。
真ん中にたっぷりカラメルクリーム。生クリームにオレンジの皮を漬けて、品のいいレベルで香りを移しています。

ふむ、ビターのグラデーションがテーマなのかな(といっても、苦いだけのケーキではありません)。
感じられないけれどオレンジの皮の苦味からスタートして、よく焼き込んだ底のシュー生地(ザクッと小気味のいい食感と塩気もある強い味わい)のかすかな苦味、クリームのほの苦さ、パリンッとしたカラメリゼの甘苦さ。
そこに静かに通奏低音のように流れる、オレンジの香り。洗練されています。これまた、鮮やかな手際。

パイ協会としては、ブリゼの存在感が希薄なのがやや残念。へへっ、このお菓子をパイ菓子だとして紹介する無理は百も承知。だけど完敗。
これだけバリッとした、芳ばしく強さも持ち合わせた際立ったシュー生地(底)を前にしては致し方ないですね。ここで、ブリゼが目立ちすぎると全体のバランスがとれなくなり、きれいな着地が難しくなるのだろうなぁと思い直しました。

スペシャリテ、も納得の逸品です。




●『タルト・シトロン』 径7cm 高さ6.5cmほど。
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これまた、ちょいと驚くぜぃ! という世界。

タルト台となるパートシュクレは空焼き用と、ダマンドを詰めて焼くタイプで、生地を使い分けているそうです。
これは空焼き用で、強力粉を使ってわざと、ゴリッと感を追求したもの。

空焼きの台に、レモンクリーム(和歌山産レモン使用)、間にジョコンド。
その上に、たっぷりのメレンゲ。
表面をプラリネを砕いたものでまぶしています。これはメレンゲの表面をバーナーで炙る代わりとなるもの。よく、レモンメレンゲパイで見掛ける、あれです。

心して、ナイフ入刀……ゴッチン! と派手な音。

だけど、なんですねぇ、あら不思議、口に入れたときの食感はそれほど固くは感じられません。
むしろ、レモンの鋭い酸味 vs イタリアンメレンゲの甘さvs よく焦がしたプラリネの苦さが、強さのレベルで拮抗して、主張の強さを発揮。
その応接に暇がないときに、シュクレの存在をアピールするには、これくらいでちょうどいい。巧みな配慮だなぁ。

それに加えて味の話だけでなく、テクスチャーの饗宴でもあるのです。
やや強めのシュクレ、レモンクリームのねっとり、なめらかなメレンゲ、クラクランのコツッとしたアクセント。それぞれまったく異なる食感が賑やかなくらい。よく追究されています。
味わいと食感、それぞれ多様な顔を魅せつつ、立体的な一つの大きなまとまりに作り上げるあたり、大器の予感すらします。

ゴッチンの音を聞いた瞬間、文句を言おうと思ったのに、一口目からだらしなくニコニコ。嗚呼、一本取られました。はぁ~あ。
食べていて、心が弾んできます。大好きです。




●『タルト・ショコラ』 径7cm 高さ1.8cmほど。
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これも空焼きのシュクレ。
ヴァローナのカラク56%を使ったアパレイユを流して二度焼きしたもの。
卵、牛乳、生クリームを入れているだけ。おっと、砂糖が入らないのが特徴的。

村田シェフはどうやら苦味のコレクターらしい。大人だぁ、いいね。

チョコレートの魅力がストレートに伝わってきて、とてもいい。砂糖を加えないので、カカオ分56%でも十分にチョコレートらしさが全面に出ています。

滑らかな口溶けのところへ、少しハードなタルト生地。対照の妙。
生地もしっかりチョコレート色に焼き込んでほろ苦さがあるので、味わいの点では溶け込んでいます。
だから余計に、食感の違いが浮かび上がる格好です。心憎いですね。



入店して、まずケーキを見た瞬間、大好きな味だろうと直感しました。美しい佇まいのお菓子、どのお菓子も切り分けたエッジがシャープに尖っています。そして、販売スタッフ(残念ながらマダム不在)の感じの良さ、ウェルカムな雰囲気に心和みます。さらに、店内の大きな窓から厨房を何気なく見やると、シェフらしき人がはにかみながら微笑み返し。
もう、この時点でこのお店の評価の半分は終わったようなもの。
えぇ、とても気に入ったのです。ご本人との話も愉快で、辞去する頃には、喜びと期待感でわくわく。
早く食べたいと逸る心でいそいそとお家に帰って、じっくり味わいつくした後は、最初の直感は確信へ。
しばし、力強さと繊細さが同居し、エレガンスさえ漂う村田ワールドにどっぷり、ふうっ。なかなかないことです。

新店でこれだけパイ・タルトが揃うことに喜びが込み上げてきます。
そして、その一つひとつの完成度の高さ。シェフの真直ぐな職人魂。ひたむきな心がストレートに伝わってきます。
村田シェフは名古屋出身で小さい頃からのケーキ好き。高校卒業と同時に迷わず、大阪の辻製菓専門学校へ、そして、目指していたとおりフランス校へ。
でも、ちいさな挫折があったようです。現地の名店での修業が叶わなかったようです。帰国して、たまたま「なかたに亭」の求人に引っ掛かって、もちろん中谷哲哉シェフの薫陶を受けると同時に、スー・シェフをしていたブロードハースト・ピーター・ジョンさん(今回のオープン情報も奥様の永田敦子さんから)との出会いが大きかったようです。俄然、研究熱心に変身し、東京修業遍歴の末、再び「なかたに亭」へ戻ってスーシェフに。
二周りほど、ピーターさんに遅れていますが、“ピーターさんに負けたくないですぅ”と茶目っ気たっぷりに公言しています。
最初は、こいつぅ大口を叩くやっちゃなぁと思ったのですが、ケーキを食べて、その技術の高さ、味の趣味の良さに触れて、それだけの発言をすることが許されると思いました。
まさしく、新星の誕生です!


(※新店の場合、まだまだスタートしたばかりで落ち着いていないことが多いので、いつもは片目=ウィンクして書くようにしているのですが、もうそんなところは楽々超越して、率直に書いていいお店だと判断しました。云わずもがなの部分もあるかもしれませんが、このお店が気に入った証でもあります。乞うご海容)



●『ミルフィーユ』420円  『ピティビエ』320円  『サントノーレ・キャラメル』451円  『タルト・シトロン』420円   『タルト・ショコラ』315円  

●「Rechercher ルシェルシェ」
 大阪市西区南堀江4-5-B101  TEL06-6535-0870  定休日/不定

※ブログ「パイ日和・おまけ」(http://pie-omake.at.webry.info/201103/article_11.html)にも、このお店のお菓子を紹介しています。よかったら、どうぞ。