kezako(ケザコ) (1) 『栗のミルフィーユ』(デジュネメニュー/デザート)
祇園に期待のフレンチの店「kezako」(ケザコ)がオープンした。シェフは「フィリップ・オブロン祇園店」のスーシェフを務めていたステファン・パンテルさん。
オブロン氏がオーストリアに去った後、同じ店鋪で店名を「クーランデルブ」と改め、シェフに就任していたのだけど、今年1月に店をいったん閉め、慎重に物件選びをした結果、この12月6日プレ・オープン、13日全面オープンとなった。薦める人があったので早々にのぞいて見た。
1階のカウンター席を利用したが、現代的なシャープなインテリア、機能的なキッチンに所々和の柔らかなテイストが加味され、居心地のいい空間になっている。
使用される器はおもに、パンテルさんがフランスで直接買い付けてきたもの。フォーマルな感覚ではなく、すべて遊び心を感じさせるモダンデザイン。ここからもリラックスした空気が漂ってくる。
●前菜『牛タンと下仁田ネギのテリーヌ、レフォールとビーツのソース』
なんとも綺麗な皿。レフォール(フランスの野菜でパンテルさんは白ワサビと説明)の淡いクリーム色にビーツの鮮やかな赤紫。食べ進むうちに、混ざった時のピンクの色合いも美しい。
テリーヌはほとんど味付けされておらず、後から軽く塩・コショーをほどこされている。そのことで牛タンの香り、下仁田ネギの甘みなどがダイレクトに味わえ、すべての味わいが口の中で一体となって楽しめる。
ビーツの酸味、レフォールの軽い刺激、コショーの刺激、岩塩の一瞬のからさ。すべてが軽く、皿のビジュアル・イメージの繊細さを裏切らない。かといって味は十分についていて満足感は高い。
軽快で力があり、知的な刺激もあって、とても興味をそそるスターターだといえる。
●スープ『牛蒡のカプチーノ仕立て、ブールノワゼット、ケイパー入り』
牛蒡と聞いて泥臭さを一瞬イメージしたが、これは言わば洗い牛蒡の清潔さ、清々しさを思わせる品のいいスープ。
塩気も十分利いて、ケイパーやバターの香りも重なって、かなりのパンチ力のある飲み口になっている。牛蒡の香りの良さだけを抽出して、田舎臭さを削ぎ落とした大変にスマートな一皿。
濃い味で少量のため、浮身も最後までカリカリのまま。計算の行き届いた興奮を誘う味だ。
●メイン『のど黒のポワレ、シュペッツレ、大原の野菜添え』
ほかの皿に比べメインの見掛けは平凡だが、さにあらず。のど黒の下にシュペッツレというものが隠されている。ちょっと変わっているので、尋ねてみると、ドイツの料理でパスタ風のもの。ジビエ料理に添えられることが多いという。4、5mmの太さの短いもので、本来茹でるもののようだけど、ここではフライパンを使い、低い温度で気長に火を入れてていた。なかにはフロマージュ・ブランが入ってるそうだ。味は譬えは悪いが天ぷらの衣に近い。
このシュペツツレが使われているのは、のど黒を「内臓と赤ワインのソース」でジビエ料理風に作りたいという発想から生まれたという。ちゃんと伝統にのっとったオリジンがあってのヴァリエーション。34歳とまだ若いパンテルさんだが、料理を創り出すバックボーンがしっかりしていることが分かる。
のど黒はしっかり脂の乗った冬の魚ならではの旨みが堪能できる。柔らかなしっとりふっくらした身の食感を活かすためだろう、ポワレにありがちな、皮をパリパリに焼くということを避けている。例のシュペッツレも箸(フォーク?)休め、淡いなかでの味の濃淡が楽しめる。魚の内臓のソースとも相性がよく、皿のまとまりを良くしているようだ。
そして、ソースは内臓の旨さだけが引き出され、澄んだ味わいのまま奥行きの深い濃厚さに導いている。赤ワインは酸味の弱いものを選んでいると思われる。あくまでのど黒の内臓がソースの主役と考えてのことだろう。深みを添える役割に徹している。全体として、和食の品のいい煮付を思わせる出色の味。魚の旨さを活かしきった、なかなかの傑作だと思った。
