16区 (1) 『マロンパイ』『キュイッソン フィグ(イチジクのパイ)』

福岡の名店「フランス菓子 16区」、待望の初登場。福岡市営地下鉄薬院大通駅から徒歩4分ほどのところにあります。81年オープンです。
じつは福岡に実家があるので、博多駅や天神駅はよく通過しているのですが、ほんの少しはずれるだけで、今までなかなか行けずにいました。実家へ帰ったら帰ったで、なぜか忙しくてお店に寄る時間がなかったのです。でも、今回はむりやり時間を作って帰りの新幹線に乗車する前に、ちょこっと寄り道。なにしろ、パイで有名なお店ですから。
たしかにパイが美味しくて、そりゃあもう十分満足しました。ですが、このお店はそれ以上の、トータルの魅力において、全国レベルでみても頭抜けたお店だと感じました。
その内容については後ほど詳しくお知らせすることにして、まずは、魅力溢れるパイのご報告から。


●『マロンパイ』 径5cm 高さ6cm 55gほど。
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作りとしてはオーソドックスで、どこといって変わったところはありません。
国産の渋皮煮の栗を丸ごと1個、マロンクリームで包み、さらにパイ生地で包んでじっくり焼き上げ、アプリコットのナパージュ、アイシングによる仕上げ。
栗は素朴な仕上がり。クリームが少し甘めで、ラム酒もしっかり利かせてあります。これが味のベースとなっています。

ほぅ、さすがにパイの名手だけあって、パイ生地はしっかり焼かれていて、一番内側の層まで完璧。
バリッと力強い食感。逞しく頼もしいパイです。
オープンキッチンで、オーブンから豊かな匂いとともに続々と出てくる姿は、じつに壮観。焼きに自信があればこそのアピールでしょう。

クリームの美味しさは、大衆を意識した分かりやすい甘さによるもの。この路線は普通安っぽくなってしまうのですが、その一歩手前でしっかり踏み止まっています。
その証拠は渋皮煮の風味がちゃんと味わえること。甘くしすぎると、たいてい栗の風味を隠してしまうものなのです。その落とし穴にはまらないところが、ベテランシェフの妙技といえるでしょう。

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クリームの強さと拮抗する強いパイを焼いていること、ナパージュとアイシングの二段構えもクリームとのバランスを考えてのこと。
いやむしろ、この力強いパイがあるからこそ、逆算的にクリームの濃度が決まっているのかしれません。それほどまでに、とても存在感の強いパイです。いいですね。
もちろん、栗が主役であるのはいうまでもありませんが。






●『キュイッソン フィグ(イチジクのパイ)』 径15cm 高さ2.5cm 300gほど。
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豪快で、素朴な姿。シンプルな焼きっぱなしに見えますが、けっこう手の込んだお菓子でした。

軽い塩あじのブリゼもしくはラピッドと呼ばれる生地でしょう。軽く層になっていますが、フィユタージュの繊細さはありません。野太い生地です。
側の部分は1.5cmもあって、量と食感で存在をどんと主張しています。

生地の中は、底にラム酒に漬け込んだドライイチジクのジャム状にしたもの。その上に、イチジクのクリーム。そして、生イチジク。
と、なんとまぁイチジク三昧!

味の見きわめが相当手が込んでいて、材料表示からシェフのこだわりが伝わってきます。
イチゴ、はちみつ、レモン、ペクチン、バニラ、シナモン、アニス、洋酒、葛粉。ちょっとビックリするほど、微妙な世界での味と香りの調整が積み重ねられています。
十二分の味わい、だけど出過ぎない。そのラインの見きわめがいいですね。

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ドライイチジクの濃厚な味わいを活かしつつ、くどくない味わいで、ねっとりとした食感。プチプチも楽しい。
そして、トップに並べられている、生のイチジク。
焼かれて、味わいが深くなり、クニュッ、シャキッとした食感も。イチジク独得の風味も存分に堪能できます。

このパイも、生地と中身の味わいの強さのバランスが見事に調和しています。
全体に強めの個性にすることで、パイを焼き込んだ時の魅力がしっかり引き出されていて、いやはや本当に文句なし。



お目にかかれませんでしたが、ケーキの味やお店の雰囲気から察するに、三嶋隆夫シェフは心根の優しい、楽しいお人柄だろうと想像しています。
でなければ、パリの名門パティスリーでシェフを務めて凱旋帰国した人が、こんなに分かりやすい誰もが美味しいと思える味を作るとは思えないからです。“この味が分かるか”と居丈高なところが少しもない、寛いだお菓子ばかり。しかもリーズナブル。

加えて、お店のスタッフの、お客をリラックスさせる優しさもシェフの優しさを映しているのではないでしょうか。
次々に訪れるお客さんを待たすことなくスムーズに対応してくれるだけでなく、ちらっと先客を見ると、バースディーケーキについて親身になって相談にのってくれていたり、ギフトを一緒になって選んだりしている様子。一人一人のお客さんを大切にしているのが伝わってきます。
私の担当の方もとても感じがいい若い女性で、通常の接客はもちろん、ケーキ等の資料が欲しいと伝えると、HPを観ていただければ…と言われるかなと思っていたら、快く“生ケーキと焼菓子の両方の手書きパンフレット”をくれました。
さらに、パイは温めたほうがいいんですよね、と確認するとその方法もじつに優しく嬉しそうに教えてくれたのです。おかげで、お店にいる間、楽しい時間が過ごせました。

ねっ、なんだか店中、会話が成り立っているというか、人と人との交流があるというか……そんな和やかな空気が流れていました。やはり、名店ですね。



●『マロンパイ』399円  『キュイッソン フィグ(イチジクのパイ)』1680円

●「フランス菓子 16区」
 福岡市中央区薬院4-20-10  TEL092-531-3011  定休日/月曜

※ブログ「パイ日和・おまけ」(http://pie-omake.at.webry.info/)にも、このお店のパイ以外のお菓子を紹介しています。よかったら、どうぞ。