ラ・ベカス (2) 『鴨とフォアグラのパイ包み焼き』

今や押しも押されもしないフレンチの名店として名を馳せる「ラ・ベカス」。
入会審査が厳しいことでも知られ、世界のトップシェフにしか加盟が認められないルレ・エ・シャトーの日本での数少ないメンバーにもなっている。信念をもって微動だにしない渋谷シェフのフレンチの王道を歩む姿勢が評価されてのことだろう。
今回、キャンペーンメニューとして登場する料理もまさに、フレンチのオーソドックスそのもの。それでは、さっそく料理の内容を紹介することにしよう。


●『鴨とフォアグラのパイ包み焼き』(キャンペーン用の試作品でポーションが大きく2人前 径15cmほど。当日は1人前ずつショソンの形、1日限定10皿が供される予定)画像

フランス・ランド産の鴨の胸肉を胸と腿のミンチで薄くくるみ、底にフォアグラを添え、パイで包み、じっくり焼き上げる。味付けはミンチの部分にちょっと強めの塩とコショー。それだけで、全体を美味しく食べるためのベースとなる味付けは足りている。
切り分けると、絶妙のロゼ色の鴨胸肉が目に飛び込んでくる。これだけで涎が出てこなければ、食いしん坊の名折れというものだろう。
これこそ、パイ包み焼きにした効果にして、グランシェフの実力の証。じっくりと柔らかく火を入れ肉を旨くする。新鮮な鴨肉の血を中心とする肉汁の芳香。これもパイに閉じ込められていたから、切ると同時に立ち上がってくる。肉のジューシーさ柔らかさに、あらためて鴨肉の旨さを再確認した。
近頃は、気の利いた肉屋であれば鴨肉が手にはいるから、自分で料理する機会がある。読者にも体験者は少なくないことだろう。でも、流通している鴨肉の血の香りはすでに劣化していて鉄の匂いが強すぎる。かすかだけど、ツンとした金属臭に感じられるはずだ。それでも、旨いといって、相好を崩してしまっている。
ところが、管理のいい新鮮な鴨肉からは嫌みな匂いは一切上がってこない。ただただ鴨の美味しいジュースと優しく火が通った肉の柔らかな感触を楽しみ、異次元の味に陶然となるばかり。
画像相性のいいフォアグラも最小限にとどめ、鴨の主役の座を奪おうとはしていない。ミンチの層は薄いにもかかわらず、しっかり全体をまとめあげるキーとなっている。ミンチはもともと味が濃厚で、パイの部分も含めた全体の味の供給役を果たすことができる。主役の胸肉を噛み締める喜びを満足させつつ、コショーの香りの高さとともに強いアクセントを与えることに成功している。思わずワインに手が伸びる味だ。
パイ生地の外側の部分がよく浮いて厚みがある。残してしまうかとの懸念も感じたけれど、よく焼き上がっていて、思った以上に軽い。あっという間に食べ尽くしてしまう。まだ、サラダが付け合わせとされるのか、血入りソースで仕上げるのか、 本番のときのスタイルが決定していないそうだ。いずれにしてもパイとの相性は良さそう。さらに軽く食べられるというものだ。
そういえば、「ラ・ベカス」のソースにはバターモンテしたものがない。クラシックな料理に根ざしてはいても、軽やかさを忘れない渋谷シェフのオリジナリティ、現代性がこのあたりに表れていると言えるだろうか。パイ料理はクラシックの典型だけど、これも重厚すぎない軽やかな仕上がりで、シェフのセンスと技が底光りしている。


フランスでの修業時代、パン屋が作るショソン・オ・ポムが大好きだったという話を聞き、シェフの手になるパイ料理、試作品が完成形で出される「パイの日」、1日10皿という貴重品だけにますます楽しみだ。



●『鴨とフォアグラのパイ包み焼き』12,000円コースのメイン料理として

●「ラ・ベカス」
 大阪市中央区高麗橋4-6-2   TEL06-4707-0070   定休日/日曜