野菜は大原の地のもの。菜の花、蕪、芽キャベツなど、どれも素材そのものが力を持っていて、香りや味が詰まっている。付け合わせではあるけれど、美味しさの記憶が印象に残る。
●デザート『栗のミルフィーユとメープルシロップのアイスクリーム』
これまた傑作。ミルフィーユのフィユタージュの薄くて軽いこと。製法を聞かなかったけれどフィヤンティーヌと呼ぶべきものかもしれない。表面は軽くカラメリゼされている。
マロンクリームにはウィスキーが入り、マロングラッセも入っている。軽いくせに濃厚。繊細だけどダイナミック。一口か二口で入ってしまうほどの大きさなのだが、力強い味わいに陶然となる。
アイスクリームにもたっぷりとウィスキーが入り、濃厚な味わい。下にはクリームが溶けないようにとの配慮でクランブルが敷かれている。このサクサク感がさらにクリームを美味しく感じさせるのだから、巧みな計算。隅々まで神経が行き届いている。
それにしても、たまたまなのにパイに出会うとは「パイ運」がいい。
皿数の多い3990円のコースはデザートがパルフェのようだったから、安い方を選んで大正解。ついている。こちらの嗜好を伝えているわけでもないのに、ここのところ連続ヒット。嬉しいかぎり。
●プチフール『ココナツのロシェ ピスタチオチョコレートのカラメル』
最後まで気の利いた一皿。ココナツのロシェにもチョコレートが少し入っていて、味に統一感がある。ロシェ(岩)にしてはふんわりした焼き上がりだけど、ココナツの香りが生きていて楽しめる。カラメルの口溶けの素晴らしさも気持ちがいい。食後の口直しだから、一瞬の楽しみであってほしいが、その望みにぴったりの「消える菓子」、なかなかいい仕上げだと思う。
(飲み物はエスプレッソまたは紅茶)
わずか5つの皿を経験しただけで言うのもおこがましいが、パンテルさんの料理には大袈裟に言えば思想を感じる。ホテル・ネグレスコ、グランヴェフールなど名だたる店での研ぎ澄まされた経験と、何代にも渡って受け継がれてきている料理人達の重層的な知識。それらの豊かなバックボーンがあって、いま京都で仕事をし、大原と小浜の産物を料理する。
曲げてはいけないもは曲げない。歴史に学ぶべきことは、そのまま踏襲する。伝統に深く根ざした発想をするけれど、現実に手にはいる美味しい材料を一番美味しく料理する創造の道は? このシンブルな課題に正面から立ち向かっているように感じた。料理の場面ごとに、強い意思を働かせているのだろう。料理が毅然としている。
それにしてもkezakoとは不思議なネーミング。聞いてみると出身地プロヴァンスの訛りで「ケスクセ?(何ですか)」という意味だとか。keは本来queと綴られるべき言葉のようだ。
これはパンテルさんがフランス料理を肩の力を抜いて食べてもらいたいと考えたことから付けられたものだという。レストランではサービスがお客さんにプレッシャーを与えている。それは嫌だし、自分の料理はビストロ料理でもない。だったら「何ですか?」ということらしい。「けざこ」という響きが日本語のようでもあるから、京都で作るフランス料理にふさわしいと考えたのだそうだ。なんとも楽しい名前。作る方も好きで楽しんで作っているから、お客さんにはニコニコ笑って、楽しんで食べてもらいたいと考えているとのこと。
パンテルさんの狙いは、客側としても本当に歓迎すべき方針。笑いも味のうち。片頬だけでも笑えば倍は美味しくなるというもの。これは何度も通って笑い皺を作ってでも、パンテルさんの笑い、じゃなかった、冴えのある華のある料理を味わい尽くしたくなった。
●「デジュネ2940円コース」ほかに3990円、5250円。ディナーは5250円、8400円、12600円。
メニューは置かれていない。すべてシェフのお任せ。値段ごとに皿数が異なる。
●「kezako」( ケザコ)
京都市東山区祇園町南側570-261 TEL075-533-6801 定休日/水曜
