パイ日和

アクセスカウンタ

zoom RSS ●特集3/2011年梅雨雑感「何故、梅ではなく杏なのですか?」アプリコットのお菓子、集めてみました

<<   作成日時 : 2011/06/11 23:12   >>

トラックバック 0 / コメント 0

走り梅雨かなと思っていたら、平年より2週間ほども早く入梅、雨模様の天気が続いています。
さて。6月の声を聞くと、スーパーにも青梅が並び、梅酒作りのセットも置かれています。下旬からは、熟した梅で梅干しの用意。
これほど季節をはっきり感じさせる果物も少ないのではないでしょうか。私は熟した梅を炊いて、小皿にコロンと載せ砂糖をかけて食べる煮梅が好き。この季節には欠かせない味わいです。
この煮梅を食べて思うのは、“味わいがほとんど杏と同じ”ということ。
梅は日本を代表する果物で、しかもケーキに多用されている杏そっくり。なぜケーキに使われないのだろう? まったく使われないわけではありませんが、ごく稀。あってもショーケースの片隅に追いやられています。

ジャン=リュック・ムーランさんにこんな話を聞いたことがあります。
フランスのリンゴは形が小さくて、櫛形に切り分けてスライスすると、アリュメットにしてもタルト型にしてもそのまま大きさがぴったり納まるし、味の強さもバランスが取れる、と。
素材とケーキの作り方が不即不離、肩肘張らずに簡単に安く出来てしかも当たり前に美味しくできる。家庭の味の延長に、お店の洗練の味があるのですね。
それにたいして梅は、ムーランさんが日本のリンゴは大きすぎるといっていたのと反対に、小さすぎるのでしょう。小さくて処理が面倒、水気も多すぎる、使いにくいのかなぁ、やっぱり。

今宵は、せめて杏を使った名品を思い浮かべて、梅と置き換えることを想像してみました。
杏色の雨夜の品定めです。



まずは、アプコットのタルト(タルトアブリコ、杏のタルト)から。
●「ラトリエドゥマッサ」の『タルトアブリコ』。
画像
華やいだ美しさがありますね。
アーモンドの大きなダイスのカリッカリッした食感も面白い。
杏の甘さの方を強調したようなタルトで、パートシュクレもたっぷりした甘さ。
アーモンドの存在感がなければ、やや平凡に終っていたかもしれません。
アーモンドによって、杏のほのぼのとした美味しさがクローズアップされる仕掛けです。



●「ラピエールブランシュ」の『タルトアプリコット』。
画像
焼き上がりの色のコントラストの見事さ。
もうそれだけで惚れ惚れ。
アブリコの味の鋭さはあまり感じられず、こちらとしてはやや平凡に流れているきらいはありますが、名手白岩さんにはどうしても求めるものが高くなっていますからね。
それにしても、いつもながら焼きっぱなしのタルトの肩の力の抜けた良さ。そこに惹き付けられます。



●「ムーラタルト」の『杏のタルト』。
画像
こちらはオープンキッチンなので、お店は素材の良さ、扱いの良さを物語る幸せな香りに包まれています。
このタルトもアブリコの上に、たっぷり載せたカソナードと醗酵バターの溶けたジュがシュクレに染み込んで、結果としてカラメリゼされた生地の香りの良さに陶然とします。
天板にこぼれたジュを一度捨てて、なおかつ瑞々しくジューシーな杏の魅力もたっぷり。



●「パティスリー プー(Pooh)」の『杏のパイ』。
画像
フレッシュの杏を使った、鮮烈な味わいが何よりの魅力。
ということで、ほんの2週間ほどしか作らない、いえ、作れないパイ。
バンドタイプのフィユタージュに、ほんのりラムが香るダマンド、杏、アーモンド粒。しっかり焼き込んで杏の酸味が“すっぺ〜”と叫びたくなるほど強烈に抽き出されていて、まったく臆することなく、その清々しさで勝負。
力強い味わいに、フィユタージュを合わせたのも正解でしょう。



●「J・L ムーラン」の『タルトアブリコピスターシュ』。
画像
ダマンドにたっぷりピスタチオのプードルが入っています。
温和な美味しさを追求するムーランさん。
マイルドな酸味のアプリコットにサクサクとした標準的な甘さのシュクレを合わせています。
そこへ少し力強さを持ち込んだのが、ピスタチオ。
ナッツの豊満な風味がぷわーんと漂い、無理なくアプリコットと調和。これだけ香らせて邪魔にならないのが不思議です。





