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zoom RSS ●特集18/とびっきりのショソン、ふたつ。「ロトス洋菓子店」と「ラ・フルネ」

<<   作成日時 : 2016/04/01 10:28   >>

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林檎のパイ、『ショソン』。
パンオショコラと並んで、日常的で気楽なおやつの代表ですね。サクッとした歯切れの良さと、リンゴの甘酸っぱさにバターの香りが広がればなにも言う事なし。
私も、なーんにも考えないでパクッといく普段着感覚が気に入っています。ハラペコ族の強い味方。
のはずですよね?

ところが、若手のご両人、「ロトス洋菓子店」の木村良一シェフ(1979年生)と「ラ・フルネ」の春日崇宏シェフ(1984年生)は、ショソンを特別の存在に仕立て上げたのです。
焼きっぱなしの簡単なおやつではなく、手を掛けて作り上げるプチガトー感覚、と云ったら大袈裟でしょうか(もちろん彼らも気軽に食べて欲しいとは思いますが)。
いずれも、以前にご紹介したのですが、ここでもう一度取り上げ、比較しながら語りたいと思います。なにしろ、とっても記憶に残るショソンだったのですから。



※再録
「ロトス洋菓子店」の『ショソン オ ポム』 10.5×7cm 高さ5cm 90gほど。
画像
おっ、ショソンだ。しかも大きいなぁ。
ふっくらよく浮いたフィユタージュ。奇麗な焼き色。惚れ惚れしますね。

まったく別物に見えてしまいますが、じつはあの名品『ミルフィーユ』と同じ生地。
あちらは極力浮きを抑えるために、たしか鉄板を載せて焼いたもの。この抑える塩梅は、最終的にどんなミルフィーユにしたいかによって、シェフによってじつに様々。
ショソンの場合は逆に、自由に浮かせています。中に水蒸気を発生させるリンゴを包んでいるので、よけいに浮いているでしょうね。

手に持って、パクッといきましょか …… サクッサワ、サクッ! リズミカルな音の心地よさ。
わぁお! なんて美味しいのでしょう。
じつに、香りの高いフィユタージュです。芳醇なバターの香り、粉の焼けた香しさ。ふふっ、美味しすぎるっ!!

ふうぅぅ、もうこれだけで陶〜然となってしまったのです。いつも使っている豊満なんて言葉ではとても足りない、グラマラス、ゴージャスといった肉感的な部分を内蔵しながら、精神的な至福に至るような清潔さに覆われているのです。
新ためて、木村シェフのフィユタージュ生地の腕の良さに、ほとほと感心。“名手”です。


画像もちろん、包まれているフィリングがまた、素晴らしい。
リンゴ(紅玉)はポートワインで煮込まれていて、とても深い味わい。とろとろねっとり。角の取れた力強い酸味と柔らかなタンニンの渋みが、奥行のあるコクを作り出しています。
これはもうジャムの域を超えたエッセンスというべきもの。料理人がソースにその料理の精髄を込めるように、全身全霊の力がこもった輝きのある味わいだと云えるでしょう。

それから、リンゴを包み込んでいるのが濃い黄色のクレームダマンド。ヴォリューム感が出ると同時に、生地に負けないリッチな味わいへ。いつもながらのごくごく普通の、定番のダマンドなのに、彼が作るととても美味なのだなぁ、これが。


画像パイとリンゴとダマンド。この3つが息づくように響き合って、一口もう一口と、私を深みへと誘惑します。
生地もフィリングもオーソドックス。奇を衒ったところはなく、あくまでオーソドックス。
が、しかし。一つひとつ石に刻み付けるような丁寧な仕事(彼の持ち味でもあります)をすることで、もう誰も真似できないような領域に突入した感があります。ほとんど工芸職人のような精神性に到達しているのではないでしょうか。

これまで数々のショソンオポムを食べて来ましたが、なかでも屈指のすぐれもの。
いゃあ、決して忘れられないものになると思います。私たち二人、ずっと語りつづけるでしょうね、きっと。お見事でした!




※再録
「ラ・フルネ」の『ショーソンポム』   11.8×8.2cm 高さ4cm 90gほど。
画像
おぉ、迫力満点の姿、そして焼き色、いいですねぇ。

ドリュールが色濃く焼けていて、トラブリを使っているのかと思ったら、黄身だけだとのこと。
それだけで焼き込みの思い切りの良さに、ホホオーッと感心したものです。
でも驚くのはまだ早かったのです。

一口パクリと行った瞬間 ……、わぉ美味しいっ! 
しかも、あえなくサラサラ〜と崩れてしまう生地の繊細さ。目が丸くなってしまいました。
ほんとうに、サラサラ〜サラサラ〜サラサラ〜〜! 

これほどの繊細さはちょっとやそっとではお目にかかれません。
アンヴェルセの食感ですが、薄力粉で同じ食感を狙ったさっぱり感もありますねぇ。

ふうむ、どっちだろう(後日確認して分かったのは、フランスパン用の中力粉に少し薄力寄りの粉を加えた配合、アンヴェルセ風にバターにも粉を加えるけれど、包み方は普通折りと同様にバターを生地で包むという方法。当たらじといえども遠からじ、でしたね)。


画像中には白ワインで煮たリンゴのコンポート、大きな櫛形のものがゴロンと一つ。ダマンドを敷いています。

このコンポートのトロッとした食感、白ワインの風味もよく利いていて、満足感が高いですね。普通のジャムレベルだったら生地のあまりにも高いレベルに位負けしていたところでしょうが、十分に対抗できています。ダマンドも量は多くないのですが、味わいを豊かにしてくれています。

素晴らしい。ちょっと圧倒されてしまいました。
ふうむ、ため息をつくのはもう2度目ですね。じつに、お見事です!




二人ともまだ30代の若手ですが、いずれ劣らぬパイ名人。フィユタージュへの思い入れは並々ならぬものがあります。
木村さんがどちらかというとしっかりグルテンを出して強い食感を出しつつ、はかなく崩れる頃合いを追求しているのにたいし、春日さんはどこまでも繊細にサラサラ〜とほどける滑らかさという、パイに似つかわしくない言葉まで使いたくなるほどの食感を現出しています。

そして、あまりにも生地の存在感が大きいので、フィリングもそれに負けじと個性を強くせざるを得ないのでしょう。
お互い自分の生地の個性を知り尽くしていて、リンゴの味わいを強くする方法がそっくりなのに、微妙な差が生まれているのです。
食感の強さが求めたのはポートワインの赤、繊細さが求めたのは白ワイン。
そして補助するダマンドの味の濃さと量にも差が出たという次第。

どちらもショソンとしてはやや高めの価格設定ですが、食べた時の驚きと、心が震えるような歓びを考えれば、妥当です。おそらく原価から算出した適正な価格設定と云うレベルであって、手間暇やオリジナリティーに対する価格は上乗せされていないように感じます。もっとチップをはずみたくなるほどと云ってもいいでしょう。

この2つのショソンが成功しているのは、当たり前を当たり前で終わらせない追究の精神。今すでにトップクラスの欲求を抱えているから、こういう素晴らしい創作が出来るのだとは思います。
さらに偉大さに向かうために、お菓子の世界に止まらない食の体験、幅の広いアート体験を積むことによって、枯れない欲求を保ちつづけて欲しいですね。今後、彼らの手からどんなお菓子が跳び出して来るのか愉しみです。


                  *   *   *   *   *


はてさて。今日4月1日はエイプリルフール。
「日本パイ協会」としては、『ポアソンダブリル』をご紹介したかったのですが、なかなか作っておられるところは少ないようですね。
まっそれはさておき。上記の原稿には、林檎のように真っ赤な嘘が散りばめられていたりして…。
さあ、嘘か真か、マコトかウソか。まずはご自分の五感を信じて、味わってみてくださいね。むふふふふっ。



●『ショソン オ ポム』450円 (※内税)
●「ロトス洋菓子店」
  京都市下京区烏丸通松原上ル因幡堂町699  TEL075-353-2050  定休日/月曜・火曜  営業時間/12:00〜19:00

●『ショーソンポム』340円   (※外税)
●「ブーランジュリー・パティスリー ラ・フルネ」
  大阪市西区土佐堀1-4-2  TEL06-6147-5267  定休日/月曜・他不定休  営業時間/10:00〜20:00

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