※ブログ「パイ日和・おまけ」(http://pie-omake.at.webry.info/)、はじめました。よかったら、どうぞ。
オブロン氏がオーストリアに去った後、同じ店鋪で店名を「クーランデルブ」と改め、シェフに就任していたのだけど、今年1月に店をいったん閉め、慎重に物件選びをした結果、この12月6日プレ・オープン、13日全面オープンとなった。薦める人があったので早々にのぞいて見た。
1階のカウンター席を利用したが、現代的なシャープなインテリア、機能的なキッチンに所々和の柔らかなテイストが加味され、居心地のいい空間になっている。
使用される器はおもに、パンテルさんがフランスで直接買い付けてきたもの。フォーマルな感覚ではなく、すべて遊び心を感じさせるモダンデザイン。ここからもリラックスした空気が漂ってくる。
●前菜『牛タンと下仁田ネギのテリーヌ、レフォールとビーツのソース』
なんとも綺麗な皿。レフォール(フランスの野菜でパンテルさんは白ワサビと説明)の淡いクリーム色にビーツの鮮やかな赤紫。食べ進むうちに、混ざった時のピンクの色合いも美しい。テリーヌはほとんど味付けされておらず、後から軽く塩・コショーをほどこされている。そのことで牛タンの香り、下仁田ネギの甘みなどがダイレクトに味わえ、すべての味わいが口の中で一体となって楽しめる。
ビーツの酸味、レフォールの軽い刺激、コショーの刺激、岩塩の一瞬のからさ。すべてが軽く、皿のビジュアル・イメージの繊細さを裏切らない。かといって味は十分についていて満足感は高い。
軽快で力があり、知的な刺激もあって、とても興味をそそるスターターだといえる。
●スープ『牛蒡のカプチーノ仕立て、ブールノワゼット、ケイパー入り』
牛蒡と聞いて泥臭さを一瞬イメージしたが、これは言わば洗い牛蒡の清潔さ、清々しさを思わせる品のいいスープ。塩気も十分利いて、ケイパーやバターの香りも重なって、かなりのパンチ力のある飲み口になっている。牛蒡の香りの良さだけを抽出して、田舎臭さを削ぎ落とした大変にスマートな一皿。
濃い味で少量のため、浮身も最後までカリカリのまま。計算の行き届いた興奮を誘う味だ。
●メイン『のど黒のポワレ、シュペッツレ、大原の野菜添え』
ほかの皿に比べメインの見掛けは平凡だが、さにあらず。のど黒の下にシュペッツレというものが隠されている。ちょっと変わっているので、尋ねてみると、ドイツの料理でパスタ風のもの。ジビエ料理に添えられることが多いという。4、5mmの太さの短いもので、本来茹でるもののようだけど、ここではフライパンを使い、低い温度で気長に火を入れてていた。なかにはフロマージュ・ブランが入ってるそうだ。味は譬えは悪いが天ぷらの衣に近い。このシュペツツレが使われているのは、のど黒を「内臓と赤ワインのソース」でジビエ料理風に作りたいという発想から生まれたという。ちゃんと伝統にのっとったオリジンがあってのヴァリエーション。34歳とまだ若いパンテルさんだが、料理を創り出すバックボーンがしっかりしていることが分かる。
のど黒はしっかり脂の乗った冬の魚ならではの旨みが堪能できる。柔らかなしっとりふっくらした身の食感を活かすためだろう、ポワレにありがちな、皮をパリパリに焼くということを避けている。例のシュペッツレも箸(フォーク?)休め、淡いなかでの味の濃淡が楽しめる。魚の内臓のソースとも相性がよく、皿のまとまりを良くしているようだ。
そして、ソースは内臓の旨さだけが引き出され、澄んだ味わいのまま奥行きの深い濃厚さに導いている。赤ワインは酸味の弱いものを選んでいると思われる。あくまでのど黒の内臓がソースの主役と考えてのことだろう。深みを添える役割に徹している。全体として、和食の品のいい煮付を思わせる出色の味。魚の旨さを活かしきった、なかなかの傑作だと思った。
野菜は大原の地のもの。菜の花、蕪、芽キャベツなど、どれも素材そのものが力を持っていて、香りや味が詰まっている。付け合わせではあるけれど、美味しさの記憶が印象に残る。