杏はタルトに使われるばかりではありません。いろいろな使い方があります。まずパウンドから。
●「YOSHIKAWA(お菓子の店ヨシカワ)」の「杏のパウンド」。
画像
「イル・プルー」の師範なので、弓田流。
ドライの杏と、杏のリキュール入りのシロップとキルシュを多用。杏一辺倒にしないところがいかにも。
鋭角的な酸味と甘い美味しさを同居させ、濃厚な味わいを飽きさせません。
バターたっぷりの濃厚な生地なのにサラリと溶けるところも特筆すべきでしょう。





セミドライの杏を戻してコンカッセにして使っているのは、
●「COCON(ココン)」のその名も『アプリコット』。
画像
チョコスポンジにチョコのムース。そして、セミドライのアプリコットをカソナードで炊いものをコンカッセにしてピュレと合わせたもの。
その上に、ほのかに杏仁の香りのムース。
トップは杏のナパージュ。
杏のさまざまな表情とチョコレートの対比が安定していて、誰にでも愛されるであろう、優しい杏の味わいの中で、コンカッセで存在感を主張しています。




逆に、酸味を強烈に主張するのは、
●「ラヴィルリエ」の『テメレール』。
画像
“向こう見ずな”という意味。
それほど酸っぱいということ。土台とトップはシュクセ、土台の中央に杏とオレンジのジュレ、それをカラメル風味のバタークリームで覆っています。
こちらはアグレッシブであることが存在意義のようなお店ですから、酸味だけでなく、カラメルの苦味(オレンジからも来ているかも)も強烈。
合わさるとかなりなことになって……まさに『テメレール』。
でも、杏の鮮烈な味わいが印象に残ることは間違いありません。




いろいろな意味で熟した使い方なのは、
●大ベテラン「H.スミノ」の『アブリコ ロゼ』。
画像
ロゼは熟した杏の色をイメージした言葉。
トップの様が、熟した色合いを表現しています。
なかはチョコプレートで覆われて見えなくなっていますが、すっと線をひいたような美しい層。隠れたところまで、つい自慢で見せたくなります。
ビスキュイピスターシュが3層、それぞれの上に杏のクリーム。
いつもながらの濃厚な味わいですが、生地の美味しさをベースに落ち着いた味わいが同居させているところが光ります。





杏を副材料として使って、お菓子に生彩を与えているものを揚げてみましょう。
●「W.ボレロ」の『ザッハトルテ』。
画像
所謂定番通りの作り方のようですが、杏ジャムの使い方が日本では過剰かも。
渡邊シェフはつねにギリギリ過剰な味わいを品よくまとめる異能の持ち主ですから、この使い方も納得。
自分のザッハはこれだ! 
と主張する決め手となっています。





●「シャルルフレーデル」の『プララン』。
画像
ガトーピレネーの生地に触発された生地と自家製プラリネクリームを交互に重ねた重厚な味わいのケーキ。
そのトップに杏のナパージュ。
ほんのわずかなことなのです。
が、乾燥を防ぐだけでなく、味わいが立体的、鋭角的になり、まさにエッジの利いた味わいなのです。
苦味と酸味の危険な組合わせともとれますが、ベースの落ち着いた甘みに支えられてまったく違和感なく決まっています。




●「マウンテン」の『ショコラ ピエール』。
画像
石ころに見立てたチョコレート。
ガナッシュにカバーチョコをかけたトリュフです。
ドーバー社のアルザスアブリコを使っていて、一瞬、本物の杏? と思うほど心地よい香りに満たされます。
これほどリキュール使いの上手いチョコレートは少ないですね。






杏の魅力は名手がさまざまに手を尽して、美味しさの諸相を見事に剔出してくれています。
これだけの努力が梅にたいして行われ、各店が梅の名品を持つようになったとき、日本の洋菓子業界が本当の意味で地に足を着けたと云えるのではないでしょうか。
どんどん旬の味が失われて行く今、旬の時期だけに出回り、しかもちゃんと安値のものが出る、季節の喜びを満喫できる唯一といっていい果物なのですから。
パティシエの皆さん、我こそはと思う方、小粒で面倒でも“梅”にトライしてみてくださいよ。“青梅”“梅酒風味”“青梅ジュース・シロップ”というヴァリエーションもありますしね。
鶴首して待っていまーす!

※ご紹介したアプリコット菓子の情報は、ブログにアップした時点のものです。すでに製造していなかったり、価格も変わっているかもしれません。ご了承くださいませ。



テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

●特集3/2011年梅雨雑感「何故、梅ではなく杏なのですか?」アプリコットのお菓子、集めてみました パイ日和/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる