グロスオーフェン (3) 『オレンジのタルト』

阪急・箕面線の一つ目の駅、桜井のほぼ駅前にある「グロスオーフェン」さん。
残念ながら知名度は低いですが地元のお客さまを大切にして、しかも自分の信じるドイツ風の焼菓子を中心に、その美味しさを地道に広めているお店です。
ご主人の清水敬之(よしゆき)さんの人柄も、静かな気骨があって、優しい笑顔に迎えられると、もうそれだけで美味しい思いをしたような気分になります。小さな規模ですが、名店だと思います。
今回はいままで、買いそびれていたホールのタルトを一つご紹介しましょう。


●『オレンジのタルト』 径16cm 高さ2cm 440gほど。
画像は~っ、美しいタルトではないですか。
このタルトの姿、オレンジのきれいな並べ方を見て、前回訪問した時からどーしても食べたいっ、と思っていました。念願かなって、いざ。

タルトはパートシュクレ、5mmほどの薄さに均等に伸ばされています。
クレームダマンドはややアーモンドプードルが少なめの味わい。マドレーヌっぽい感じかな。
その上にぽってりと炊いたカスタードを薄くしいてオレンジスライスの接着剤として、味わいをまろやかにする役割として使われているようです。皮付きのオレンジはたっぷり並べられ、しっかり焼かれています。
皮には歯応えがあり、苦味もあります。柔らかいばかりのケーキに慣れた人には、少し抵抗があるかもしれません。
でも食べ進めるにしたがって、タルト台とダマンド、カスタードの微妙に異なる甘さの層に溶け込み、丸みを帯びて行く苦味、酸味がジワジワと美味しく感じられるようになるはずです。

酸味については比較的弱いほうのオレンジのようです。みずみずしさと香り、そしてやはり苦味がキーポイントでしょう。オレンジの魅力がフルに味わえるお菓子です。
オレンジは今まで齧りついたことがなかったのですが、レモンはよく皮ごと齧ります。そうしてはじめて、レモン全体の美味しさを味わった気分になるものです。

“ときじくのかぐの木の実”ではないけれど、柑橘はそれこそ天の恵み。与えられた美味しさを丸ごと味わいたい。そんな願いを美味しく叶えてくれたケーキだと思います。



清水シェフは、かつて大阪・北田辺の小さなお店で修業されたあと、東京に出て、赤坂のドイツ菓子とパンのお店「カーベー・ケージ」でドイツの嗜好をたたき込まれた方です。ドイツの見掛けや口当たりの良さを気にしない、質朴な、だけど素材の作り手、食べ手の両方を裏切らないしみじみとした美味しさをストレートに伝えてくれています。
苦楽園からだと、電車を3回乗り換えなければなりませんが、わざわざ目指して行く価値のあるお店です。ただ、地元のお客さまのためにお菓子作りをされていますので、マスコミで紹介されて騒がしい思いをするのは、どうも苦手のご様子。普通のお店でありたいご様子。
たとえば、街にある普通のお店が普通に美味しかった、そんなお店が無くなってきている寂しさや、普通のお店に過度なこだわりが求められてきていることなどを清水さんとお話しました。そういえば、数年前の寒い季節に何気なく入った、マスコミに紹介されたこともないようなどこにもあるうどん屋さんの『きざみ揚げ入りのあんかけうどん』のなんと旨かったことか…、そんなことを思い浮かべたりもします。このようなお店がある街に住んでいる人は幸せですね。もちろん、本人も意識していない幸せ。これこそが豊かさではないでしょうか。
となると、わざわざ目指して行く、という煽るような私の言葉も矛盾だらけ。ふむ。
だけどやっぱり書かずにはおれない水準の高いお店なのです。……これからも、静かに、そっと応援していきます。



●『オレンジのタルト』1575円

●「グロスオーフェン」
 箕面市桜井1-1-1   TEL072-723-9151    定休日/水曜