●デザート『栗のミルフィーユとメープルシロップのアイスクリーム』
これまた傑作。ミルフィーユのフィユタージュの薄くて軽いこと。製法を聞かなかったけれどフィヤンティーヌと呼ぶべきものかもしれない。表面は軽くカラメリゼされている。マロンクリームにはウィスキーが入り、マロングラッセも入っている。軽いくせに濃厚。繊細だけどダイナミック。一口か二口で入ってしまうほどの大きさなのだが、力強い味わいに陶然となる。
アイスクリームにもたっぷりとウィスキーが入り、濃厚な味わい。下にはクリームが溶けないようにとの配慮でクランブルが敷かれている。このサクサク感がさらにクリームを美味しく感じさせるのだから、巧みな計算。隅々まで神経が行き届いている。
それにしても、たまたまなのにパイに出会うとは「パイ運」がいい。皿数の多い3990円のコースはデザートがパルフェのようだったから、安い方を選んで大正解。ついている。こちらの嗜好を伝えているわけでもないのに、ここのところ連続ヒット。嬉しいかぎり。
●プチフール『ココナツのロシェ ピスタチオチョコレートのカラメル』
最後まで気の利いた一皿。ココナツのロシェにもチョコレートが少し入っていて、味に統一感がある。ロシェ(岩)にしてはふんわりした焼き上がりだけど、ココナツの香りが生きていて楽しめる。カラメルの口溶けの素晴らしさも気持ちがいい。食後の口直しだから、一瞬の楽しみであってほしいが、その望みにぴったりの「消える菓子」、なかなかいい仕上げだと思う。(飲み物はエスプレッソまたは紅茶)
わずか5つの皿を経験しただけで言うのもおこがましいが、パンテルさんの料理には大袈裟に言えば思想を感じる。ホテル・ネグレスコ、グランヴェフールなど名だたる店での研ぎ澄まされた経験と、何代にも渡って受け継がれてきている料理人達の重層的な知識。それらの豊かなバックボーンがあって、いま京都で仕事をし、大原と小浜の産物を料理する。
曲げてはいけないもは曲げない。歴史に学ぶべきことは、そのまま踏襲する。伝統に深く根ざした発想をするけれど、現実に手にはいる美味しい材料を一番美味しく料理する創造の道は? このシンブルな課題に正面から立ち向かっているように感じた。料理の場面ごとに、強い意思を働かせているのだろう。料理が毅然としている。
それにしてもkezakoとは不思議なネーミング。聞いてみると出身地プロヴァンスの訛りで「ケスクセ?(何ですか)」という意味だとか。keは本来queと綴られるべき言葉のようだ。
これはパンテルさんがフランス料理を肩の力を抜いて食べてもらいたいと考えたことから付けられたものだという。レストランではサービスがお客さんにプレッシャーを与えている。それは嫌だし、自分の料理はビストロ料理でもない。だったら「何ですか?」ということらしい。「けざこ」という響きが日本語のようでもあるから、京都で作るフランス料理にふさわしいと考えたのだそうだ。なんとも楽しい名前。作る方も好きで楽しんで作っているから、お客さんにはニコニコ笑って、楽しんで食べてもらいたいと考えているとのこと。
パンテルさんの狙いは、客側としても本当に歓迎すべき方針。笑いも味のうち。片頬だけでも笑えば倍は美味しくなるというもの。これは何度も通って笑い皺を作ってでも、パンテルさんの笑い、じゃなかった、冴えのある華のある料理を味わい尽くしたくなった。
●「デジュネ2940円コース」ほかに3990円、5250円。ディナーは5250円、8400円、12600円。
メニューは置かれていない。すべてシェフのお任せ。値段ごとに皿数が異なる。
●「kezako」( ケザコ)
京都市東山区祇園町南側570-261 TEL075-533-6801 定休日/水曜
※ブログ「パイ日和・おまけ」(http://pie-omake.at.webry.info/)、はじめました。よかったら、どうぞ。